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アート演劇・ダンス

小劇場スペース「スタジオHIKARI」がリニューアルオープン!!〈後編〉

小劇場スペース「スタジオHIKARI」がリニューアルオープン!!〈後編〉

2019年3月にリニューアルオープンする神奈川県立青少年センターの小劇場「スタジオHIKARI」。後編では、3月19日(火)〜21日(木・祝)に上演されるリニューアル記念ダンス公演「森下真樹 現在・過去・未来『てんこもり』」に関わる関係者のコメントを交え、その魅力をレポートします。

>>>記事「前編」はこちらから

【スタジオHIKARI 楫屋一之:神奈川県舞台芸術担当部長インタビュー】

リニューアルオープンする小劇場スペースのスタジオHIKARI。若い表現者たちにとって、具体的にはどのような魅力があるのでしょうか? 紅葉坂ホール・スタジオHIKARI支配人の楫屋一之さんにお聞きました。

―――2019年3月からオープンするスタジオHIKARIは、マグカルシアターでの利用が中心になっていくと思いますが、どのような人が活用することを想定していますか?
楫屋一之(以下楫屋):青少年センターは、神奈川県の青少年の健全育成の場です。そのコンセプトを基本として、あらゆる事業を展開しています。全国的に見ても、これだけの規模で歴史を積み重ねている青少年のための施設は珍しいと言えます。この度、ダンスや音楽、美術を含めたパフォーマンス、身体や声を使った身体表現に特化したスペースとして、スタジオHIKARIをリニューアルすることになりました。スタジオHIKARIを会場として提供するマグカルシアターを中心に、演劇・ダンス事業を展開していきます。


〈マグカルシアター〉趣向ジュニア「大阪、ミナミの高校生」(2016年)

「青少年」の方たちに積極的に使ってほしいですね。若い人が舞台芸術をとおして表現をすることで、より豊かに成長してもらいたい。20代や20歳以下の中高生など、スタジオHIKARIでの発表を足がかりに羽ばたく、若い独創性のある層に使ってもらいたいと願っています。ここで言う“使う人”は、もちろんパフォーマーだけでなく、観客も含め対象としています。つまり広い意味での観客創造も目指し、若い表現者が、さらに若い層を含めた観客と一体になってムーブメントをつくっていく。そういう方向性を打ち出したいと考えています。

―――スタジオHIKARIのメインターゲットと言える20代や20歳以下の若い人たちにとって、この場所でのチャレンジはどのような意味をもちますか?
楫屋:青少年センターでは年間をとおして、県内の中学、高校の演劇やダンスの大会、発表会、講習会などを紅葉坂ホールで実施しています。例えば、高校生が卒業して大学に入って演劇やダンスを続けて、大学を出たあとに「さあどこで公演をしよう」というときに、青少年センターが戻ってこれる場所になると良いですね。このようにすべてのプログラムが有機的に連動していくことも狙っています。横浜エリアには、キャパシティ100席強程度の規模の劇場は久しくありませんでした。横浜に限らず、首都圏でもこの規模のサイズのスペースは少ないんです。若手の表現者にとって、一番必要なのは100~150くらいのキャパシティの会場です。まずお客さんと身近な距離感で、自分のスキルやパフォーマンスを磨き上げ、直接的な反応をもらう。そのステップを踏んでから、より大きな会場で上演すること。今は都内にも横浜にも、数十席程度の劇場はそれなりにあるのですが、その後のステップとしていきなり200席以上の規模になってしまう。その間で自分たちの表現を磨く場所として、スタジオHIKARIは理想的な規模感の小劇場スペースであると言えます。

