People Landscape in KANAGAWA|「逗子海岸映画祭」
Interview & Text : 井上 明子 Photo: 西野 正将 公開日:2014.4.1
ゴールデンウィークの逗子海岸に、巨大なスクリーンが現れる!!
空と海が広がる無限大の空間を感じながら、集まった人たちと肩を並べて観るアウトドアシアターは、訪れた人ひとりひとりに映画を観るという行為以上の体験をもたらしてくれます。
そんな予測不能の感動を与えてくれる逗子海岸映画祭は、今年で5回目を迎えます。毎年4月下旬から5月上旬のゴールデンウィークに開催されるこの映画祭が、いったいどんな人たちの手によって実現しているのか、その疑問の答えを探るべく、逗子海岸からほど近いCINEMA CARAVANの事務所を訪ねてきました。写真家の志津野雷さん、ミュージシャンの長島源さんらによる移動式映画館 “CINEMA CARAVAN” は、逗子海岸映画祭をはじめるきっかけにもなったプロジェクト。その事務所の下には、映画館兼カフェのCINEMA AMIGOがあり、映画祭に関わる人たちやこの地域で暮らす人々の様々なつながりを育んでいます。
MAGCUL.NETでは、「逗子海岸映画祭」と“CINEMA AMIGO”について、志津野さんと長島さんのお二人にお話を伺ってきました。
photo:逗子海岸映画祭 過去の様子
■ 逗子海岸映画祭のはじまり
ー まず最初に、逗子海岸映画祭をはじめたきっかけを教えてください
志津野 雷さん(以下 志津野):まず、ここCINEMA AMIGOを源と僕とあともう1人と3人で立ち上げて、源が地元に根付かせるCINEMA AMIGOをやっていき、僕は旅する写真家なので、外回りでもある移動式映画館CINEMA CARAVAN(「地球と遊ぶ」をコンセプトに、五感で体感できる移動式映画館。世界各地のあらゆる場所で映画上映をしている)をやっていくっていうのがある中で、とりあえず最初は地元の海岸でやってみようと初めたのがきっかけですね。当時は3.11も含め色んな動きがめまぐるしい時期で、結構勢いで初めたところもあります。何の後先も考えず、最初の1回目は2ヶ月くらい前にやるってきめてやったんですよ。
ー 第1回は2ヶ月で準備したんですか?!イントレ組んでスクリーンをつくるだけでも大変そうなのに・・・
志津野:大変でしたね。何の経験もないし、大丈夫かどうかもわからないし・・・。
長島 源さん(以下 長島):しかもその時は映写スタッフもすべて自分が兼任するつもりだったけど、蓋をあけてみたら全然手が回らなくて、たまたまその期間だけがっつりあいていた友達にお願いしたりと、そういう途中参加の人たちにも助けられて、奇跡的にできたって感じです。
ー そうだったんですね。逗子海岸映画祭は、志津野さん、長島さんをはじめどんな人たちで運営しているんですか。
志津野:ペインターや料理人、アーティスト、ミュージシャン、大工さん、スポーツに特化した人など、自分の周りにいるキャラクターのある仲間たちがメンバーになってますね。
ー みなさん逗子の方々なんですか?
