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演劇・ダンス

『机上の空論』、三冠受賞特別インタビュー!  作品とともに満場の喝采を浴びた、演劇カンパニー「平泳ぎ本店」とは?

『机上の空論』、三冠受賞特別インタビュー!  作品とともに満場の喝采を浴びた、演劇カンパニー「平泳ぎ本店」とは?

平泳ぎ本店が振り返る、かもさい上演とその魅力

−まずは三冠受賞おめでとうございます。

 【松本】ありがとうございます。これまでの活動のなかでも、ひときわうれしいですね。というのも、今回の参加の経緯には、2017年7月に開催された「せんがわ劇場演劇コンクール」での苦い経験があります。「平泳ぎ本店」含め6つの団体が参加したのですが、6団体中私たちのみ賞を受賞できず、たいへん厳しい評価も受けました。その経験と試行錯誤を経て今回のかもさいでの受賞につながったので、純粋によかったという気持ちが大きいです。

 これもひとえに武重さんの『机上の空論』という作品と出会えたおかげだと思います。本当にとても面白い作品を上演させて頂けて幸せでした。

 ただ、正直に言えば、俳優賞も狙いたかったですね。「平泳ぎ本店」は、俳優だけの演劇カンパニーなんです。劇作家や演出家がいない中で、俳優だけでどこまで活動できるか? そこにこだわりを持ち、演出や脚本もみんなで一から考えてつくり活動してきたので。そういう意味では今後取り組むべき課題も得た演劇祭になりました。

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−演出・出演を務めた戯曲『机上の空論』について、なにか感想はありますか?

 【鈴木】台本をいただいて、率直な感想をメンバーで共有したのですが、僕が感じたのは「さまざまなアプローチができる作品」でした。物語は、小説家と編集者、小説家志望の男とその妻が現実と小説世界を交差しながら進むのですが、どこからが現実でどこからが小説世界なのか、その境目が明確にはされていないんです。つまり、演者にもその判断がゆだねられる。そこが難しさであり、この作品の奥深さだと。

 考えてみれば、演劇自体がそういう芸術だと思うんですよ。テーマはあるにしても、お客さんの受け取り方は十人十色。一人ひとりに違う感動を与えるものが演劇です。『机上の空論』は、そういう意味でもまさに演劇らしい作品だなとも感じました。

【松本】私は、今回演出を担当したので、とにかく作品のよさを正しく伝えなければ、と。その責任に当初は大きなプレッシャーもありました。でも、上演ではこちらの意図したことがお客さんに受け入れられているという感覚があり、自信にもつなげることができました。

 あと、よい意味で私たちの固定概念を変えてくれた作品ですね。「平泳ぎ本店」は男性俳優のみによるカンパニーなので、女性役が必要な作品は上演していなかったんです。そこには、一応私たちなりのこだわりがあったんです。でも『机上の空論』を読んだ時に、この作品の魅力を正しく伝えるためには、女性の出演者が欠かせないと思いました。そこで、それまでのこだわりは捨てて研究生時代からの友人である久門さんに参加してもらったんです。

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【久門】上演は1月下旬なのに、12月上旬に突然連絡を受けて、少し驚きました(笑)。また、20分間という制約がある作品に出演したことがなかったので、ためらいもありました。でも、研修所時代からの仲間ですし、松本くんが演出する作品に出られるということもとてもうれしかったですね。

【松本】そして自分たちのこだわりよりも作品のことだけを考えた結果、よい評価をいただけた。これは、私たちにとって重要なことだと感じています。これまで、自分たちの方向性はメンバーで煮詰めていくのみでしたが、こだわりを意識しすぎず、もっと純粋に作品のことを考えて取り組んでいこうという気持ちを持つことができました。

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−受賞はもとより、劇団としても得るものが大きかったのですね。ずばり、かもさいは演者にとってどのような演劇祭ですか?

 【松本】素晴らしい演劇祭ですよね。全国、海外の劇団が集まることができ、またそれぞれの役者の演技にも触れられる。私たちにとっても、非常に貴重な機会でした。

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 普段では、これほどの数の作品を一気に観られる機会はまずないですし、日本各地のみならず海外の劇団と交流できるチャンスもありません。KAATの大スタジオという大きな舞台、多くの人々の前で演じるというコンクール自体の魅力もありますが、なにより、他の劇団とその作品との出会いがよい刺激になります。

 例えば、今回の韓国チーム「劇団同感」とその作品『代案家庭生態報告書』。作品のクオリティの高さと同時に、日本の演劇とは違うよさを感じました。それは具体的には「統率力」で、メンバーの動きの調和がとても取れていて、公演ごとのプロデュース公演が主体となるいわゆる日本の小劇場の演者とは違う意識を持って演技していることがわかる。このような違いに直に触れるられたことは、とても勉強になります。

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 【鈴木】神奈川、横浜という街でこういうコンクールがあること自体、素晴らしいことだと思います。県や市も率先して環境を整えてくださっていて、演者としてありがたい限りです。また、少し抽象的ですが・・・、KAATの大スタジオは演じていて“気持ちよい舞台”だなと感じました。規模の大小の話ではなくて、演者がすっと、演技に没頭できる。演じる場所としてとても魅力的でした!!