――スタジオHIKARIのオープンを間近に控え、舞台関係者の反応にどのような手ごたえを感じていますか?
楫屋:色々な方にこの場所についてお話をすると、「こんな場所があったんだ」という驚きや、「絶対使ってみたい」という反応をいただきます。演劇・ダンス、いずれのアーティストにとっても魅力を感じていただいている手ごたえがありますね。スタジオHIKARIは神奈川県内の若いアーティストや観客を中心に展開していきますが、アクセス的には首都圏、東京や東京以外の首都圏のアーティストにもぜひ使ってほしいと思っています。その結果、相乗効果によって神奈川から若い才能を発信できる、そんな拠点にしていきたいですね。

◎マグカルシアターに応募して、スタジオHIKARIで作品を発表しよう!
スタジオHIKARIは、貸しスタジオとして、レンタルや共催プログラム等による使用もできますが、若い表現者の皆さまにぜひチャレンジしていただきたいのが、公募プログラムのマグカルシアターへの応募です。

マグカルシアターは若い才能の発掘と育成を目指す、神奈川県の取組みです。マグカルシアターに採用された団体は、公演会場としてスタジオHIKARIを無料(付帯設備込み)で利用することができます。さらに青少年センター3F研修室が平日夜間は稽古場として利用できます。劇団やカンパニーの公募は、年に2回の募集となっています。
スタジオHIKARIは年間で半数に及ぶ日程を、マグカルシアターで使用する予定です。この機会をぜひご活用ください!

◎マグカルシアター参加アーティストから応援メッセージが届いています!!
これまでマグカルシアターに参加し、多目的プラザを利用してきた劇団のアーティストから、スタジオHIKARIへの応援メッセージが届いています! マグカルシアターに参加し、スタジオHIKARIの前身となる多目的プラザを利用した際の実感や、新たにリニューアルするスペースへの期待を寄せていただいています。

◇小林真梨恵さん◇
(振付、演出、ダンサー、俳優。神奈川県出身。waqu:iraz(ワクイラズ)主宰。)

劇場が好きです。小さいころから習っていたダンスの発表会や、ミュージカル好きの母親に連れられて舞台を観によく訪れていたこともあり、身近な存在でした。ひととき現実から切り離され、大勢の人たちと笑ったり、泣いたり、怒ったりする、その魅力に気が付いたら虜になっていました。

作り手側となり、自身で企画をし、劇場を借りる側になってからは、毎回、まだ何も彩られていない空間を見るたび、まっさらなキャンバスを手に入れたような気持ちになります。身が引き締まる思いとともに、今度はどんな絵を描いてやろうかと、胸が高鳴ります。

多目的プラザ(現「スタジオHIKARI」)では、マグカルシアターの参加作品として「わたしたちのからだは星でできている(2016年)」と、オール女性キャストの作品「わたくしごと2本立て(2018年)」の2作品を上演しました。初めて上演した2016年の作品は、宇宙と生命誕生をテーマとし、科学館や教育番組のようなイメージがあったので、青少年センターの中にあるこのスペースがぴったりと合うと直感しました。2年経ち、多目的プラザで再び作品を上演して、作品を上演する場所としての懐の深さと、風通しの良さを改めて感じました。フラットなスペースで舞台や客席の組み方の自由度が高く、特に空間の使い方の選択肢が多いところが魅力だと思います。スタジオHIKARIとして新たにオープンし、小劇場としてより使いやすくなるということで、自分だけでなくさまざまなパフォーマーやクリエイターがいろいろな見せ方、創り方にチャレンジできるのではないかと、さらなる期待をしています。

主宰するwaqu:irazでも今年の夏に作品を上演予定です。オスカー・ワイルドの戯曲「サロメ」をモチーフに、再びオール女性キャストでディバイジング(キャストと演出・振付による集団創作)による作品創作をします。企画はまだ進行中ですが、今回も魅力的なキャストやスタッフと、新たなクリエーションに挑戦したいと思っています。

【次回公演予定】
waqu:iraz05「サロメ(仮)」
[公演日程]2019年7月中旬
[戯曲]オスカー・ワイルド作「サロメ」
[演出・振付]小林真梨恵
[会場]神奈川県立青少年センター スタジオHIKARI

