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演劇・ダンス
世界を目指すオール川崎プロジェクト『カワサキ ロミオ&ジュリエット』
2018.11.14

芝居が生まれる現場
File.2 カワサキ ロミオ&ジュリエット
今井浩一(編集ライター)

 

川崎市を拠点に活動している劇団「カワサキアリス」の夢の1つはでっかく海外進出。昨今の若い人たちの劇団は、身の丈を知っているといえば聞こえはいいが、そういう大言を言わないのがちょっと寂しい。

劇団主宰のAshは、20代のころアメリカのツアー劇団でミュージカル女優として頑張っていた。

「アメリカで活動するということは、当然ですが言葉は英語ですよね。いつのころか『なぜ自分は英語で芝居をしているんだろう』という疑問が湧いてきて、日本でつくったミュージカルを海外に持っていきたい、と思うようになり、日本に帰ってきました。2年くらい模索するうちに、東京藝大が演劇を学べるコースをつくると聞いて、『これだ!』と思い、大学に入り直したんです。役者としてではなく、演出を学ぶために」

さまざまな演劇人と出会う中に、ク・ナウカ シアターカンパニーを率いる宮城聰がいた。ク・ナウカといえば、動く俳優と語る俳優が二人で一つの役を演じるスタイルで、独自の活動を展開した劇団。ただAshが惹かれたのは、演技スタイルではなく“日本語を音楽にのせる”ことを舞台で実現していた点だった。
私たちの日常にあふれている音楽は、ロックやポップスなど欧米のリズム。しかしク・ナウカは、日本人に心地よいリズムに言葉がのっていた。海外公演を精力的に行っていることにも惹かれた。誘われて、演出部としてク・ナウカに入団し、宮城のもとで長く活動していく。
そして、宮城がSPAC(静岡芸術劇場)の芸術総監督として拠点を移すこととなったのを機に独立。そこから川崎市との縁が生まれていくから不思議だ。
高校から演劇を教える仕事をもらったり、宮城の関連でインドネシアのカンパニーの滞在制作を行ったり、設計事務所の社長と懇意になったり。複数の縁が絡まる中で、演劇活動を開始する。

実は「カワサキアリス」のメンバーの多くは、さまざまな進路に進んだ後「やっぱり川崎で芝居がやりたい」と集ったかつての教え子たち。稽古場もくだんの設計事務所が提供してくれている。そうしてじわじわと川崎市に根を張り始めた。
*鎌倉・円覚寺での『走れメロス』

「宮城さんの関係で、利賀村での鈴木忠志さんの演劇塾にも参加しました。それは私の中の演劇の概念を根底からくつがえす衝撃的で面白い経験でしたが、なにより、地域と密接な関係を築きながら活動をしていること、社会的なインパクトを持ちながら演劇をやっていることに驚いたんです。考えてみたら、自分も地域との関わりに興味があると気づき『川崎でやることが好きなんだな』と再認識しました」
*利賀『青い鳥』より

劇団名に“アリス”とつけたのは、ワンダーランドに突然引き込まれる、非現実世界に連れ去られるような体験ができる芝居を目指していることから。旗揚げから8年。2017年には、Ash自身が利賀演劇人コンクールで優秀演出家賞を獲得した。

2018年12月には、川崎市の主催で、ラゾーナ川崎プラザソル開館12年を記念したプロデュース公演『カワサキ ロミオ&ジュリエット』で、紅(くれない)組、縹(はなだ)組の2バージョンを手がける。

「劇団として新たなステップに来られたな、と。地域のいち劇団で終わりたいと思ったことは一度もなく、世界に作品を出していくことが、もともとの私の夢だったわけですから。時間はかかったけど、プロデュース公演のお話をいただけるまでになれたことを、うれしく思っています」

*プラザソルで高校生と上演した『弱法師』

プラザソルは、川崎駅前にあるショッピングセンターの中の小劇場。ここで高校生たちと演劇を上演したことで縁が生まれた。
『ロミオとジュリエット』は、対立する2つの家の若者、ロミオとジュリエットの、短い人生をかけた恋を描いたシェイクスピアの大名作。それを約200年後の川崎らしき街を舞台にした物語に脚色し、生演奏ありの音楽劇に仕立てるという。

