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演劇・ダンス

上演迫る野外劇「実朝出帆」、その稽古場にレポート密着! 「夢追い人」実朝が800年の時空を超え、今、秦野でよみがえる!!

上演迫る野外劇「実朝出帆」、その稽古場にレポート密着! 「夢追い人」実朝が800年の時空を超え、今、秦野でよみがえる!!

<Date>
『実朝出帆』
『劇的なる日本人』や『柔らかい個人主義の日本人』などの評論で知られる劇作家兼評論家・山崎正和(1934年〜)の代表作(1973年)。鎌倉幕府第3代征夷大将軍・源実朝が、北条氏や朝廷との政治闘争の中で、自らの希望を造船事業に託す様子を描く。

<Profile>
「中野敦之」
1981年生まれ。演出家、劇団唐ゼミ☆代表。横浜国立大学入学と同時に当時教授を務めていた唐十郎に師事する。2005年には劇団唐ゼミ☆の創立とともに、新国立劇場のプロデュース公演にて演出を担当。同劇場が取り上げた演出家として最年少記録を樹立した。以後、唐十郎の新旧作品を国内外で多数上演。これまでにない演出手法で多くのファンを獲得してきた。また、野外公演なども得意とし、公演環境のプロデュースを含めた演劇イベントの企画・運営なども手がける。

「清水優譲」
主演、源実朝役。1992年生まれ、神奈川県秦野市出身。新国立劇場演劇研修所9期生。卒業まもなく、新国立劇場にて、文化庁芸術祭主催のシェイクスピア没後400年記念公演『ヘンリー4世』に出演。六時間に及ぶ芝居で大役を熱演し、好評を博す。2017年より、縣樋(かけひ)プロダクション所属。

めくるめく人物像、実朝の真の姿はいずこに?

 まず、はじめに『実朝出帆』の概要ついて触れておきたい。

 『実朝出帆』の見どころには、造船事業に夢を託した「“夢想の人”実朝」と、執権として時の権力を握る「“行動の人”北条義時」の鮮やかなコントラストがある。そして、死者の霊魂によってありありと実朝像がつむがれていく劇中劇も大きな魅力だ。

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ここで死者とは・・・、

・「北条政子」:実朝の母
・「北条義時」:政子の弟にして実朝の叔父。自らの政治のため、実朝を裏で操ろうと画策
・「公暁(くぎょう)」:実朝の甥にして実朝を暗殺
・「梓」:実朝の妻
・「三浦義村」:源氏、北条氏をつかず離れずの距離を保つ武将
・「和田義盛」:実朝の信頼を受ける一方、北条義時と対立

 上記に加え、幕府の文官「大江広元」や、実朝の造船事業のきっかけをつくった「陳和卿(ちんなけい)」など、実朝を愛し、翻弄し、また暗殺した人々である。彼らによって、実朝は語られる。ある者は「いい子でした」、ある者は「気高い源氏の形見」、またある者は「将軍の位を盗んだ泥棒猫」などなど・・・。

 このように、霊魂によって実朝像はさまざまに変わる。果たして、 “真の実朝像”はどんな人物なのか。このように実朝出帆には、「鎌倉幕府第3代征夷大将軍」、「百人一首の歌人」といった既存のイメージを捨て、自由に推理できる楽しさもある。取り巻く霊魂のセリフに耳を傾けながら、自分なりの実朝像を見つけていく参加型の戯曲なのだ。

気鋭の若手と敏腕演出家のぶつかり合い! 上演迫る稽古場に立ち上る演技の熱

 稽古は、エピローグに続く第2幕のラストからはじまった。中野氏の合図により、それまでは談笑も聞こえた稽古場にキリっとした緊張感がみなぎる。

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実朝と妻・梓の場面。政子、義時、公暁などの目前から、実朝は梓を連れ去る。重笛が鳴り響くなか、手を引かれ絶叫する梓と、実朝の取った大胆不敵な行動に唖然とする一同の表情が見どころだ。

 場面を終えて、中野氏より演技指導が入った。「梓の間と仕草」だった。一同の前で実朝に手を握られ、連れ去られるまでの表現について、そうではないというのだ。後考すれば驚き、恐怖、未知への不安へのより事細かな描写だろうか。中野氏のアドバイスは、梓の心もとない仕草を的確に喝破していく。

 また、絶叫にも指示が入った。作中では“梓”とあるが、実は

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歴史上実名は伝わっておらず、「実朝の妻」と呼ばれる公家・内大臣坊門信清の娘である。それを思えば、どんな場面においても朝廷の人物らしい、かつ女性らしい叫び声をイメージするが・・・、アドバイスを得た梓役・津内口淑香氏から絞り出されたのは、そのような歴史の色をもたない、いつの時代にも通じる人間の叫び声であるように感じられた。