【プロフィール】
小林真梨恵
振付、演出、ダンサー、俳優。神奈川県出身。waqu:iraz(ワクイラズ)主宰。ミュージカルや演劇作品に出演のほか、舞台作品を中心にダンスやムーブの振付・ステージングなどを多く手掛ける。2014年にソロプロジェクトとしてwaqu:irazを立ち上げ。第8回せんがわ劇場演劇コンクールファイナリスト、「俳優賞」受賞。平成28年度、30年度にマグカルシアターに参加。そのほか個人としての近年参加作品は、とよはし芸術劇場PLAT「高校生と創る演劇 赤鬼」ムーブメント、趣向「男子校にはいじめが少ない?」振付、青年団リンクROMT「夏の夜の夢」出演・振付、時間堂「ゾーヤ・ペーリツのアパート」振付、劇作家女子会「人間の条件」振付等。

◇波田野淳紘さん◇
(劇作家、演出家。神奈川県生まれ。劇団820製作所(はにわせいさくしょ)主宰。)

撮影:印田彩希子

多目的プラザが名実ともに「劇場」として再生することを喜びます。段階的に行われる改修では、まず床と壁面が黒塗りになり、床面への釘打ちが可能になり、専用の玄関とホワイエが新しく設置されることになるとか。これだけで、だいぶ使い勝手が変わり、空間の印象も根底から変化することになるだろうと想像します(わたしたちがこの場所で『Hamlet』を上演したとき、すべてを黒一色にしたくて、暗幕を張り巡らせたり、リノを敷いたり、なかなかの苦労がありました)。

機能面が使いやすく、劇場としての構えをみせるようになるのなら、同時に「劇場の精神」というべきか、「劇場のたましい」とか「劇場に宿るもの」、「劇場を劇場たらしめるもの」と言っても良いのですが、ともかく劇場の佇まいに関わる面も変貌していくことになるのではないかと期待しています。

長く、多目的プラザでは演劇やダンスが上演され、若手からベテランまでさまざまな演劇人・ダンサーが集まり、足を踏み入れた人たちによって「劇場」としての念が降り積もってきました。それがこうして行政を動かし、名実ともに「劇場」へと再生することにつながりました。設計や材質の問題を別として、わたしの考えを述べれば、その場所に足を踏み入れた人たちの血と汗と涙がじゅうぶんに染みこみ、無数の亡霊のざわめきが棲みついたとき、劇場空間に、ある特別な力が帯びるようになります。

亡霊とは、その場所でささやかれ(あるいは叫ばれ)た無数のせりふの響きのことであり、夜ごとの観客の呼吸であり、その場所に対する人々の期待や望みや憧れや噂や夢、記憶のことです。

「神奈川県にこんな小劇場がある」
「あそこで観た芝居が面白かった」
「先輩が今度あの劇場に出るって」
「あの柱どうやって使えばいいの」
「いつかあの劇場で芝居をしたい」

亡霊を、正当に、より多く導きいれるためにも、その劇場が開かれた場所であってほしいと願います。劇場化に伴って、年間に行われる公演の数もこれまで以上に多くなると聞きました。公演以外にも、種々様々なワークショップ(例えば、通年の中高生のための演劇ワークショップなど)や講座の開催などを通して、継続的な交流の場が生まれ、神奈川の演劇人・ダンサーにとって、この劇場が確かな一つの位置を占めるようになることを期待します。

桜木町の坂の上の劇場に、ここにしかない魅力的な佇まいを獲得するためにも、わたしたち作り手側がよき芝居/ダンスを、世界の見方を鮮やかに変容させるような舞台を、果敢に、時には放埓に、生みだしていくことに努めたいと思います。

【次回公演予定】
theater 045 syndicate × 820製作所合同公演
『Farewell, Mr. Charlie』(仮)

