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アート

築140年! 古民家で”お気に入り”の現代作家を見つける

築140年! 古民家で”お気に入り”の現代作家を見つける

Kanagawaギャラリーさんぽ
File.2 studiofujino
山本詩野/ギャルリーワッツ)

今回は神奈川県相模原市と東京都八王子市にまたがる陣場山方面におさんぽです。
おさんぽというより、ドライブを楽しむショートトリップ。中央道の相模湖インターで降りて、山を上る道すがら、登山を楽しむ人たちにずいぶん遭遇しました。陣場山は、「関東の富士見百景」「かながわの景勝50選」にも選定されているそうです。

奥に進むほど緑の層が厚くなり、窓を全開にしてフィトンチッドを満喫しながら、ずんずん車を走らせると、川向こうの木々の合間に素敵な横長の古民家を発見。
「こんな山奥に!」、知らない人は、ここにモダンなギャラリーがあるなんてびっくりすることでしょう。

昔は馬小屋としても使われていたという門をくぐり、gallery studio fujinoに到着です。
ギャラリー側から見た門です。右手が馬小屋だったらしい。

木造の古い日本家屋は懐かしく、おじいちゃんの家を思い出します。ガラガラと引き戸を開けて入ると土間はカフェコーナー。

gallery studio fujinoの店主は、アートディレクター東川裕子さんと木工家具職人である藤崎均さんご夫妻。
ここに暮らして10年になるそうですが、その前はなんと、ミラノに7年住んでいたといいます。
東川さんはイタリアのデザイン事務所cerri&associatiで、さまざまなブランドイメージの可視化や展示設計などのデザインを手がけ、一方、藤崎さんは特注家具の製作や巨匠エンツォ・マーリ氏をはじめデザイナーの作品製作に携わっていました。

「僕はフリーで木工職人として働いていましたが、イタリアでは、デザイン、職人、メーカーがそれぞれ独立していて棲み分けができているので、フリーでも仕事がしやすい環境でした。アーティストの作品にも関われたし、プライベートバンク内の装飾も面白い仕事でしたね」

そのままイタリアに住み続けることもできた二人ですが「この先、イタリアに永住する姿があまり想像できなかった」と笑う藤崎さん。
なんだか、もったいない話です。
帰国するにあたり、都内での家具製作は厳しいので郊外を探していたところ、この物件に出会ったそうですが、最初は屋根裏にたぬきが住んでいたとか。
2年かけて築140年になる家を修復。広すぎて今もまだ少しずつ手を加えています。

カフェテーブルやブルーのシンプルなソファは藤崎さんオリジナル。その横にはニューヨーク近代美術館にコレクションされているインテリアデザイナー剣持勇氏のラタンチェア。壁面の額装は使用済みコーヒーフィルターのアートが!外観からは想像できなかったモダンな空間に、いきなり心を鷲掴みされてしまいました。


さて、店内にあがると、陶器や装飾品など作家の作品がいたるところに置かれていて、目が泳ぐほどワクワク状態です。

シンプルな美しさ。くすっという笑いとかっこよさの共存。細やかな手仕事……デザインの世界にいる二人らしいセレクトを感じます。家具や什器はだいたい藤崎さんが製作したもので、オーダー家具の相談も可能。

さらに奥に行くと、60歳を過ぎる大家さんが小さい頃に勉強部屋で与えられていたという角部屋があり、美しい景色を取り込むなんとも贅沢な空間。そこを東川さんたちはコンテンポラリーアートのギャラリースペースにしています。

若手作家、林志保さんの石と見紛うオブジェや、藤崎さんがイタリアで携わっていたアーティスト、Guido de Zan(グイド・デ・ザン)のオブジェなど、ここに集まった作品たちは凛とした存在感。藤崎さんが最近製作を楽しんでいるという、錫で木に表情を施したオブジェも実に美しさを放っていました。家の中に一つ置くだけで空間に変化を生む小さな彫刻。やっぱりいいなあ、としみじみ。
好きなテイストの作家と新たに出会えるって、とても嬉しいことです。

最初は自分たちのアトリエだけで、ギャラリーを特に考えていなかった二人。

「でも、家具だけだと殺風景だったので、友だちの陶芸作品を置いたら、少しずつ作り手のものが増えて、今度は、『こんな遠方に来てもらうのにそのまま帰らせるのは申し訳ない』と思ってカフェを始めることに(笑)」

カフェでは東川さんの手作りケーキやパニーニがいただけます。最初はフレンチのイベントのためにアンティークのディテールを落とし込んで作ったというプレートは、今や藤崎さんを象徴する作品になりました。

深い山の中のギャラリー。
庭を下りると川も流れています。ゆっくり森林浴を楽しみ、じっくり現代作家の作品に触れる。
ここに来ると、自分の感性が研ぎ澄まされていくようです。

《ギャラリー情報》
gallery studio fujino
〒252-0181 神奈川県相模原市緑区佐野川768
TEL:080-5695-2424

*開廊時間:12:00~17:00
*開廊 基本的には毎月土日のみ。イベントがあるときは変わります
(クローズのときもあるので要確認。info@studiofujino.com)
*駐車場は近くにあり

《アクセス》
▶︎JR中央線「藤野駅」下車。神奈中バス「和田行き」最終停留所下車、徒歩3分

http://studiofujino.com/


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