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 2時間ほど観覧した稽古は、終始迫力に満ち満ちていた。本劇を演じるのは、神奈川中心に公募で集まった若手演劇人や演劇志望の学生たちなのだという。当然、この劇を将来への大きなステップと考える者もいるだろう。その屈託のない野心や演劇に対する情熱やひたむきさ、そしてあふれる若さ。それらを受け止め、正しい方向へと導き劇の完成度をあげていく中野氏の演出。台本の素晴らしさはもちろん、この稽古の迫力は、このふたつのエネルギーのぶつかりにもあるように思えた。当日の上演が待ち遠しい。

 観覧を終え、中野氏より劇の解説をいただいたので、ここに紹介する。内容的な話題は省くが、中野氏はこの劇を「希望の物語」だとも言う。

 「『実朝出帆』が発表されたのは、1973年。1970年代といえば、若者が政治運動に挫折し、希望を見出しづらくなっていった時代です。『実朝出帆』は鎌倉時代を題材にしているわけですが、実は初演時の時代背景にもリンクした内容です。さらに加えれば、研究者として時に日本政府にも発言力を持った作者・山崎正和さん自身の軌跡とも密接な関係があると考えています。詳細は省きますが、社会における人と人との軋轢、息が詰まりそうな状況下で生きる青年期の若者の機微が根底にあって、時を経た現在であっても、感動を与えられる名作です。何より、物語には大きな希望がある。実朝は、歴史上では消極的で政治の才はなく歌ばかり詠んでいた人物と捉えられ、作中の主要テーマである造船事業も酔狂な行動だったと評価されがちです。でも、この劇の実朝は、造船に望みを託す夢追い人であり、人々に翻弄されるなかで精一杯前向きに生きた人物でもあります。ですから、若者にも鑑賞してもらいたいし、歴史物である前に、人間ドラマとしても感動的だと確信しています」

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また、開催について中野氏はこう話す。

 「あと、源実朝公御首塚がある秦野市田原で開催するというのも注目してもらいたいです。舞台のすぐ近くに実朝公を祀った塚が実際にありますから、実朝公を偲んで、彼がどんな人だったか想像力を膨らませる絶好の環境が整っています。あとは・・・、お蕎麦(笑)。開催地の田原ふるさと公園の近くに、とびきり美味いお蕎麦屋さんがあるんです。里山が広がる田原の美しい春の景色、美味い蕎麦、そしてこの場所だからこそ成立する野外劇、ぜひまるごと楽しんでいただきたいですね」。

歴史から、哲学まで。一人ひとりの見方で楽しめる名作を、実朝ゆかりの地でぜひ

最後に、源実朝役を演じる主演・清水優譲氏に加え、北条義時役の熊野晋也氏(劇団唐ゼミ☆)、公暁役の島原久典氏(マグカル・パフォーミングアーツ・アカデミー)の3名にインタビューの機会を得た。一週間に迫った上演の意気込みなどを聞き、レポートを結ぶこととする。

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−メンバーは全員公募で集まったと聞いています。本公演のどんなところに魅力を感じたのですか?

【熊野】野外劇という点ですね。所属する劇団唐ゼミ☆では、野外劇に加え、テント公演なども行ってきました。劇場での公演に比べて、野外劇ではライブ感や、お客さんとの一体感をより強く感じられるところが面白く、僕は完全に虜になっています。それで、今回の公演にも参加したいな、と。あと、公演地の素晴らしさですよね。実朝公のお話を、源実朝公御首塚の隣で演じられる。これは、なかなかないチャンスだと思いました。

【清水】熊野さんとは違い、野外劇の経験はありませんでした。それで、役者としてよい経験を積めるのでは、と。あと、僕は秦野出身なんです。小さいころ授業の一環で、源実朝公御首塚を見学したこともあります。そういった思い出もあり、加えて台本のおもしろさが大きな後押しになりました。登場人物がそれぞれ際立っていて、野心に溢れ、浮世離れした感じというのでしょうか、そのような人物たちに魅力を感じてぜひ参加してみたいと思いました。

【島原】普段、僕はミュージカルへの出演が多いんです。マグカル・パフォーミングアーツ・アカデミーで勉強をしつつ、定期的に開催するミュージカル公演に参加してきました。それで、ある公演の脚本・演出をされていた方がつかこうへいさんのお弟子さんで、その方から唐十郎さんのお話を聞く機会がありました。そのひとつひとつがとてもおもしろく、かつ刺激的で、ミュージカル以外の舞台にも出演してみたいなと思ったんです。そして今回は、唐さんに師事していた中野さんの演出を受けることができる。これが個人的に感じている魅力です(笑)僕は役者としてまだまだ日が浅く、清水さんや熊野さんは尊敬する先輩。実は今、少し緊張しているんです。

【清水&熊野】(笑)。

−ミュージカルと今回の公演との違いはありますか?