−第4回の参加を考えていますか?

【一同】それは、もちろん!(笑)。

【鈴木】今回、いただいた批評のなかで、演技についての指摘もありました。僕の場合は発声についてでしたが、今後に生かし、また来年も参加できればと思います。

−参加を考えている劇団に向けて、メッセージをお願いします。

【丸山】メッセージというよりも、僕が感じていることなのですが・・・、やはり他の劇団の演技に触れられるのは素晴らしい体験になります。特に、『酒とお蕎麦と男と女』を上演した島根県の「亀二藤」の演技から、そう思いました。今の自分にはない演技に触れられる、それだけでも大きな経験になるので、ぜひたくさんの劇団にチャレンジしてもらいたいですね。

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第2回公演『えのえを なれゐて』 早稲田小劇場どらま館にて 撮影:北原美喜男

なぜ、平泳ぎ本店は俳優だけの劇団なのか?

−最初のお話にもありましたが、「平泳ぎ本店」は、脚本家、演出家不在の“俳優主体”の劇団だと聞いています。それはなぜですか?

 【鈴木】松本の思いがきっかけなんです。まず、全員文学座附属演劇研究所の研究生でした。それが縁で、2015年の「平泳ぎ本店」の結成に至ります。ただ、はじめから現在のようなスタンスだったのではなく、結成当初は既成の脚本で公演をしていました。そこからしばらくして、松本から「俳優として社会に出るためには、一人ひとりが自立できる存在でなくては」という提案があったんですよ。それで、現在までのおよそ二年間、俳優がすべてを考え行う劇団として活動してきました。例えば、これまで影響を受けた映画のシーンやセリフを各自が持ち寄って、オムニバス形式の演劇をつくったこともあります。

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 一人ひとりが自分を見つめ、皆でいちから演劇表現を追求していく。失敗も成功も、通常の劇団では得られない経験ができていますし、また自分にしかない演技を徹底的に磨くことができる劇団です。

−役者として、より成長していくためのこだわりなのですね。松本さんが思う、メンバーの強みを教えてください。

 【松本】小川くんは、“熱のある役”、例えば、つかこうへいさんの作品に出てくるような強いお芝居を得意とするタイプ。鈴木くんは理知的というか、きちっと論理立ててセリフを話せるタイプの役者ですね。そして、宍倉くんはとても個性が強く、独特の雰囲気を持っている。

 【宍倉】・・・、(笑)。

 【松本】なので、なんてことのないちょっとした一言でも魅力的に感じさせられる役者です。そして丸山くんは・・・、普段は荒削りだけど本番に強い。

 【丸山】(笑) それって、強みなんですか?

 【松本】破天荒というか、不確定要素を持つ役者で、そこが大きな魅力ですね。見た目も小さいからお客さんからも割と親しまれる。

 このように、それぞれ違う強みを持ち、それを発揮できるメンバーが集まっているのが「平泳ぎ本店」の強みでもあります。作品の内容やシーンに応じて誰がイニシアチブを取るかなど、柔軟に作品を練ることができるので、幅広い創作活動が行えるんです。そこを掘り下げたいという気持ちがあり、先ほどの鈴木くんのお話のようにこれまでは台本づくりも自分たちで取り組んできました。

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立ち止まり、悩み、導かれ。気鋭の演劇カンパニーがあらたなスタートを切る

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−次回上演する作品は、今回のように劇作家の脚本があると聞いています。方向性に変化があったのですか?

