『iSAMU』20世紀を生きた芸術家 イサム・ノグチをめぐる3つの物語
「iSAMU」観劇レポート
2013.8.15/Maureen
終戦記念日のこの日、私はKAAT神奈川芸術劇場にて「iSAMU」のゲネプロを観る機会を得た。
アメリカ国籍のイサム・ノグチは日本人より日本人らしく、時にはこだわり過ぎる程日本の美を愛する。
しかし「アメリカ人だから」という理由で広島平和記念公園のモニュメント製作を断られる。
自分とはなにか。
冒頭のシーンにて飛行機内での客室乗務員との会話、日本へ「行く」のか「帰る」のかというのが印象的。
その何気無い会話からイサム・ノグチの生涯においての葛藤の一部が感じられ、全体の芝居がとても観やすかった。
三つの物語が同時進行していくが、映像や音のスタイリッシュな演出により時空が混ざり合ったりして面白い。
一番好きなシーンは、現代の男女がサンドイッチを食べながらイサムの作品を眺めてあれこれ好き勝手に「この作品は一体何なのか」を語るところ。
どんなにくだらない発想も全て正解だし、何よりもそれを話している二人がとても楽しそうだ。
創作したイサムもこの様子を天からニヤリとしながら見ているのかも、と思ってしまった。
イサム役の窪塚洋介さんはすらっとした外国人的なスタイルと、ストイックでナイーブな芸術家の雰囲気がマッチしていて素敵。
大森博史さんが演じる魯山人はこの芝居で唯一空気を弛めてくれるようなキャラクターで、出てくると客席がホッとする。
小島聖さんの演じる女性には一緒になってもどかしさを感じた。
外国人の恋人役とのやり取りが絶妙でとても面白い。
三つの物語全てに相手とのすれ違いが生じているのだが。
自分の求めているものって、案外自分が一番相手に与えることができていないものなのかもしれないなあと思った。
ラストはイサムの作品「Akari」のようなあたたかい色の光の照明を役者がそれぞれ空へ解き放つ。
月の様にも見え、また舞台のキーワードである「ゼロ」という永遠の可能性を秘めた数字の形にも見えるような美しい光を見送り、舞台の幕は閉じる。
私には生と死が繋がった瞬間に見えたが、どうなのだろう…。
舞台全体が美しく工夫された演出で、素敵な芸術空間を楽しむことが出来た。
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Maureen
1991年生まれ
大学の演劇学科にて役者の勉強中。
美しいものを見るのが大好き。