トータル10時間! ギリシャ悲劇の世界にどっぷり浸る3部作一挙上演
(TOP画像)撮影:井上嘉和
行って、みて、感じるアートの世界
File.22 KUNIO15『グリークス』
井上みゆき(マグカル編集部)
崇高にして荘厳。ギリシャ悲劇と聞いてイメージされるのは、概ねそんな世界だろう。ちょっと眠たそう…という声も聞こえてきそうだ。
ところがどっこい!
KAAT・KUNIO共同製作のKUNIO15『グリークス』はひと味もふた味も違った。
10本のギリシャ悲劇を現代劇の手法でひとつの物語に再構成したとはいえ、三部構成・上演時間10時間に及ぶ超大作。これは覚悟して臨まねば…と思って劇場に足を踏み入れたのだが、そこには、日本人の日常と地続きの風景があった。観客は、演出家・杉原邦生氏が用意した「物語の入口」から、遠い古代ギリシャの物語の世界に、すんなりと引き込まれてしまう。
*撮影:井上嘉和
能舞台の背景にある松羽目のイメージ取り入れた舞台は、神々の物語を紡ぐにふさわしい清浄さを感じさせる。そこに現代消費文明の象徴とも言えるビニールやプラスチックを持ち込むことで、古代ギリシャの世界は現代の日本にリンクする。舞台美術も手がける杉原氏の展開はダイナミックで、観客を飽きさせない。これなら10時間もあっという間…と思わせる牽引力だ。
*撮影:井上嘉和
ギリシャ悲劇は、今日ある演劇や物語の原点ともいわれ、演出家にとっては挑むべき壁かもしれない。昨年、KAATで『オイディプスREXXX(オイディプス王)』の演出を手がけ、ギリシャ悲劇に対する手応えを感じた杉原氏は、次のステップとして『グリークス』を選んだ。
「簡単で手軽なものがもてはやされる時代に逆行する作品であることは、重々承知しています(笑)。でも、だからこそ、物語の力、アートの力、演劇の力を信じて社会に提示したいと思ったんです」
「古典の“面白さ”や“カッコ良さ”を観客に伝えたいんです。『グリークス』は1980年にイギリスで初演された作品で、再構成・加筆されているので純粋な意味での“古典”ではないかもしれません。それでも、この戯曲に向き合うには演出家としての体力と筋力が必要です。これだけの大作を上演しようと思う演出家は少なくとも僕の周りにはいませんでしたし、上演させてくれる劇場も極めて稀でしょう。一緒に取り組んでいる俳優、スタッフはもちろん、観客の皆さんにとっても、一生に何度もできる経験ではないですよね(笑)」
*撮影:井上嘉和
気分屋で身勝手で、個性豊かなギリシャ神話の神々は、日本の神話に出てくる神々と通じるものがある。ギリシャ悲劇はそんな神々に翻弄される人間を描いた物語ではあるけれど、そもそも“神々”を生み出したのは人間の想像力だ。
ギリシャの神々の中には、日本人にも馴染みのある名前が多い。そんなことに気づくと、遠い昔に生まれた物語であるにもかかわらず、なんだか他人事ではない気がしてくるから不思議だ。
そんな『グリークス』が、森下(東京都)のプレビュー、杉原氏の第二の故郷ともいえる京都での公演を経て、いよいよKAAT神奈川芸術劇場で幕を開ける。
「神奈川県は僕の地元であり、『グリークス』はKAATで稽古してきた作品なので、“ホームグラウンドに帰ってきた”という感じです。僕が小劇場で培ってきたことの集大成であり、僕にとってのターニングポイントになる作品だと思うので、ぜひ多くの方に見ていただきたいと思っています」
★こちらのイベントは終了いたしました。
KAAT・KUNIO共同製作
KUNIO15「グリークス」
[日時]11月21日(木)〜30日(土)
※22日(金)、25日(月)、28日(木)は休演日
各日
第一部11:30〜
第二部15:00〜
第三部18:30〜
[会場]KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ
[編・英訳]ジョン・バートン、ケネス・カヴァンダー
[翻訳]小澤英実
[演出・美術]杉原邦生
[出演]天宮良、安藤玉恵、本多麻紀(SPAC-静岡県舞台芸術センター)、武田暁(魚灯)、石村みか(てがみ座)、箱田暁史(てがみ座)、田中佑弥(中野成樹+フランケンズ)、渡邊りょう、藤井咲有里、福原冠(範宙遊泳)、森田真和、池浦さだ夢(男肉 du Soleil)/松永玲子(ナイロン100℃)、外山誠二(文学座)/小田豊 ほか
[料金](全席指定)一日通し券¥10,000、〈各部チケット〉一般¥5,000、24歳以下¥2,500、高校生以下¥1,000、シルバー(満65歳以上)¥4,500