 【松本】いくつかのご縁によるところが大きいですね。俳優主体の劇団として活動した約2年間で得たものは、非常に大きいものでした。でも、最初にお話しした「せんがわ劇場演劇コンクール」然り、舞台上でその成果をうまく発揮できていなかった。それで、劇団の方向性について、このままでよいのかと悩んでいた時期がありました。

 そこからもう一度、俳優として劇作家の言葉ときちんと向かい合おうと決め、かもさいへの参加を決意したのは、実は神奈川芸術文化財団・全県展開事業プログラムディレクターの中野敦之さんからいただいた一言なんです。

中野さんは先のせんがわ劇場演劇コンクールをたまたまご覧になって下さっていて、
「俳優としての力は個々にはある。だからこそ、今の状態はもったいない。劇作家をつかまえるべきだ。」という内容でしたが、私たち自身も今度どうすべきか考えあぐねてことだったので、すっと腑に落ちました。

 そして、あたらしい「平泳ぎ本店」としての今があります。

 今年の2月16日から早稲田小劇場どらま館で上演する『ボーク』は、その第一弾です。脚本は気鋭の劇作家・越寛生さんに担当していただいているのですが、越さんも私たちのこれまでの活動を知ったうえで快く引き受けてくださいました。とても面白い戯曲ですし、またそれを手がかりに私たちの演技もより進化していますので、ぜひ、多くのかたに足を運んでいただきたいと思います。

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−最後に、みなさんがめざす役者像や劇団の目標を教えてください。

【鈴木】僕はものごとを客観的に見るくせがあるんです。演技も自分のことはもちろんですが、作品全体がどう進んでいくかが気になる。その大きな流れの一部をうまく支えられていると実感できたときにやりがいを感じます。なので、どんな作品にも対応でき、支えられる役者をめざしていきたいですね。

【小川】“伝えられる役者”をめざしたいですね。一例ですが、「切る」という演技でも、何を切るか? 役者が明確にイメージしているか否かでは、伝わり方は違います。あらゆる表現をお客さんに違和感なく、そして明確に伝えられる、そんな役者になりたいです。

【宍倉】地に足のついた役者ですね。例えば、樹木希林さんでしょうか。その人が立つだけで、空間全体に雰囲気を伝えることができる。あと、めざすというのではありませんが、演技をしていて、演者と「共感」しているなと感じる瞬間があるんです。なにを感じているのかは言葉にできないけど・・・、その瞬間の感情を大切にしていきたいです。

【丸山】感情を自然に伝えられる役者ですね。楽しい、悲しい、怒っているなど、そういった表現をお客さんに本当に共感していただけるような演技を磨いていきたいと思います。

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【松本】演劇は、「言葉の芸術」です。そして、言葉でもって人の心や感情の機微など、言葉に表せないものを表現しようとするところに感動が生まれる。その、「言葉を尽くして、絶えず人の心や、想像するしかないものを描く」ということを、これからも追求していきたいと思っています。

 劇団の目標としては、海外公演ですね。「平泳ぎ本店」という名前もいずれ海外での活動していくことを意識してつけたんです。漢字で「平泳ぎ本店」とつけることで、日本のカンパニーなのだというアイデンティティを持ち、世界で活躍したいと考えてのことでした。また、“平泳ぎ”という言葉で念頭にあったのは元競泳日本代表の北島康介選手の活躍なんです。技術を磨けば、体格や運動神経の差を乗り越えて、世界で勝負できる。それはきっと、演劇でも同じことだと。

 そう遠くない将来に、海外の舞台で自分たちの演技を披露したいと考えています。

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平泳ぎ本店第4回公演『ボーク』
公演日程:2018年2月16日(金)〜2月19日(月)
公演場所:早稲田小劇場どらま館 〒169-0071 東京都新宿区戸塚町1-101
開演:16日(金)19:30、17日(土)14:00〜/19:30〜、18日(日)14:00〜/19:30〜、19日(月)14:00〜
チケット:前売り2,500円 当日3,000円 ペアチケット4,000円 学生1,000円 カルチベートチケット2,000円
●取扱い
【当日精算・銀行振込でのご予約】カルテットオンライン
https://www.quartet-online.net/ticket/hiraoyogihonten4th
【クレジット決済でのご予約】演劇パス
http://engeki.jp/pass/events/detail/356
問い合わせ:hiraoyogihonten@gmail.com または090-4099-2941

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平泳ぎ本店メンバー・鈴木大倫出演作『見晴らす丘の紳士』
公演日程:2018年3月7日(水)〜3月11日(日)
公演場所:北とぴあペガサスホール 〒114-8503 東京都北区王子1-11-1 5F
開演:7日(水)19:30〜、8日(木)14:00〜/19:30〜、9日(金)19:30〜、10日(土)14:00〜/19:30〜、11日(日)14:00〜/18:00〜
チケット:前売り3,500円 当日3,800円 高校生以下1,000円
問い合わせ: 03-5912-0840(J-Stage Navi )

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