【神奈川で時間旅行】秋の伝統芸能2023 薪能、山北のお峰入り、人形浄瑠璃文楽
2023年秋も、神奈川県内でさまざまな伝統芸能の公演が催されました。かがり火をともした舞台で奉納する薪能や、ユネスコ無形文化遺産の登録を記念した民俗芸能など。人形浄瑠璃文楽は、文楽協会創立60周年記念公演の様子をお届けします。
トップ画像:©青木信二
奈良・京都に次ぐ 長い歴史の鎌倉薪能
「鎌倉薪能」は、1959年の第1回から半世紀以上続いている神事能です。会場の鎌倉宮 は1869年に明治天皇の勅命により創建された神社で、通称「大塔宮(おおとうのみや/だいとうのみや)」。後醍醐天皇の皇子である護良親王(もりよししんのう/もりながしんのう)を御祭神としています。
65回目の今年は、5年ぶりに野外の特設能舞台や一般観覧席が設けられました。
演目 は、特別な公演のときにしか上演されない祝福の曲、素謡「翁」。三人が六体の地蔵に扮する、混乱と笑いが魅力の狂言「六地蔵」。曲舞 (くせまい) ・羯鼓(かっこ)・小歌の芸に緊迫感あふれる禅問答が見どころの能「放下僧」の3作です。
日が暮れた鎌倉の杜で虫の音とやわらかな風を感じながら、野趣あふれる鑑賞が楽しめる鎌倉薪能。能楽界を代表する演者を招き、今年も見応えのある一夜になりました。
【第65回鎌倉薪能】
・日時 2023年10月6日(金)18:00~20:30 ※終了しました
・会場 鎌倉宮・特設舞台〔神奈川県鎌倉市二階堂154〕
・演目 素謡「翁」 金春 憲和(シテ方 金春流 81世宗家)
狂言「六地蔵」 野村 萬斎(狂言方 和泉流)
能 「放下僧」 金春 安明(シテ方 金春流 80世)
・Webサイト こちら
2日間にわたる熱演 大山火祭薪能
伊勢原市の大山阿夫利神社 で、毎年10月初旬の2日間で行われる「大山火祭薪能」。300年ほど前に誕生した大山能が始まりといわれる芸能神事は、伊勢原市の重要文化財にも指定されています。
大山の自然を従えた能楽殿に、はかま姿の巫女(みこ)が御神火を捧げる と舞台を照らすようにかがり火が灯ります。豊かな木々の緑を背に趣のある空間が整えば、大山の秋の風物詩・火祭薪能の準備は万端。42回目となる今年は10月3日、4日のうち、2日目があいにくの雨になりましたが、両日共に多くの人が訪れて 幽玄な世界に酔いしれました。
【第42回大山火祭薪能】
・日時 2023年10月3日(火)、4日(水)16:30~19:30 ※終了しました
・会場 大山阿夫利神社社務局 能楽殿〔神奈川県伊勢原市大山355〕
・演目:初日(10月3日)
能 「葵上」 観世 清和
狂言「惣八」 山本 東次郎
「一人翁」 観世 三郎太
仕舞「道灌」 上田 公威
「天鼓」 松木 千俊
2日目(10月4日)
能 「清経」 観世 三郎太
狂言「附子」 山本 則重
「一人翁」 山階 弥右衛門
仕舞「道灌」 角 幸二郎
「網之段」 浅見 重好
・Webサイト こちら
ユネスコ登録で伝統継承 山北のお峰入り
「山北のお峰入り」は、神奈川県西部の山北町共和地区に古くから伝わる国の重要無形民俗文化財に指定された民俗芸能です。2022年11月に地域の歴史と風土を反映し続ける風流踊(ふりゅうおどり)の一つとしてユネスコ無形文化遺産 への登録が決まり、今年の10月8日に記念公演が開かれました。