【島原】スピード感や間の取り方が全然違いますね。あと、長い台詞が多い。そして一番の違いはやはり、野外劇ということ。野外でもお客さんに届けられる発声を心がけながら、そのなかで抑揚をつけるのに苦心しています。乗り越えるべき壁はまだまだありますが、中野さんからのアドバイスはもちろん、先輩方からあたたかい言葉もいただけるので、とにかく全力でやり遂げることに集中しています。

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【熊野】島原くんは、ある瞬間の台詞に熱を込めるのがとても上手いんですよ。もしかしたら、それは音楽に合わせてピンポイントに感情をのせていくミュージカルでの経験があるのかもしれないですね。あと、稽古初期から感じていたことですが、すごい情熱を持って稽古に臨んでいるのがわかる。先週のことですが、休み明けに演技が格段によくなっていたんですよ。全然違っていましたね。

【清水】ああ、確かに。役的には島原くんの公暁と絡むシーンは少ないんですが・・・、脇で聞いていてもどっしりというか、台詞の一つひとつが板についてきたなと明らかに感じます。

【島原】中野さんから、「自分の役だけでなく、周りの台詞や仕草を理解しなさい。そうすれば、演技は自然と湧き出てくる」と、アドバイスをいただいたんです。それで稽古休みには、自分の役以外にも注目して、ずっと台本を読み込んでいました。

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−中野氏の演出の特徴や演技指導のエピソードを教えてください。

【清水】役者の演技ありきではなく、重要なのは台本であるということですね。台本が伝えたいものは何なのか? そこの理解から稽古がはじまる。なので、僕たちからしてみると、とても演技をしやすい。余分なことを考えず集中することができます。

【熊野】とても印象的だったのが、「“解釈”と“解析”は違う。まず必要なのは“解析”である」というお話でした。自分の“解釈”で、つまり、雰囲気で演じるなということで、何となく楽しそうに、また悲しそうに演じるのではなく、台本になぜその場面が入っているのか? なぜその言葉を話すのか? それを“解析”した上で演じなさい、ということです。先ほどの清水くんのお話にも重なりますが・・・、台本が欲しているもの、それをまず理解せよ、と。

【清水】これまでの僕の経験では、なかなかいないタイプの演出家ですね。台本を第一に考える中野さんの演出手法はとても理にかなっていると感じます。

【島原】僕がとても印象に残っているのは、「内面で演技をつくるな」と指導を受けたことです。「すべて、外に吐き出せ」と。意識していたつもりだったのですが、中野さんの言葉にハッとさせられました。それ以前とそれ以降とでは、自分の演技がハッキリと変ったと思います。とても演じやすくなったんです。

−上演までついに一週間を切りました。最後にお客さんに向けてメッセージをお願いします。

【島原】僕は、公暁という役を演じます。実朝を暗殺する人物なのですが、その経緯を辿れば、公暁もまた世の中や人に翻弄される悲劇の人物です。作品はもちろん、ぜひ公暁の感情の揺れ動きなどにも注目していただければと思います。

【熊野】実朝や鎌倉幕府を題材にしているものの、歴史ファンのみならず、誰もが気軽に楽しめる素敵なお芝居です。ぜひ多くの方に観ていただきたいですね。あと、物語を通して「実朝はどんな人物だったのか?」という問いが続くのですが、そこもみなさんに楽しんで欲しい。僕が演じる北条義時をはじめ、皆で実朝について語っていく。時にはある登場人物を通して、時には全体を俯瞰して、観ているお客さんが僕たち演者と一緒になって、実朝像を追い求めてもらえればと思います。また、実質的な支配者である義時が変容していく様子にもぜひ注目してもらいたいですね。

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【清水】実朝の見どころについては・・・、ふたつあります。ひとつは、熊野くんのお話にもありましたが、人物の魅力。実朝には歌人であり政治的野心の無い人物という既存のイメージがありますが、『実朝出帆』ではそのイメージを覆すような面が垣間見えて、役づくりでもその点を重視しています。既存のイメージを軽やかに超える青年将軍の姿を観ていただければと思います。もうひとつは、「生き方」について。劇中で描かれる実朝の生き方には、現代にも通じる哲学があると思います。少し視点を変えれば、より豊かに人生を楽しめるのではないか。そのような問いを山崎正和さんは『実朝出帆』に込めたのだと感じます。歴史物や人間ドラマとしてはもちろん、生き方を学べる劇でもありますので、ぜひ自由な視点で上演を楽しんでいただきたいと思っています。

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野外劇『実朝出帆』
日時:2018年3月17日(土)、18日(日)

開演:15:00〜(会場14:40〜)
*雨天決行、荒天中止

料金:20歳以上1,000円、19歳以下500円
秦野市民無料
*要予約(当日券有)
*前売り・当日ともに料金は同額

定員:両日200名

会場:秦野市田原ふるさと公園

アクセス:小田急線秦野駅よりバス。藤棚行き(秦23)または秦野駅循環(秦26および秦27)にて、「中庭」下車、徒歩3分。

予約受付・問い合わせ:
TEL:070-1467-9274
MAIL:center_field_llc@yahoo.co.jp

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