長島:逗子・葉山・鎌倉の人たちが中心ですね。
志津野:女性陣もそうだけど、みんな頭にアンテナはってオリジナルで生きている人が多くて、子供抱えながらも、空いた時間にそれぞれがやれることをやるっていうふうに、みんなの知識総動員でやってます。
ー 横のつながりでどんどん大きく広がっていったんですね。
志津野:本当にもう、それのみです(笑)
■ これからの課題・世代をつないでいくこと
ー 海岸で映画を観る体験ができるのって、逗子海岸映画祭だけなんじゃないですか
志津野:海外とかでは結構やってるし、ないことははないと思うんだけど、もしかしたらちゃんとお客さんを呼んでここまでやりきるっていうチームは、そんなにいないかもしれないですね。
ー なるほど。これまで映画祭を続けてきてご苦労されたこともいっぱいあると思うんですけど、続けて行くモチベーションになっていることってなんですか
志津野:1年365日みんな同じエリアに住んでいる中で、逗子海岸映画祭が、自分も含め関わっている人みんなの一年間の一つのゴールみたいになっているんですよね。例えば自分は写真家なので、旅をして、そこで観てきたことがどうやって5月に吐き出せるんだろうということを考える。そういうアウトプットするところがあって、しかもそれがみんなの共通のゴールっていうのが、自分にとってはモチベーションになってますね。
ー すごく大変なんだけど、でもここまで続けてこれた秘訣ってなんですか
志津野:映画祭を作って行く時っていうのは、自分の中では音楽を奏でているのと近いものがあって、即興性・対応力・人間力も含めて、近づくに連れてのグルーヴ感っていうのがすごくある。それと、さっきも言ったような、年に1回ホームに帰ってこれるっていうバランスが、またフレッシュになれるし。
長島:毎年毎年やりきるから、今年もやりきって「終わったら終わったでいいよね」みたいなところまでいくんだけど、結局「またやろう」ってなって(笑)
ー 今後の映画祭としての展望を教えてください
長島:自分たちもどんどん年をとっていくので、今後は若い世代の人たちが活躍してくれるようになっていくことが課題ではあるよね。
志津野:ほんとはね、次世代の人がひっぱっていってくれるといいんだけどね。毎年今年で何回目とかってことよりも、これが3年に1回でもいいから、次世代の人たちが「前にあのおじちゃん達こういう風にやってたから、俺らこうしようぜ」みたいな感じで、スクリーンひっくり返してやってくれてもかまわないし。
長島:あと、まったく映画祭っていう切り口じゃないやつを、こっちに刺激受けてやってくれるのでもいいし。今観てくれている子供達が、将来「こんなことあったよね」みたいな感じで復活させてくれても面白いと思うしね。そういう風に世代がつながっていくことは意識してます。逗子海岸映画祭をはじめるときに、メンバーの1人が小さい頃逗子海岸で体験した屋外映画上映を覚えていたっていうのもきっかけの1つなんですよね。
ー 強烈に記憶に残りますもんね
志津野:映画の内容を伝えるというよりは、駄菓子屋があった町の一風景みたいに、そういうワンシーンに重きをおいているというか。
長島:あと、去年はメリーゴーランドとかも浜辺においていたんですけど、年配のお客さんが来て、昔コニーランドっていう遊園地が逗子海岸にあった頃のことを思い出したって言ってくれたこともあります。
ー わたしも、同じ映画をみても場所が変わるとこんなに違うんだってことにいつも気付かせてもらっています。風や波の音、砂の感触とか・・・
志津野:そういうのも含めてなんですよね。
■ 今年の逗子海岸映画祭 ー Local to Global ー
注)2014年の逗子海岸映画祭の情報です
ー 今年の逗子海岸映画祭のコンセプトとラインナップを教えてください
志津野:今年は5回目ということもあって、「ローカルからグローバル」をコンセプトに、外国の文化を少なからず逗子で体験できるよう、グローバル感を強めに出していこうと思ってます。いつもは食だったり、スケートボードの日だったり、音楽の日だったりと分けていたんだけど、今年はこの国のあるエリアっていう感じで、全日来てくれたお客さんが、世界一周まではいかないけど色んな国の音楽や匂いや映画でショートトリップできるようになればいいかなと思ってます。
長島:たとえば、インドの日は「きっとうまくいく」、日本の日は「そして父になる」、アルゼンチンの日は「モーターサイクルダイアリーズ」、こどもの日は「E.T.」、バスクの日は「ブランカニエベス」とかですね。そして、今年はピーターバラカンさんをミュージックセレクターに迎え、カリブ海の音楽を聴きながらサンセットを楽しむ企画もあります。
