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ニッポンの発展を支えた、うんこと便所の歴史をたどる!

ニッポンの発展を支えた、うんこと便所の歴史をたどる!

行って、みて、感じるアートの世界
File.26 川崎市立日本民家うんことくらし便所から肥やしまで
井上みゆき(マグカル編集部)

生田緑地にある川崎市立日本民家園は、約3万平方メートルの広々とした敷地に、国指定の重要文化財7件を含む全25件の古民家が点在する野外博物館。四季折々の花も楽しめる緑豊かな園内は、お弁当を持ってでかけるにもぴったりだ。
そんな平和な風景の中で、かなりユニークな企画展が開催されている。
題して「うんことくらし−便所から肥やしまで−」。
なんと直球勝負なタイトル。これは行くしかない!

正門入口でチケットを買ったら、まずは本館の展示室を見学。
展示は4章立てで、私たちの暮らしに欠かすことのない「便所」で使われてきたさまざまな道具の紹介にはじまり、「し尿」がどう利用され、あるいは処理されてきたかをわかりやすく展示している。

タイトルでは「うんこ」が主役だが、まずは「尿瓶」コレクションから。
ぽってりとしたフォルムが可愛らしく、色もカラフル。落語「しびん」は、古道具屋を訪れた侍が、花瓶だと思って買い求めたことからはじまる噺だが、本当にありそうなことだと思える。

こちらは男性用の小便器と足置。“用の美”とでもいうべきか、展示ケースに収まっていても、不思議なくらい違和感がない。
便を肥料として利用してきた歴史、バキュームカーを全国で初めて使用したのが川崎市だったことなども紹介されている。コンパクトな企画展だが、じっくり観ていくと意外と奥が深い。

便所から肥やしまでの流れを一通り学んだら、「おべんじょマップ」を見ながら園内の古民家で実地調査をしてみよう。
まずは奥州街道の馬宿(旅籠)「鈴木家住宅」から。

これは客間の隣にある便所で、主に宿泊客が使用したものらしい。中は大便所と小便所の2つに分かれている。

続いて信州の「佐々木家住宅」。
入口の横(写真右奥)にある小便所は家族用。主に男性用だが、誰もいないときは女性も使っていたというから、おおらかな時代性を感じる。大便用は別の小屋にあったそうだ。

佐々木家は名主だったため、役人などの客人を迎えるときのためにお客様用の便所を有していた。部屋の奥にあるのでいつもは非公開だが、今回は裏側から特別に公開中。

なんと、畳が敷いてある。
当時、名主であっても日常生活では畳を使っていなかったそうだから、かなり高級な便所なのだろう。

合掌造りの「山田家住宅」は便所も合掌造り!
手前にある小さな小屋は「ヘンチャゴヤ」と呼ばれる大便所。肥料小屋も兼ねており、主屋とは屋根付きの橋でつながっていたそうだ。

千葉県の九十九里浜で地引網漁の網元をしていた「作田家住宅」。

来客用の便所で、手前が小便所、奥が大便所になっている。
誰も使ってないとはいえ、便所を“覗き見”するのって、なんだか不思議な気分…。

こちらが手前の小便所。今の感覚からすると、かなり広いかも。

こちらが奥の大便所。
ちびっ子には目新しいかもしれないが、洋式トイレが普及するまでは、このカタチが一般的だったのだ。

神奈川県秦野市から移築した「北村家住宅」は、名主であり、たばこの葉を栽培していた農家さんの家。

家族用の小便所は、佐々木家と同じく入口の脇にある。
大便所は別の小屋にあったそうだが、北村家では「便所が汚いと家が栄えない」といって、毎朝、子どもたちが便所掃除をしていたそうだ。

続いては、神奈川県川崎市「小泉家」の外便所。主屋の裏にあったもので、生垣で囲って外から見えないようにしていたそうだ。
右が大便用、左が小便用。便つぼに溜まった大小便は肥溜めに移し、2〜3カ月発酵させてから畑の堆肥として使用した。作物の栽培に欠かせなかった、という意味では、大小便から作られる堆肥が日本社会の発展に貢献していたことは間違いない。

横にある「農具小屋展示室」をのぞくと、肥桶なども展示されている。

最後は岩手県から移築した国指定重要文化財「工藤家住宅」の便所。便所にしては大きな建物だが、これは物置を兼ねたもので、肥料として使ういろりの灰なども置いていたそうだ。

内部はこんな感じ。大便をためる「便つぼ」の上に2枚の板を渡したシンプルな構造だ。ここは板の上に乗ってもOKなので、便つぼをまたいで往時の気分を味わえる。
ただし、実際に使うのはNGなのでご注意を。

「古民家にも当然のことながら便所があります。それが子どもたちに人気だったので、いつかメインに扱った企画展を開催したいと考えていました。せっかくの機会なので、便所から出たものの行方にも思いを馳せてみてください」
と、学芸員の玉井里奈さん。

便所から回収された大小便は、かつては野菜を育てる栄養豊富な“肥やし”として有効活用されていた。都市化とともに便所の在り方が変わるのは当然のことだろう。ただ、大小便は人間が生きている限り必ず生じるものだ。この企画展をきかっけに、排泄したら終わりではなく“その先”まで考えてみたい。

★こちらのイベントは終了いたしました。
《うんことくらしー便所から肥やしまでー》
[会期]2020年5月31日(日)まで
[時間]9:30〜17:00
[場所]川崎市立日本民家園 本館展示室
[料金]無料(要入園料)

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