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講座・ワークショップ 音楽
2020.02.05

“謎に満ちたオペラ”の真相に迫る?! ヘンデル《シッラ》を120%楽しむ方法

神奈川県立音楽堂 

行って、みて、感じるアートの世界
File.24 神奈川県立音楽堂『シッラ』
井上みゆき(マグカル編集部)

 

古代ローマに実在した独裁者、ルキウス・コルネリウス・スッラの後半生を題材に書かれたヘンデルのオペラ《シッラ》。台本も楽譜もちゃんと残っているのに、当時劇場で上演されたかどうか定かでなく、現代ヨーロッパでも滅多に上演されない作品だとか。素人目線では「それって出来が悪いから?」とか思ってしまう(失礼!)。
そんな謎を秘めたオペラが、神奈川県立音楽堂で上演される。これに先立ち、「ヘンデルの謎とオペラ《シッラ》〜古代ローマの物語」と題するレクチャーコンサートが行われた。これは敷居が高いと感じていたオペラの世界に近づけるチャンス! 長年の憧れを胸に、出かけてみた。

レクチャーは、日本ヘンデル協会で台本対訳を手掛ける諏訪羚子さんの「台本から見た『シッラ』」からスタート。まずは、あらすじと登場人物の紹介に耳を傾ける。
それにしても、主役であるシッラはひどいヤツだ。友人の奥さんや恋人にちょっかいを出し、冷たくされると夫婦もろとも左遷してしまうなど、パワハラとセクハラの限りを尽くす。ただ、テーマとしてはモーツァルトのオペラ『ルーチョ・シッラ』でも題材となっているそうなので、典型的な“暴君もの”ということか。
諏訪さんは「展開が唐突でセオリーを無視しすぎ」としながらも、構成やユニークな場面に魅力を感じるらしい。
「情緒性に欠ける点はあるけれど、むしろ感傷的なオペラの枠をはみ出した発想が面白い。登場人物も、荒削りではあるけれど生き生きと描かれているので、決して“最悪の台本”ではないと思います」
なるほど。物語としては“悪いヤツ”がいるほうが面白いのかも、と思えてきた。

続いては、日本ヘンデル協会会員でヘンデル研究家の三ヶ尻正さんによる「歴史と政治の中の《シッラ》」。
まず「この時代、オペラは政治的主張や王権の正統性をアピールする手段だった」という話にびっくり。でも、《シッラ》が書かれた時代と実際の年表を照らし合わせ、さらに実在の人物を登場人物に当てはめていくと、確かにピタリとはまる。
18世紀前半のイギリス王位継承問題、そしてスペイン継承戦争。歴史を紐解くうちに、オペラの世界がリアルな色彩をまとってくる。批判的な筋書きを為政者から咎められたら「いえいえ、ただの歴史ものですから」と言い逃れすればいい、というあたりは、日本の浮世絵や歌舞伎と似たような発想だ。

そうして緻密に書き上げられたにも関わらず、上演された記録はなく、三ヶ尻さんも「公開上演はなかった」と結論付ける。なぜ?
それは、リアルの世界でマールバラ公爵ジョン・チャーチル(=シッラ)が失脚し、暴君ぶりを非難する必要がなくなったから。ある意味、作品としては時代遅れになってしまった、ということかも。
ちょっともったいない気もするが、音楽の多くは、のちに発表されたオペラ『アマディージ』に転用されたのでご心配なく。当時、こうした“使い回し”は珍しいことではないそうだ。

