記念すべき開館60周年を迎えた神奈川県立青少年センターでこの夏、
パフォーミングカンパニーNibrollの新作公演「距離のない旅」が上演されます。
2019年春にダンスや音楽・美術を含めたパフォーマンス、身体や声を使った身体表現に特化したスペースとしてリニューアルされたスタジオHIKARIで上演されるこの公演は「回遊型」公演として劇場の外からスタートします。
演者と観客は自由に歩いて劇場内まで一緒に旅をするようなイメージとのこと。
「劇場の外」、というのは青少年センターや音楽堂、図書館を設計した日本のモダニズム建築を代表する建築家・前川國男の設計当初の構想を活かした「広場」。
スタジオHIKARIと同じく2019年の改修時に広く整備されたこの広場でもパフォーマンスが行われ、まさに観客とアーティスト、空間そのものが一体となり創りあげる「距離のない旅」。神奈川県在住・在学の高校生も参加が予定されているほか、関連企画として、ダンスと映像のワークショップも行われます。
当日も稽古が詰まっており約1時間という制限の中、アーティスティックで奥深い矢内原ワールドにすっかり引き込まれてしまいました。是非お楽しみください!
アーティスティックでどこかチャーミング!とっても魅力的な矢内原さん 提供:県立青少年センター
■回遊型公演「距離のない旅」が生まれた背景を教えてください
そうね、私はずっと、舞台人として舞台の中だけ、箱の中だけでやってきたんだけど…。
実は劇場空間だけじゃなくて、外と内、空間、身体、その全てがゆるやかにでも「繋がっていく作品(もの)」を創りたいと長いこと思ってはいたの。
思っていながらもこれまでは観客数の条件やその他諸々、実現するにはなかなか厳しかったんだよね。
そうしているうちに世界はコロナ禍という厳しい環境下に置かれたわけ。
そういう過酷な状況で私たちは身体(しんたい)の大切さを実感したんじゃないかと思うの。「身体って他の何にも置き換えられない、自分から切り離すことはできないものなんだ」と否が応でもその存在感の大きさを感じ取ったんじゃないかなと思うんだよね。
それは私も同じで、舞台をやってると「観客の置き方」がとても気になりだしたのね。
もちろん、距離を保たなければいけない特殊な状況下だったこともあるけれど、より観客が遠く、自分達から離れたものになってしまったと感じたのかな。
だから、演者・観客・空間・音・映像そのすべてが近くにあって、皆が全身で一緒に表現ができ、感じられるものを創ることにしたの。
ご縁があった神奈川県立青少年センターの皆さんには、わがままを言ってご迷惑をかけながら、ついに実現させてもらえたという感じ(笑)
■理想の観客の置き方、というのは?
なんていうのかな、美術館に作品を観に行ったときのような感じかな。
お客さんはアート作品を座って鑑賞はしないよね、ってこと。素敵で心惹かれる様々な作品を自由に観て回って、その作品のすぐ近くで作者なり作品なりが語りかけている声を感じ取るでしょう。
だから舞台でも同じように「回遊」できるようにすることで、見る側にも演者側にももっと自由な選択肢を与えてみたかったのね。
身体って美術作品よりもすごいじゃない?!手を上げる、曲げる、お茶をとる、そうやって動いただけで空間がかわるの。ね?すごいのよ身体って!(笑)
ちゃんと向き合っていると、その人が歩んできた人生が見える瞬間すらあるの。
今回の公演は「一緒に旅をして、一緒にゴールにたどり着く」というように、観客が近くにいて、身体が存在する意味をダンサーだけでなく、観客にも同じように実感してもらえるというのが最大のポイントね。空間の変化には、Nibrollらしい映像や音楽を織り交ぜて、その場所その場所で感じられるものが異なるというのものみどころ。
「広場」での稽古の様子 提供:県立青少年センター
■振り付けについて教えてください
この公演に出演する演者は4人。みんな、身体に向き合ってきた子たちだからとても面白いものが観られるはず。繰り返しになるけれど、観客と演者の身体が同じレベルに存在することで、「演者一人ひとりの歩み方・生き方を観客が自分たちの記憶に重ねて体験する」ことを目指しているの。
バレエやモダンのように技術的にならないように、太陽・光など「生」を表現する振り付けと言葉も意識してる。言葉と身体(ダンス)を結び付けるってとても難しくてなかなかできる人っていないのだけど…目指しているのは「本当の意味での」ダンスと演劇の融合かな。
■どのような想いで高校生に参加してもらうのでしょう?
高校生には今回「木」の役で参加してもらって、彼らが木として並ぶ廊下をお客さんに通り過ぎてもらうの。通る時に音や映像を組み合わせた、とある仕掛けをしてあるのよ、お楽しみに!
高校生たちのこの経験は、その後の彼ら・彼女らの人生を大きく左右するものだと思っているの。私自身、技術的なものだけじゃなく、より日常的な動作、例えば窓を開けること、お茶を飲むこと、手をあげること、その全てがダンスにつながっていると教えてもらったのが高校生の時だった。私、あの経験がなければ間違いなく舞踊家になっていなかったと思ってる。
感じた時に自由に動くということを教えてあげたいなという想いがあるかな。
たった一人でも、将来この業界で輝ける人が生まれてくれたら嬉しいかな(笑)
矢内原さん、ありがとうございました!
>■ニブロール「距離のない旅」公演情報
出演……青木 萌・細谷 貴宏・小山 衣美・黒田 杏菜
演出・振付……矢内原 美邦
映像・照明・美術……高橋 啓祐
音楽……スカンク/SKANK
衣装……田中 洋介
映像・照明アシスタント……デイビット・カークパトリック
宣伝美術……高橋 啓祐
制作……笠木 泉
協力……近畿大学矢内原研究室 Murasaki Penguin
日時
7月22日(金曜日) 17時00分
7月23日(土曜日) 13時00分 17時00分
7月24日(日曜日) 13時00分 17時00分
※公演時間は60分程度を予定
会場
県立青少年センター スタジオHIKARI
料金
一般前売 3,000円
一般当日 3,500円
18歳以下前売・当日 1,500円(当日年齢のわかる身分証を提示)
※本公演は回遊型のパフォーマンスになります。
※屋外は立ち見、スタジオHIKARI内は全席自由席になります。
※雨天・荒天の場合はスタジオHIKARIのみで開催。