ー そういえば竹中直人さんは毎年出演されていらっしゃいますよね。どういうつながりなんですか
志津野:たまたまなんですけど、竹中さんみたいな人に出てもらいたいよねって話してた次の日、CINEMA AMIGOに竹中さんが来てくれて、結構運命的な出会いだったんですよ。
ー そうなんですね!! 今年も竹中さんはご出演ということですし、いつも映画に限らず音楽やフードなども充実しているのでそのへんも楽しみです
長島:今年はフードもその日の国のテーマにあわせたフードになると思います。
逗子海岸映画祭 過去の様子
■ 様々なコミュニティが生まれる場所 ー CINEMA AMIGOについて
ー 映画祭当日、CINEMA AMIGOはどのような形で連携していくんですか
長島:いつもは映画上映とカフェだけど、映画祭期間中はここでは上映はせずに、どちらかというと浜疲れした人のためのカフェスペースとして利用してもらいます。
ー では、普段のシネマアミーゴはどんなコンセプトで営業しているんですか
長島:ここはローカルの人・食・物をフューチャリングしていくということ、また、ここで色んな人がつながっていって、ここ発の情報発信をするっていうことがコンセプトになってます。だから日替わりランチにしても、ランチがというよりはランチを作る人が日替わりで、その時間はその人の表現の場所になるようにという感じでやっています。
ー 日替わりで何人くらいの方が作っているんですか
長島:その時々でメンバーが変わるけど、今は5人かな。たまにゲストシェフがはいってくることもあります。食以外にも、近くで仲間が育てているハーブティーやオリジナルブレンドのコーヒー、地元の人が作っているアクセサリーなども扱ってます。
ー CINEMA AMIGOは映画の上映・カフェに加えて、たまに音楽イベントなどもされていますよね
長島:映画っていう切り口だと、いろんなものを混ぜることができるというのがあります。上映する映画によってお客さんは全然違うし、そうやって同じ空間にいろんな人が来てくれることで、ミックスできるっていう感覚がある。それと、カフェからの情報発信ってある種の限界があるかもしれないけど、映画だともっと直接的な発信もできるんですよね。
ー 今、味のある単館映画館がどんどんつぶれていってしまう中で、CINEMA AMIGOの存在は地元の人をはじめ多くの人にとって大切な存在なんじゃないかなと思います
長島:やっぱり「ここはなくしちゃいけないところだよね」って言ってもらえるのは本当にありがたいです。
■ 逗子海岸映画祭の魅力・町の魅力
ー 映画祭の話にもどるんですが、当日きてくれるお客さまに、逗子海岸映画祭の魅力をひとことでいうならどんな言葉になりますか
志津野:映画だけじゃなくて、「俺たちの生き様をみてください」っていうことですかね。こんな連中がちょっと手を動かせばやれるんだ、それで本当に形になるんだっていうことを感じとってくれて、そこで感じたことがどんどん他の地域に広がっていってくれること。そういう風に響いてくれると一番嬉しいし、あとは人生のワンシーンとして記憶に残ってもらえればベストです。
ー ありがとうございます。最後になりますが、お二人にとっての逗子のお気に入りスポット、または風景などがあれば教えてください
志津野:UNOWN(アンノウン)っていうスケートボードショップができたんですけど、そこ、オススメです。逗子市出身のプロスケーターの高山仁君がやってるんだけど、ただのショップとしてだけじゃなく、彼を中心に一つの村みたいなのがちょっとできてるんですよね。映画祭の砂浜のランプ(スケートボード用の斜面)も彼が作ってくれて、そのおかげで今までできていなかった地元の中学生が遊びにきてくれるようになったり、そういう意味で映画祭もすごく広がりました。
長島:僕はもともと五月晴れの時期の逗子海岸が一番好きなんですよ。海水浴客が来て混みはじめる前の逗子で、監視員もいないなかで泳ぐ逗子海岸が好きです。
ー 今日はありがとうございました!
(編集後記)
今年もG.Wの逗子海岸に11日間の間現れる巨大なスクリーン。昼はメリーゴーランド、スケートランプ、ボルダリングなど様々なアクティビティが充実。そして太陽が沈んだら、音楽と映画の時間がはじまります。突然表れて消えていく夢のような11日間ですが、そこから無限に広がっていくドラマがあることは言うまでもありません。是非、大切な風景を見つけに逗子海岸へでかけてみてください。