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美術・写真

People Landscape in KANAGAWA | 葉山芸術祭 ー 人と人とをつなぐ風景

People Landscape in KANAGAWA | 葉山芸術祭 ー 人と人とをつなぐ風景

Interview & Text : 井上 明子    Photo: 西野 正将
 

現在ほど芸術祭というものが日本に浸透していなかった1993年に産声をあげた「葉山芸術祭」は、日本における芸術祭の先駆けともいえる存在です。海と山に囲まれた地形、そしてそこに住む人々によって織りなされる穏やかな空気感。バスの車窓からキラキラとかがやく海を眺めながら店から店へ、家から家へ、「こんにちは!おじゃまします」と挨拶をかわし巡る芸術祭は、人との出会いの場であり、自然とのふれあいの場でもあります。そんな葉山芸術祭がいったいいどのようにはじまり、これまで続いて来たのかを、古くから関わっている主催者のお一人 朝山正和さんに聞いてきました。取材場所は森戸神社のバス停をおりるとすぐ目の前にある「食堂&ギャラリー・カラバシ」。

 

■ 葉山芸術祭のはじまり

ー さっそくですが、葉山芸術祭はどのようにしてはじまったのですか
 
朝山正和さん(以下朝山):当時から、葉山という町には芸術文化に関わる人たちが大勢いたんですが、その人たちの作品を観たい、コンサートに行きたいと思ったときには東京や横浜にいかなくてはならなかったんです。それをなんとか「地元でみたい」という素直な気持ちが発端になってはじまったんだと思います。
 
ー 朝山さんは2回目から関わっていらっしゃるとのことですが、どなたが発起人なんですか
 
朝山:当時は、一葉会という文化振興団体があって、その人たちが中心になり、町の補助金をもらってはじめたんです。一葉会は、年齢も60代くらいの方々が多く、学校の先生や建築家の先生のような先生方が集まっていました。その方々が、割とアカデミックなアートイベントをはじめたのがきっかけなんですよね。
 
ー 第1回目は1993年ということで、今ほどはアートフェスティバルが一般化していない時代だと思うんですが、参考にされたプロジェクトなどありますか?
 
朝山:特にないですね。完全なオリジナルだと思います。
こういう芸術祭って、一番最初にはじめたのが湯布院の人たちだと思うんです。葉山芸術祭と年を同じくして「伊豆高原アートフェスティバル」が開催され、同じように現在も続いています。90年代後半になって「越後妻有 大地の芸術祭」がはじまりました。葉山は越後妻有のように行政主体のものではなく「地元の人たちが地元の文化度を振興する」ためにやっているところがありますので、そこには大きな違いがあると思います。
 
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■「オープンハウス」のはじまり

>※オープンハウス=自宅を開放し展示や発表をおこなうスタイルのこと
ー 自分たちで資金集めから何から、すべてをはじめられたということですよね。それはすごく大変なことだったと思います。葉山芸術祭の代名詞でもある「オープンハウス」も第1回からはじめられていたんですか
 
朝山:オープンハウスがはじまったのは4回目くらいですかね。
 
ー きっかけは何だったんでしょうか
 
朝山:一種の流行みたいなもので、実は僕たちは何もコントロールしていないんです。
はるなさんとダヴィデさんという絵描きのご夫婦がいるたんですが、お二人が「葉山には展示場所もないし、自宅で展示しよう」といってはじめたところ、それがおもしろくって広まっていって、それ以来、このスタイルが芸術祭に定着したんです。
 
ー てっきり運営側からでてきたアイデアかと思っていました。でもそういったボトムアップというかトップもボトムもないフラットな関係性があるからこそ、様々な可能性が広がっていくんでしょうね
 
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■ 葉山芸術祭が大切にしていること ー長年見続けることで見えてくるもの

ー 葉山芸術祭のコンセプトや目標にしていることを教えてください
 
朝山:もともとが地域の芸術文化を地域の人たちが享受できるようにという、芸術文化の地産地消的意味合いではじまったので、もちろんそれが根底にあります。そしてその「地産地消の芸術文化をお互いがツールとしてコミュニケートできること」というのが一番強いコンセプトになっています。当初はコンセプトを Nature / Education / Art concious / communicationという4つの英単語で表現していました。そこからもわかるように、この地域の自然環境も大切なキーワードになっています。
 
