新・小田原城に薪能の火をもう一度 「カナガワ リ・古典2016 in 小田原」、9月19日(祝)開催
<開催概要>
「カナガワ リ・古典2016 in 小田原」
日 程:2016年9月19日(祝)
第一部 12:30開場/13:00開演
・遠州飯田山名神社祇園祭の芸能(国指定重要無形文化財)
・柳家三三による落語
・小田原囃子(小田原市 県指定無形民俗文化財)
・寺山神社の鹿島踊(小田原市 県指定無形民俗文化財)
・箱根の湯立獅子舞(箱根町 国選択・県指定無形民俗文化財)
・外郎売の口上研究会
第二部 18:00開場/18:30開演/21:00終演予定
・巻上公一演奏(FOOD with Arzhan Suu)
・宝生流 薪能 能「夜討曽我」、狂言「文蔵」
会 場:小田原城址公園 本丸広場特設ステージ
神奈川県小田原市城内6-1
※なお荒天時は、小田原市民会館ホールにて開催いたします
料 金:第一部 無料
第二部 前売券3000円/当日券3500円(限定1000席、全席自由席)
※前売券販売所は、こちら(http://re-coten2016.com/?page_id=5)をご覧ください。
本物の伝統芸能を届けることが、古典の再生につながる
――今年の「リ・古典」プロジェクトは、FMおだわらが準備を進めています。その経緯をお聞かせください。
鈴木:FMおだわらは、10年前からスタートしたコミュニティFM放送局です。放送局には、さまざまなローカル情報が集まってきますよね。それをラジオだけでなく、幅広い方法で発信するため、近年では地元のイベント事業も請け負うようになりました。他にも、地域振興のために「小田原柑橘倶楽部」を立ち上げ、ご当地サイダーや小田原みかんの花はちみつなどを販売しています。こうした活動で街づくり、地域活性化を行っていたところ、今年の「リ・古典」事業を任されることになりました。
――「リ・古典」は、神奈川県の伝統文化を新しい形で発信するプロジェクトです。鈴木さん自身は、「リ・古典」をどのように捉えていますか?
鈴木:「リ」(=再生)ってなんだろうとずっと考えてきました。伝統芸能と現代的なダンスをコラボレーションさせるなどいろいろな表現方法があると思いますが、果たしてそれで定着するのかなと疑問を抱いていて。考えた結果、本物の伝統芸能を今の時代に上演し、若い人にお見せすること自体が再生なのかなと思ったんです。ですから今回の「リ・古典」では、伝統文化を掘り起こし、演出過多にせずそのままの形でお見せしたいと考えています。
――とはいえ、新しさも感じられますね。
鈴木:DJとして活躍するロバート・ハリスさんが総合司会を務めたり、巻上公一さん(音楽家)が演奏したりするというコラボレーションも促進しています。でも、薪能を小田原城で上演すること自体が「リ」だと思うんです。実は2009年まで小田原城で薪能が行われていたのですが、それ以降休止していて……。復活を望む声も多かったので、再挑戦することにしました。
ただ、当時は観世流という流派でしたが、今年は宝生流にお願いしたんです。小田原市の文化財課の方々と古い文献を調べたところ、宝生流は北条氏と交流があったとのこと。それなら宝生流にお願いして、小田原に縁のある「夜討曽我」を上演していただきたいと考えました。
――狂言の「文蔵」は、どのような演目でしょうか。
鈴木:「源平盛衰記」の石橋山合戦にまつわる演目です。小田原には源頼朝が挙兵した石橋山があり、この戦いで先陣を切って討ち死にした佐奈田義忠を祀る佐奈田霊社、その家臣を祀る文三堂も残っています。実は、私も石橋の生まれなんですよね。「文三堂ってあったよね」という雑談から、小田原ゆかりの演目を掘り起こそうという話になりました。
――まさに地域密着ですね。
鈴木:出演者も、小田原にゆかりのある人が多いんです。もともと僕は、小田原高校の謡曲同好会に所属していました。卒業後はバンドマンになり、そのあと音楽プロデューサーを務めていました。でも、10年前に「転職するなら今だな」と思い、小田原に帰ってくることに。小田原高校時代、音楽プロデューサー時代のつながりで、いろいろな人に声をかけました。
――例えばどんな方でしょう。
鈴木:いっしょに演出を考えている巻上公一さんも小田原高校の先輩。第一部に出演する落語家の柳家三三さんも、小田原高校出身なんです。総合司会のロバート・ハリスさんも横浜の方ですしね。
――ヒカシューの巻上公一さんが出演するのも意外性があります。
鈴木:薪能に直接かかわるのではなく、能の舞台で演奏をしていただきます。ステージ上で尺八を吹いたり、テルミンを弾いたりする予定です。小田原風鈴という小田原鋳物の伝統工芸品があるのですが、それも演奏に取り入れるとか。さらにFOOD(英国出身サックス奏者イアン・バラミーとノルウェー出身のドラム奏者トーマス・ストレーネンによる前衛ジャズユニット)もいっしょに出演してくれます。彼らが能の舞台に立つのも、非常に珍しいし、面白そうですよね。
「リ・古典」から広がる伝統文化の輪
――では、第一部の演目についてうかがいます。入場無料ですが、今お話に出た柳家三三さんの落語、遠州飯田山名神社祇園祭の芸能、小田原囃子など盛りだくさんですね。
鈴木:寺山神社の鹿島踊、箱根の湯立獅子舞、外郎売の口上も披露します。こうした伝統芸能はホールで発表することが多いので、なかなか一般の方が目にする機会がありません。今は、小田原城が改修を終えて観光客が増えていますから、城址公園で上演すれば多くの方々の目に留まるでしょう。しかも入場無料。柳家三三さん目当てで来る方もいるでしょうから、三三さんをだしにして伝統芸能を見ていただこうかなと(笑)。そして、それをロバート・ハリスさんにいじっていただきます(笑)。
――遠州飯田山名神社祇園祭は、静岡県の芸能ですよね。こちらを演目に加えた理由は?
