行って、みて、感じるアートの世界
File.20 ティノ・セーガル@江之浦測候所 yet untitled
井上みゆき(マグカル編集部)
現代美術家・杉本博司氏が設計したアート空間「小田原文化財団 江之浦測候所」。海を臨む敷地には、最新技術を駆使した建築物や歴史的建造物、様々な物語を持つ石などが配置され、なんとも説明しがたい魅力的な空間を作り出している。
2019年10月4日、ここで「ティノ・セーガル@江之浦測候所 yet untitled」がスタートした。これまでも伝統芸能の公演などを開催してきたが、現代アートのプロジェクトは、2017年10月の開館以来、初めてのことだ。
ティノ・セーガル氏は、1976年ロンドンに生まれ、現在はベルリンを拠点に活動している。先日はパリ・オペラ座バレエでも振付を行ったが、基本的に記録を一切残さないハプニング的な作品で知られている。つまり、作品は目撃した来館者の記憶の中にのみ留められる、というわけ。
「私の作品は4次元(*編集部注:3次元+時間軸)です。テキストで記録されることに問題はありませんが、写真や映像として撮られ、2次元の作品として残されることは望んでいません」(セーガル氏)
待合棟で受付を済ませたら、室町時代に臨済宗建長寺派・明月院の正門として建てられた「明月門」をくぐって、セーガル氏の「ライブワーク」が行われる場所を目指す。
この日は、遠くを台風が通過した後だったためか、真夏のように青い海と空が広がる一方で、風が強く、周囲の木々が大きくざわめいていた。
「ライブワーク」は屋外で行われるので、観客は気温や空模様、海の色にも影響を受けることになる。自然もアートの一部として体験する、ということか。
「ライブワーク」が行われるのは、この先にある「野点席」。そこでは数人の「インタープリター」が声と身体を使い、風の音や鳥の鳴き声と調和しながら独特の空間を創り出していた。
「日本は自然と文化(人間がつくり出したもの)の差が小さく、伝統的な世界と現代がつながっていることに興味をひかれます。とくにこの場所は、海や自然を感じながら表現することができるので、ここでライブワークを発表するのは私にとって意義のあることです」(セーガル氏)
「ライブワーク」の撮影は一切不可なので、野点席を包む海と空と木々を撮ってみた。一つひとつの動作に時間などの決め事はなく、海を渡る風のように、始まりと終わりのタイミングもそれぞれに委ねられた“アートな時間”を、感じていただけるだろうか?
ちなみに、プロジェクト開催中も館内はいつも通り鑑賞でき、入館料も通常と同じ。見学時間をたっぷり使って、光学硝子舞台や夏至光遥拝100メートルギャラリーなどの最新建築、歴史的建造物、杉本氏のアート作品なども、じっくり観て回りたい。
財団設立者である杉本氏に話を聞いた。
「現代アートのプロジェクトは今回が初めてですが、ティノさんの熱い思いを受けて開催に至りました。江之浦測候所は、小田原の自然の中でアートを楽しむことを設立趣旨のひとつとしています。今日のライブワークを観たところ、風の音、鳥の鳴き声などとも素晴らしい一体感があるので、ティノさんの世界観とは親和性があると、改めて感じました」
★こちらのイベントは終了いたしました。
《ティノ・セーガル@江之浦測候所 yet untitled》
[会期]2019年10月4日~11月4日
[会場]小田原文化財団 江之浦測候所
[見学時間]午前の部(10:00~13:00)/午後の部(13:30~16:30)
[休館日]火水、年末年始および臨時休館日
[料金]
・インターネットから事前に購入の場合→ 午前の部、午後の部:3000円(税別)
・当日券の場合→ 午前の部、午後の部:3500円(税別)
※当日券は定員に達している場合、販売はございません。
*「ティノ・セーガル@江之浦測候所 yet untitled」企画は上記入館料に含まれます。