ー 今年で22年目を迎えるわけですが、続けて行くにつれて何か変化はありましたか
 
朝山:最近、外の方からよく言われて、自分たちもそれが特徴だなと思うキーワードがあります。それは「地域的なつながり」ですね。でも、今は葉山に限らず日本中がそうだとは思います。
 
ー HPを拝見していても、参加者の方がつくっていく芸術祭というのがすごくみえてきます。そこには、人と人のつながりや信頼関係があって、それを20年以上もの間育んできたからこそのチームワークという気がします。朝山さんにとって、葉山芸術祭を続けていくにあたってどのようなことがモチベーションになっていますか
 
朝山:葉山芸術祭でみんなが集まる場所は森山神社になることが多いんですけど、芸術祭を続けていることで、その森山神社のコミュニティというものを強くサポートできていること、森山神社の環境が保てていることに関われているということ、それからここに集まる人たちが芸術祭を通じた人のつながりをベースに成立していること、それらは僕らの財産だと思っています。例えば、僕らが手伝うことによってこの土地の乱開発が防げたりとか、いつも定期的に拠点としているこのカフェに人が集まるようになったりとか、コミュニティが葉山芸術祭を通じていい感じに活きているということが、一番に誇りに思うことです。あとは参加される方にもいろんな人生があって、それに付き添っていいられるっていうのも楽しみの一つです。
 
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ー やり続けることに意味があるということですね
 
朝山:そうですね。やり続けることで、様々な人や組織との関係が濃くなっていって、そのことによってお互いいろいろな変化がうまれたりすることがあります。それは急激な変化ではなく、ゆっくりとした変化ですよね。
そして、長年見続けることでこの地域に起こっている新しい動きなども見えてくる。例えば、葉山に限らず鎌倉や大磯などは有名な建築作品でもある別荘や私邸が多く存在するんですが、最近それらが相続等の問題から壊されてしまうという傾向があるんですね。このことについて美術館はどう考えているのか、また僕たち芸術祭側はどう考えるのか、ということを意見交換ができるんです。
 
ー 芸術祭を通じて出会った人たちが、地域の別の問題について話し合うような関係性をつくれるというのはとても大事なことですね
 
朝山:そうなんです。もちろん芸術祭そのものもそうですが、僕らにとって大事なものは、芸術祭を通じて生まれてくるものなんです。一見副産物のようですが、本当はそれを支えることが一番大事なことだと思うんです。
 

■ 葉山芸術祭2014

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ー では、最後に今年の葉山芸術祭について教えてください
 
朝山:例年通り、約125の参加団体がいろいろな形で作品を発表します。また、毎年4月末に開催している実行委員会主催の音楽イベントと、芸術祭最後の土日に約90の参加団体による「青空アート市」を共に森山神社で開催します。 ※公式サイトリンク
 
ー いつも葉山芸術祭に伺うときには、どうやってまわるのが一番いいか自分でルートを考えて回っているんですが、何かおすすめの回り方などはありますか?
 
朝山:5/7(水)に近代美術館と共同でガイドツアーを行います。午前中は美術館の展示をみて、午後は美術館周辺のオープンハウスを回るツアーなんですが、一色地区のあまり外の人が知らないような小路を通って回るので、そういう風景も一緒に楽しんでもらえると思います。
 
ー 遠足みたいで楽しそうですね! 葉山芸術祭の開幕を心待ちにしています
 
 
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photo:森戸神社からの景色

 

(編集後記)
今回の取材を通して、葉山芸術祭は地域の夏祭りや年中行事同様、葉山の人々にとってなくてはならないお祭の一つなのだと感じました。そこに外からの人がきても決して拒まず、運営する人も参加する人も垣根なく一緒につくりあげる信頼関係のもと成り立っていることがみえてきました。「つながり」が強調される社会の中、人と人がつながるために何を接着剤とするか、その質が問われている昨今です。でもそれは一朝一夕ではなく、ゆっくりと時間をかけることを拒まないからこそ見えてくるものなのではないかと感じました。
 
是非、葉山芸術祭というサステナブルな営みと、そこに暮らす人々や自然に出会いに、春の葉山に足を運んでみてください。

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