鈴木:実はこちらも小田原にゆかりがあるんです。小田原には、外郎(ういろう)家による創業650年の企業「株式会社ういろう」があります。外郎は、今でいう薬屋さん。1300年代に中国から渡来し、博多で居を構えたのちに京都へ渡りました。祇園祭に「蟷螂(とうろう)山」というカマキリの乗った山鉾がありますが、それを作ったのが外郎家。本能寺のそばに拠点があったらしく、織田信長が外郎になったんじゃないか……なんて、俗説もあるようです(笑)。
その後、外郎家は北条早雲に呼ばれて小田原に移りましたが、小田原と京都の間にある、遠州にも蟷螂の舞を伝えたのではないかと言われています。山名神社の祇園祭では今でも舞が奉納されていますが、小田原で披露したことはありません。それなら、この機会にお願いしようと思った次第です。
――小田原城址公園というロケーションも魅力的です。
鈴木:改修後は、この地で積極的にイベントを開催しています。土日は約4000人が訪れますから、かなりの盛り上がりを見せます。小田原城の前で結婚式を開いたこともあるんですよ。
――鈴木さんご自身は、今回の「リ・古典」プロジェクトに携わることで新たな発見はありましたか?
鈴木:発見の連続でした。そもそも狂言の「文蔵」という演目を知ったのも、このプロジェクトがきっかけです。それに、歴史を見る時に、どこを切り取るのかという難しさも感じました。豊臣秀吉が小田原城を攻め、北条家は滅ぼされましたよね。そうなると、北条時代から残っているのは外郎家ぐらいなんです。しかも、秀吉が攻めた小田原城は今の場所ではなく、小田原高校の近くにある山城でした。子供の頃は、そんなことを教わりませんでしたよね(笑)。歴史をたどっていくと、いろいろなことが見えてくると感じました。
――県とはどのような連携体制を築いていますか?
鈴木:寺山神社の鹿島踊は、小田原だけでなく静岡にも残っているんですよね。今後は県と協力して、ばらばらになった伝統文化をつなげていきたいと思います。県の無形民俗文化財をいかに表に出していくか、県との共同事業として考えていきたいです。
――今回のプロジェクトから、さらなる広がりが生まれそうです。
鈴木:薪能の復活を望む声も大きかったことですし、来年以降も続けていきたいと考えています。そもそも小田原にはこの土地らしいイベントがほとんどなくて、寂しいんですよね。この機会に、ぜひ小田原を盛り上げたいと思っています。
それに、こうしたイベントは地域活性化にもつながりますよね。小田原城天守閣のリニューアルがテレビ番組でもたくさん紹介されましたが、観光客が回遊してくれれば、経済効果も期待できます。「リ・古典」という枠を外れても、遠くから人を呼べるイベントを続けていきたいです。
――最後に、9月19日(祝)に迫った「カナガワ リ・古典2016 in 小田原」のアピールをお願いします。
鈴木:ぜひ若い方にいらしてほしいですね。こういう機会でないと、なかなか薪能を見ることもないでしょう。しかも、世界的に有名な巻上公一さんのステージも見られます。ぜひ足を運んでいただき、本物に触れてほしいと思います。
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カナガワ リ・古典プロジェクト2016 小田原:http://re-coten2016.com/
FMおだわら:http://fm-odawara.com/