山中での修験道の儀礼を芸能化したものと考えられていて、直近の160年余りでたった20回しか行われていません。棒踊り、道行、みそぎなど8種類11演目の演技は全て口伝えで受け継がれています。21回目の今回は、天狗(てんぐ)・獅子・おかめ・山伏・太鼓・笛などの役を小学生からご年配まで80人以上の男性が務め上げて 、新たな歴史を刻みました。
【山北のお峰入り 記念公演】
・日時 2023年10月8日(日)
セレモニー 9:10~9:40/記念公演 9:50~11:00 ※終了しました
・会場 山北町立川村小学校グラウンド〔神奈川県足柄上郡山北町山北1002〕
・Webサイト こちら
【「カナガワ リ・古典プロジェクト」での道行き、公演】
・日時 2024年2月11日(日・祝)
「道行き」 11:30~12:00 /公演 14:00~
・会場 「道行き」海老名駅自由通路〔神奈川県海老名市めぐみ町3-3〕
「公演」 海老名市文化会館〔神奈川県海老名市めぐみ町6-1〕
・Webサイト こちら
生命感を注ぎ込む妙技 人形浄瑠璃文楽
10月15日に、こちらもユネスコ無形文化遺産で日本が世界に誇る古典芸能「人形浄瑠璃文楽」の公演がありました。文楽協会創立60周年を記念した全国巡演で、神奈川県では横浜市にある神奈川県立青少年センターで昼と夜の2公演が行われました。
私が鑑賞した夜の部は、「桂川連理柵(かつらがわれんりのしがらみ)」という庶民の世界を題材にした世話物(せわもの)と呼ばれる作品。男女の恋愛事情が複雑に絡む展開なので、売店でパンフレットを購入して予習をしながら開演を待つことに。
人形浄瑠璃文楽は、登場人物のセリフから感情、場面展開までを自在に語り分ける太夫(たゆう)、その隣に座って、情景や心理などを音色で表現する三味線弾き(ひき)、さらに、人形遣い(つかい)によって成り立つ、大人が楽しめるあやつり人形劇です。太夫・三味線弾き・人形遣いの「三業(さんぎょう)」が息を合わせることで、人形に命が吹き込まれて作品が生き生きと動き出します。
幕が上がると正面で人形と人形遣いが立って演技をし、右側の「床(ゆか)」と呼ばれるサブステージで太夫と三味線弾きが正座をして、時に身を乗り出して声や三味線の音色で語り進めます。今回は客席との距離も近く、見応えも十分でした。
人形は実際に見ると、かしらが小さくて手足が長く、想像よりも大きくて迫力があります。かしらと右手を受け持つ主遣い(おもづかい)と左手を担う左遣い(ひだりづかい)、足で表現する足遣い(あしづかい)と、3人の人形遣いが1体の人形をしなやかに遣っていて見とれるほど。伝統芸術の魅力と歴史に裏付けされた奥深さを感じる瞬間です。
今回の公演では皮切りに太夫があらすじを中心とした解説を行い、公演中も舞台左手に電光の字幕が用意されていました。また、ロビーでは、見せ場を撮影したパネルや作品動画など人形浄瑠璃文楽の紹介展示もあり、古典芸能を身近に感じることができました。
【文楽協会創立60周年記念 人形浄瑠璃文楽】
・日時 2023年10月15日(日)昼の部 13:00開演、夜の部 17:00開演 ※終了しました
・会場 神奈川県立青少年センター 紅葉坂ホール〔神奈川県横浜市西区紅葉ケ丘9-1〕
・演目 (昼の部)解説〔あらすじを中心に〕
義経千本桜(よしつねせんぼんざくら)
椎の木の段、すしやの段
(夜の部)解説〔あらすじを中心に〕
桂川連理柵(かつらがわれんりのしがらみ)
六角堂の段、帯屋の段、道行朧の桂川
・Webサイト こちら
文/志村麻衣(編集ライター)