そして最後は、日本ヘンデル協会で音楽監督を務める原雅已さんの「《Silla》の音楽とその魅力」。チェンバロの伊藤明子さんの実演を交えながら、オペラの構造や作曲プロセス、音による効果などのレクチャーを受ける。
残念ながら、音楽の専門的なことはよくわからなかった。ただ、面白かったのは、演奏のテンポによって音楽の表情は大きく変わる、ということ。
《シッラ》の楽譜にはテンポが表示されていない曲が多く、原さんはここから「結局演奏されなかったのでは」と推測している。では、実際に演奏するには、どうやってテンポを決めるのか。台本から考えたり、他のオペラに流用された曲を参考にしたり、方法はいろいろあるそうだが、推測である以上、答えは1つではない。
原さんは「実験」として、解釈の異なる2つのテンポを提案。樋口麻理子さん(ソプラノ)、横町あゆみさん(メゾソプラノ)の歌で聴かせてくれた。

聴いてびっくり!同じ音楽なのに、テンポが違うだけでこんなにニュアンスが変わるのか。音楽って、奥が深いのね…。
《シッラ》の本公演では、音楽監督・指揮のファビオ・ビオンディさんが、1曲ずつテンポを決めていくのだろうか。とても興味深い作業だし、それが日本で初演されるというのが、ちょっと嬉しい。


*ヘンデル(1685〜1759)

ヘンデルの時代のオペラは、物語が複雑でわかりにくい作品が多かったらしい。その点《シッラ》は、極めてシンプルかつコンパクト。それでいて美しく魅力的な音楽がいっぱい詰まっているので、初心者でも楽しめそうだ。
様々な“大人の事情”から当時は演奏されなかった《シッラ》。300年の時を経た2020年の横浜で、ぜひ体験したい。

 

ヘンデル『シッラ』全3
[公演日]2020年2月29日(土)、3月1日(日)
[開演時間]14:00(開場13:00) *13:15〜プレトークあり
[会場]神奈川県立音楽堂
[音楽監督]ファビオ・ビオンディ(指揮・ヴァイオリン)
[演奏]エウローパ・ガランテ
[出演]
シッラ:ソニア・プリナ(コントラルト)
クラウディオ:ヒラリー・サマーズ(コントラルト)
メテッラ:スンヘ・イム(ソプラノ)
レピド:ヴィヴィカ・ジュノー(メゾ・ソプラノ)
フラヴィア:ロベルタ・インヴェルニッツィ(ソプラノ)
チェリア:マリア・イノホサ・モンテネグロ(ソプラノ)
神:ミヒャエル・ボルス(バリトン)
[演出]彌勒忠史
[美術]tamako☆
[衣裳]友好まり子
[照明]稲葉直人(ASG)
[台本・字幕翻訳]本谷麻子
[舞台監督]大澤 裕(ザ・スタッフ)

[料金]S席¥15,000、A席¥12,000(残席僅少)、B席 (SOLD OUT)、学生(24歳以下)¥8,000
[お問合]神奈川県立音楽堂 Tel.045-263-2567
*詳しくはこちらをご覧ください。

    神奈川県立音楽堂は、1954年、公立施設としては日本で初めての本格的な音楽専用ホールとして開館しました。ロンドンのロイヤルフェスティバルホールをモデルに、最高の音響効果をあげるように設計されたホールは、開館当時『東洋一の響き』と絶賛され、その響きは今も国内はもちろん海外からも高い評価を受けています。ホールの壁面はすべて「木」で作られており、そのアコースティックな響きは開館から60年を経た今でも人々に感動をあたえつづけています。また、地域に根ざした優れた公共施設として1998年に建設省より「公共建築百選」に選ばれ、加えて1999年には20世紀の重要な文化遺産である建築としてDOCOMOMO(ドコモモ)(近代運動にかかわる建物・環境形成の記録調査および保存のために設立された国際的組織)より「日本におけるモダン・ムーブメントの建築20選」に選ばれました。

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      9-2 Momijigaoka, Nishi-ku, Yokohama, Kanagawa Prefecture
    • TEL
      045-263-2567
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      It depends on the performance. [Reception hours] 9: 00-17: 00 (Ticket window 13: 00-17: 00) [Closed days] In principle, every Monday and New Year holidays (12 / 28-1 / 4)

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