コンテンツにスキップ
講座・ワークショップ

根源的でミニマルな表現を目指して

根源的でミニマルな表現を目指して

行って、みて、感じるアートの世界
File.34「波止場のワークショップ2020」
井上みゆき
(マグカル編集部)

横浜市若葉町で、劇作家・演出家の佐藤信氏が主宰するアーツセンター「若葉町ウォーフ」。ここでは、国内各地と中国、韓国、台湾、インドネシア、タイ、マレーシア、シンガポール、ベトナム、カンボジアなど、近隣アジア諸都市で活躍する表現者たちが出会い、語り・学び合い、作り、国内外に向けて発信していくための<波止場>作りを目指している。「波止場のワークショップ」はその取り組みの1つであり、毎年夏に各国の若者たちが集い、共同生活を送りながらクリエーションを行ってきた。

*波止場のワークショップ2018のレポートはこちら
*波止場のワークショップ2019のレポートはこちら

2020年は、佐藤氏が思い描いていた<波止場>プロジェクトが本格的に動き出す予定だった。ところが、世界を巻き込んだコロナ禍である。波止場のワークショップはどうなったのだろう。そしてアジアの若者が集っていた<波止場>の現状は?
2021年3月中旬、若葉町ウォーフに伺い、佐藤信氏に話を聞いた。

「僕自身としては、“コロナ”と“禍”は分けて考える必要があると思っています。コロナは“引き金”の一つに過ぎません。対処方法がないために“禍”となってしまいましたが、今回表面化した様々な問題は他の引き金でも起こり得たことです。
そんな中で一番大切だと思ったのは『止まってはいけない』ということ。貸し劇場や宿泊施設として営業することは難しいけれど、施設を閉めたくなかったので、1階を開放して“空き地プロジェクト”を展開しました。そこで地域の人々とつながり、みんなで試行錯誤する中で、今後の活動の指針が見えてきた気がします。それは『規模を問わずにやっていきたい』ということです」

*空き地プロジェクトのレポートはこちら

「波止場のワークショップ2020」の挑戦

「パフォーミングアーツの一番大きな要素は、人が移動すること、つまり自分の家を出て移動し、集まることだと考えています。それが制限されている状況の中で、ではどの程度ならできるのか。例えば15人で合宿するのは無理だけど、4〜5人ならどんなことができるのか。そこで今回は、過去の波止場のワークショップ参加者を中心とする4人を招聘して滞在制作を行うとともに、夜はオンラインで中国やシンガポールと結び、過去のワークショップ参加者と情報交換を行いました」

そして3月14日(日)、その成果は「波止場のワークショップ2020特別企画」として発表された。
これまでは佐藤氏のテキストをもとにクリエイションを行ってきたが、今回与えられたのは「1table 2chairs/隔絶」というコンセプトのみ。舞台上にはテーブル1つと椅子2脚、そして4人のアーティスト。彼らが組み合わせを変えながら2人1組で20分、合計3本約60分の作品を上演した。

「すごく規模が小さくなったと感じますが、これは演劇にとってチャンスだと思っています。今問われているのは『僕たちはこれからどうやって共生していくか』ということです。自然との共生という意味では、演劇は根源的な表現手段であり、必ずしも劇場を必要としません。少人数でも成り立つし、照明や音響などのテクノロジーを廃しても実施できます。今までの経済的な考え方を見直す必要がありますが、その点に関しては、クラウドファンディングなどが登場したことで確実に変わってきましたよね。例えば、2〜3人規模でどこへでも持っていける作品を制作し、小劇場ネットワークを通じて全国をツアーするシステムを作る。そんな活動スタイルができれば、アーティストも観客も、都心に拠点を持つ必要がなくなります」

小さな国際フェステティバル構想

「そしてもう1つ構想しているのが、この地域で小さなフェスティバルを作ることです。
人の移動が可能になったら、国際フェスティバルを企画したいと思っています。従来のような大規模なものではなく、face to faceの小さな出会いがある、波止場のワークショップの拡大版くらいのイメージです。そのイメージは昨年来続けてきた近隣アート施設との交流から生まれたもので、近隣の施設で連携し、支援してくださるお宅の軒下や空き地なども利用して、ワークショップを行ったり、クリエイションの成果を発表する。『若葉町ウォーフという場を作ったのはこのためだったんだ』と思えるような、新しいスタイルを作ってみたいですね」

マガジン