[公演日程]2019年5月2日(木)~5日(日)
[作]波田野淳紘
[演出]中山朋文
[会場]神奈川県立青少年センター スタジオHIKARI

【プロフィール】
波田野淳紘
劇作家、演出家。1984年、神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。2004年、劇団820製作所(はにわせいさくしょ)を旗揚げ。いまを呼吸する、体温の宿ったせりふを特徴とし、ひとを超えた大きなものと対峙する人間の姿を肯定的に描きだす。2016年には「河のはじまりを探す旅」シリーズとして、古典作品の連続上演を手がける。主な作品に『世界』(2015)、『Hamlet』(2016)、『東京の街が夢見る』(2018)。

◎スタジオHIKARI リニューアル記念ダンス公演のご案内
青少年センターのミッションや、新たにオープンする小劇場スペース・スタジオHIKARIの魅力、そして寄せられた期待など、多方面からお伝えしてきた本レポート。つくり手はもちろん、訪れる観客の皆さまとともに、若い才能が羽ばたく場・スタジオHIKARIそのものもまた、育まれていくことを目指しています。

2019年3月19日から3日間、スタジオHIKARIでは森下真樹さんによるリニューアル記念ダンス公演を開催します。まずはこの機会にスタジオHIKARIへご来場いただき、その魅力を体感してください!
取材・文:及位友美(voids)

奇想天外な動きで展開されるユニークでパワフルな森下ワールドサクレツ!! 森下15年前のソロデビュー作品から近年の代表作、森下スタンドの群舞などを織り交ぜたてんこもりオムニバス。

スタジオHIKARI リニューアル記念ダンス公演
森下真樹
現在・過去・未来「てんこもり」
[日時]3月19日(火)〜21日(木・祝)
3/19(火)19:30〜
3/20(水)19:30〜
3/21(木・祝)15:00〜
[会場]神奈川県立青少年センター スタジオHIKARI
[舞台監督]川口眞人(レイヨンヴェール)
[出演]森下真樹、森下スタンド(伊藤奨 甲斐ひろな 小林利那 高橋楓華 中村駿 宮崎あかね)ほか
[料金]一般¥3,500(当日¥3,800)、高校生以下¥1,500
[主催]神奈川県、森下企画、一般社団法人ハイウッド
[TEL]045-263-4475(神奈川県立青少年センター ホール運営課/9:00〜17:00)

PROFILE
◇森下真樹◇
(振付家・ダンサー・森下スタンド主宰)

©︎RYO OHWADA

幼少期に転校先の友達作りで開発された遊びがダンスのルーツ。これまで10カ国30都市以上でソロ作品を上演。現代美術家・束芋とのコラボレーション作品『錆からでた実』やMIKIKO、森山未來、石川直樹、笠井叡という全く異なるバックグラウンドを持つアーティストが各楽章の振付を担当するソロ「ベートーヴェン交響曲第5番『運命』全楽章を踊る」を発表するなど、ジャンルにとらわれない活動をする。2016年「森下スタンド」を発足。100人100様をモットーに幅広い世代を集めワークショップや作品づくりを行う。周囲を一気に巻き込み独特な「間」からくる予測不可能、奇想天外ワールドが特徴。2014年第8回日本ダンスフォーラム賞を受賞。2015年~2017年(公財)セゾン文化財団シニアフェロー。

◇森下スタンド◇
オーディションで選ばれた個性豊かな若手ダンサーを中心に2016年から活動するカンパニー。平均年齢25歳の若手ダンサーが羽ばたけるような、自由な発想、自主性を尊重する新しいカンパニーのスタイルを模索中。2018年にカンパニー旗揚げとなるトライアル公演を実施。

【スタジオHIKARI】
住所:横浜市西区紅葉丘9-1 神奈川県立青少年センター2F
アクセス:
JR根岸線「桜木町駅」下車、「北改札」(西口)から徒歩約8分
横浜市営地下鉄線「桜木町駅」下車、徒歩約10分
京浜急行線「日ノ出町駅」下車、徒歩約13分
みなとみらい線「みなとみらい駅」下車、徒歩約20分

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