「“未来のロミジュリ”と言うとSFのイメージになるけれど、私はいつも『7世代先にこの作品がどうなるだろう』と想定してつくっています。すでに400年以上も残ってきた作品なのだから、この先だって生き続けるでしょう。今よりもっと技術革新の進んだ世の中になっているかもしれませんが、人間の基本的な営みは変わらないと思う。社会や環境が変わったとしても、普通に“ロミジュリ”は演じられるはずです。一応、220年後という設定にしていますが、『そのとき川崎はどうなっているんだろうね』と、みんなで話しながらつくっています。この公演が、これからの演劇人を育て、川崎の文化を育てるきっかけになればいい、と思っています」

この夏には大々的なオーディションを実施。集まったメンバーは2組に分かれ、紅(くれない)組はAshの目指すアーティスティックパフォーマンス的なテイストに、縹(はなだ)組は“ロミジュリ”のドラマを深めた作品になりそうだ。

*『ロミオとジュリエット』製作発表会

対立を煽ることが世界的な潮流になりつつある昨今。その縮図が川崎にもあるが、そういった負の面も含めて、生き生きとパワーのある街ができている、とAshは感じている。この物語はどう受け取られるのだろうか。

「世の中のすべては大なり小なり対立構造にある、という気がしています。そもそも人間というのは、あらゆるところで対立を生むものです。それが争いになるかは別として、対立の緊張感から生まれるものもある。たとえば芸術もそう。『ロミオとジュリエット』は、対立や雑多な文化の中で生きる川崎の人に共感してもらえる物語になるのではないか、と思っています」

Ashは台本の結末を書いていない。それは川崎での稽古を積み重ね、若い俳優たちが導き出すものだから。当然のことながら、2組の結末は別のものとなるだろう。

「古典を脚色することには賛否があると思います。私は『ロミオとジュリエット』という世界共通の財産を使って“人生を豊かにする”ことを考えてもいいんじゃないか、と腹をくくり、翻訳から行いました。単純に川崎を舞台とした物語に置き換えるわけではなく、自分たちの物語にすることを目指しています。川崎に住んでいる人はクスリと笑えるかもしれませんね。そしてこの芝居を見たお客さんが、悲劇的ではあるけれど、その中に何か一筋の希望を見出していただけたらうれしいです」

*『ロミジュリ』プロモーション@コスギフェスタ

そして芝居を支えるメンバーは、Ashが「制作スタッフはオール川崎を目指した」というように、地元・川崎の仲間たち。演劇はライブ芸術なので、どんなに面白いものを創っても、その時、その場にいた人としか感動を共有できない。その1回性が演劇の魅力だからこそ、事前に情報を発信するためのビジュアル面には力を入れた。支えたのは地元のクリエイティブチーム「ノクチ基地」。その名前は「溝口」に由来する。

「チラシなどに力を入れたくても、私たちの規模では予算がそこまで回りません。今回はノクチ基地の代表の方が「僕らのギャラはクラウドファンディングで得ましょう」と言ってくれて。そういう川崎の皆さんの心意気に応えられる作品になるよう、がんばります」

 

《ラゾーナ川崎プラザソル開館12周年記念公
 「カワサキ ロミオ&ジュリエット」》

■日時:2018年12月6日(木)〜11日(火)
■会場:ラゾーナ川崎プラザソル
■作:W.シェイクスピア
■翻訳・脚色・演出:Ash(カワサキアリス)
■チケット情報:一般前売4,000 円/川崎割3,800 円/大学生・専門学校生3,000円/高校生以下2,000円
縹紅セット7,600円*前売予約のみ。2公演ご覧になれます
■開演時間:6・7日19:00、8・9日13:00/18:00、10日14:00/19:00、11日12:00/16:00

*詳細は https://kawasakialice.com/romi-juli