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伝統芸能
2019.12.04

狂言でござる in ニューヨーク!

21世紀を生きる狂言師の檜舞台
Vol.11 『The Heart Of KYOGEN』in U.S.A.
大藏教義(能楽師狂言方大蔵流)

 

スタスタと歩く。
ポケットに手を入れて、大股でスタスタと歩く。
普段の倍かそれ以上の速さだ。この街の住人で、これが日常だと言わんばかりに歩く。
街行く人もみんな早歩きだ。赤信号でも渡る。車は遠慮なくクラクションを鳴らす。その音が高層ビルの間によく響く。肌や髪の色も様々だ。

歩くだけでも忙しい。ここはニューヨーク。

店も会社も時代とともにどんどん変わる中で、650年の伝統を受け継ぐ狂言の公演『The Heart Of KYOGEN』は、ニューヨーカーにどう映るのだろうか?

今回の訪米では、5日間の滞在中にニューヨーク大学、プリンストン大学、慶応義塾ニューヨーク学院、最終日はワシントンD.C.まで足を伸ばしてジョージ・ワシントン大学などの教育機関でワークショップを行った。本公演は、ニューヨークの「BRUNO WALTER AUDITORIUM」という劇場。

内容は次の通りだ。
開演と同時に「急げ急げ」と狂言師が登場し「これからニューヨークへ急いで参る」と始まる。もう1人の狂言師も登場し「急げ急げ」と2人でニューヨークの街を歩く。途中で「あの大きな女は誰じゃ?」「あれは自由の女神というものじゃ」と言い、また「この高い塔はなんじゃ」「これはエンパイアステートビルというものじゃ」などと名所を紹介する。そうしている間に「いや、なにかと言う内に〇〇(会場名)に着いた」「会場の扉を開けよう」「ガラガラガラガラ〜(扉が開く音)」と現地に着いたという設定のイントロから始めた。国内ではない演出ではあるが、海外用に特別に作ったものだ。これだけでもお客さんは喜んで笑ってくれた。もちろん字幕入りである。

演目の前にレクチャーを行うのが私たちのやり方だ。
舞台は背景が変わる事がなく、音響や照明にも頼らず、役者が全てを台詞と動作で表現するのが狂言である。ここはパフォーマンスを入れて、役者の動作を当ててもらうクイズ形式にした。なかなか当てにくいものもあったが、お客さんは頭を悩ませながらも楽しんでいた。

そしてチラシにも掲載している“面”を紹介。
狂言面は、神や精霊のほかに動物を演じる時にも使用するが、この面は“蚊”の精霊と聞いて、みんな驚いていた。この反応は日本でも同じだが、通訳の方も驚いたようで、何度も私たちに「Really?」と聞いてきた。

少しだけだが、体験もしてもらった。狂言の構えも発声も、積極的に挑戦してくれたのは嬉しかった。この点は、自らが体を動かして体験し、体感することで理解を深めたい、という国民性の現れだと思う。あまりの参加率に、ちょっとサービスをしてしまった場面も…。

演目は『寝音曲』と『附子』。どちらも分かりやすい上に、日本でもポピュラーな演目だ。
海外公演は、今では字幕が通例となっている。主催者であるNoh Societyとは5年近いお付き合い。字幕はタイミングよく押さないと、演技とお客さんの笑いにタイムラグが生じるため、これをどう埋めるかを緻密に相談し、リハーサルして臨んだ。おかげで、今までのストレスは解消され、とても気持ちよく舞台を務めることができた。

終演後は、スタッフとの打ち上げも兼ねて、色々な話ができたのも大きな収穫だった。
レクチャーを中心にするか、パフォーマンスを中心にするか。できればパフォーマンス・オンリーにしたい気もするが、やはりレクチャーを入れた方が理解が深まるのではないか?自分たちのスタイルや、本当に伝えたいことはなにか?など、熱い討論が繰り広げられた。この議論を糧に、次回はさらにパワーアップした公演を見せたいと思う。

お客さんは年齢層も様々。日本語が堪能な子もいる。中にはコロンビア大学の学生もいた。話を聞けば、日本の古典文学や中世の文化に興味を持って勉強しているとのこと。私たちでもなかなか手が出せない分野まで詳しいので驚かされた。
日本は歴史が長く多彩な文化を持つ国だ。だからこそ、漫画やコスプレだけでなく、時代ごとに多様な魅力が散りばめられているのだと、教わった気がする。

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