波止場のワークショップは立ち止まらない〜若葉町ウォーフ 再始動へ!
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行って、みて、感じるアートの世界
File.28 若葉町ウォーフ「COVID-19記念劇場」
井上みゆき(マグカル編集部)
小劇場、スタジオ、ドミトリー形式の宿泊所が一体となったアーツセンターとして2017年にオープンした若葉町ウォーフ。ここは、劇作家・演出家である佐藤信さんが自らの舞台活動の総決算として設立した空間だ。これまでにも近隣アジアの諸都市で活躍する若き表現者たちが集い、語り・学び合い、国内外に向けて発信していくための「波止場のワークショップ」が開催されてきた。
*波止場のワークショップ2018のレポートはこちら!
*波止場のワークショップ2019のレポートはこちら!
3月下旬、劇場を訪れたお客さまの表情から「安心して楽しめない」気持ちを読み取った佐藤さんは、6月30日までの全館営業自粛を決断する。それは、準備を重ねてきた波止場のワークショップの活動がストップすることをも意味した。けれど佐藤さんは、それを単なる“休館”にはしない。施設運営は休止しつつも空間は “空き地”として地域に開放し、その状況をリアルタイムで配信する「若葉町ウォーフオンライン」の活動をスタートさせたのだ。
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企画の第一弾は、1階の小劇場の壁に様々なアーティストが“落書き”をつづる「COVID-19記念劇場」。「ウォーフチャンネル」でライブ配信されていたが、遠まきに見ているだけではやはり面白くない。そこで、県境をまたぐ移動自粛も緩和された6月下旬、若葉町ウォーフを訪れてみた。
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「ホワイトボックス」と呼ばれていた小劇場の真っ白な壁は、日替わりで訪れるさまざまなアーティストによる落書きで埋め尽くされそうな勢い。
「壁を白くしていたのはこのためだったんだ、と思った」と佐藤さんは言うけれど、なんともシュールな世界になっている。
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当たり前のことだけど、壁には窓や扉がちゃんとある。気づかなかっただけに、それらをすべて開け放ってみると、意外なくらい明るく平和な気分だ。同じ空間なのにかなりイメージが違って、なんだか不思議…。
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こちらはトップバッターとして登場した、アーティストの宮内由梨さんの落書き。
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『COVID19−記念劇場』にちなんで、19匹のコビトたちも登場。
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近所のミニシアター・ジャック&ベティの待合室として開放されていることもあり、一角には公開延期となった映画のチラシも置かれている。これもアートの一部のようだ。
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訪れた日は、火曜日定例の「井戸端会議」の開催日。ジャック&ベティ、シネマリンなど近隣のアート施設が集まり、各自この1週間を振り返るというシンプルな会合だが、若葉町ウォーフと町のつながりを深めるには良い機会となったという。
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井戸端会議を終えた佐藤さんに、若葉町ウォーフの“これから”について伺った。
「本当に大変なのはこれからだと思っています。2〜3カ月も“自粛”を強制されたことは、とくに子供たちに対して確実に影響があるはずです。それを考えると、誰もがこれまでとはちょっと違うステージに移行することが必要かもしれません。
そんな中で表現者は何ができるのか。演劇の役割は、たぶん言葉を生み出すことです。みんながうまく言葉にできない感情を具体的な言葉にしていく役割があるのでは、と考えています」
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「ひとつ自分の中ではっきりしたことは、この施設を次の世代の若い人たちに渡すまでは維持したい、ということです。自分の作品も演りたいけれど、まずは新しいやり方を考え、運営を安定させないといけませんね」
7月からの活動再開第一弾は「町なかギャラリー①壁展」。多くのアーティストの筆によって彩られた劇場の壁を公開する。
期間中、今度は壁ではなく床を使って子供たちに落書きをしてもらう「はとばくらぶ」のワークショップを開催するという。あの真っ白だった空間がどこまで“成長”するのか楽しみだ。
休止していた波止場のワークショップも、年末あたりを目処に動き出しそうな気配…。たやすいことではないのは明白だが、国内各地と近隣アジア諸都市の表現者たちとの継続的な共同作業を実現するために、クラウドファンディングも立ち上げた。
*佐藤さんの思いとクラウドファンディングの概要はこちら!
スローダウンはするけれど、立ち止まりはしない。若葉町ウォーフの動向から目が離せない日々が続きそうだ。