(TOP画像)撮影:田中亜紀
宮崎駿さんが太平洋戦争の歴史秘話を基に、平和の願いを込めて描いた『最貧前線』が、神奈川県立青少年センター 紅葉坂ホールで幕を開けます。原作の初出は、月刊モデルグラフィックス誌1990年2月号。その後『宮崎駿の雑想ノート』に収録され、ご本人をして「誰かが映画にしてくれればいいんですけど」と語っていた短編漫画です。
脚本を担当した井上桂さんは、当初、個人的な楽しみとして脚本を書いたそうです。後日、これを読んだ一色隆司さんが「これは演らないとダメでしょう!」と発起。ジブリ作品初となる舞台化に向けて一気に動き出しました。
舞台初日が近づくなか、稽古場に伺って脚本の井上桂さん、演出の一色隆司さんにお話を伺いました。
*撮影:田中亜紀
宮崎駿さんの世界を舞台で表現するために、大切にしたこととは?
一色 漁師たちが感じる大自然の猛々しさ、戦禍にあって自分たちが生き延びたいという思いなど、宮崎さんが描いたテーマを観る人にきちんと届けることです。脚本はすべての設計図なので、まずはこれを舞台用に再構築することが重要でした。
井上 基本ラインはできていたのですが、実際に舞台用の脚本にするには、ひと工夫もふた工夫も必要でした。
一色 舞台では実際に飛行機が飛ぶわけではないし、船が揺れるわけでもないので、観る側の想像力に働きかける必要があります。プロジェクションなどの力も借りますが、俳優の身体を使った表現や醸し出されるオーラを感じ取り、景色が観えなくてはいけません。その意味ではキャスティングも難しかったですね。「宮崎さんの作品だから」だけでなく『最貧前線』という作品に込められたメッセージに賛同し、その世界観を伝えられる人を集めることが重要で、必然的に豪華な顔ぶれになりました。
*撮影:田中亜紀
井上 宮崎作品のファン、役者さんのファン、企画に期待してくださる方、すべての方にこの作品を届けたい。その思いを実現できる、すごくいいチームができたと思っているので、これを結果につなげたいですね。
一色 舞台美術、音楽、照明など、スタッフも波長の合うメンバーが集まりました。それぞれがテーマを持って取り組み、本番に向けて「何ができるか?」とみんなで試行錯誤しているので、すべてが見所です!
井上 今回は、全国8カ所をツアーで回りますが、すべて公共の劇場です。公共劇場らしい内容とも思いますが、なによりも役者さんの“熱”も感じていただけると嬉しいです。幕開けの神奈川県立青少年センター紅葉坂ホールでは、通常より余裕のあるスケジュールを取っていただいたので、しっかり舞台を仕上げて初日を迎えることができそうです。
ご覧になる方にメッセージをお願いします。
井上 あの時代の人たちが、どれだけ一生懸命生きたのか。一つひとつのエピソードを重ねることで、その姿をリアルに描いた作品です。彼らの一生懸命さと役者さんが作品に立ち向かう一生懸命さが重なって、きっと素晴らしい舞台になると思います。宮崎さんのメッセージ、人が生きていく力強さを感じていただけたら、と思っています。
一色 舞台は言葉を伝えるメディアだと思われているかもしれませんが、僕は、人の心を伝えるメディアだと思っています。言葉で説明すれば伝わるというのは、作り手のおごりにすぎません。その人物がその舞台でどう生きて、何を見て、何を考えたのか。それを体感してもらうことで伝わるものがあると考えています。
舞台でできる可能性を模索して、いろんな意味でチャレンジしています。とにかく仕掛けだらけなので、余すところなく観て、楽しんでください!
8月に神奈川県立青少年センター 紅葉坂ホールで幕を開けた舞台は、豊橋、水戸、上田、新潟、世田谷、兵庫を巡回し、10月に大和市文化創造拠点 シリウスに戻り、千秋楽を迎えます。お楽しみに!
『最貧前線』
■原作:宮崎 駿
■脚本:井上 桂
■演出:一色隆司
■出演:内野聖陽、風間俊介、溝端淳平、ベンガル
佐藤 誓、加藤 啓、蕨野友也、福山康平、浦上晟周、塩谷 亮、前田旺志郎
【横浜公演】
■日程:2019年8月27日(火)18:30、28日(水)13:00/18:30、29日(木)13:00
■会場:神奈川県立青少年センター 紅葉坂ホール
■料金:8,000円 *未就学児童入場不可
【大和公演】
■日程:2019年10月26日(土)18:30、27日(日)13:00
■会場:大和市文化創造拠点 シリウス メインホール
*大和公演は予定枚数を終了しています。