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演劇・ダンス

人材育成、場の提供により舞台芸術を下支えする 神奈川県立青少年センターの取組

人材育成、場の提供により舞台芸術を下支えする 神奈川県立青少年センターの取組

青少年センターは「若者文化の開放区」

――青少年センターでは、青少年施策のほかに舞台芸術活動の支援も行っています。その目的をお聞かせください。

池上:私たちの本務は、青少年の健全育成です。青少年センターも青少年育成の場であり、「若者文化の開放区」。演劇やダンス、音楽などのパフォーマンスの練習や発表のため、自由に使える場として機能しています。

そんな中、神奈川県では2013年から「マグカル」の取組を始めました。「マグカル」は、神奈川の文化そのものがマグネットとなって、人を引き付け、街に魅力と賑わいをもたらす「マグネット・カルチャー」の略称です。「マグカル」と青少年センターが結びつき、舞台芸術に関する取組はさらなる広がりを見せています。

――具体的には、どのような取組でしょうか。

藤岡:「マグカル」には、舞台芸術を中心とした文化芸術の振興、街のにぎわいの創出、地域の魅力の掘り起こし、人材育成など、さまざまな側面があります。その中でも、青少年センターでは人材育成を担っています。

池上:それが、以下の4本柱です。第一に「マグカル・フライデー」。こちらは演劇や音楽などの公演のため、毎週金曜日に多目的プラザの施設・設備を無料でお貸しする試みです。第二に「マグカル・シアター」。こちらは1週間にわたって多目的プラザを無料で使っていただけます。第三に「青少年のための芝居塾」。高校生から29歳までの青少年に芝居作りを楽しんでもらうため、演技だけでなく大道具や衣装作りも自ら行い、8月には本公演を開催しています。そして第四に「ハイスクール演劇フェスタ」。学校演劇を支援するため、高校演劇県大会で好成績を収めた演劇を一般に向けて公開しています。

神奈川県立青少年センター 舞台芸術課の取組

藤岡:黒岩知事は神奈川をブロードウェイにしたいと語っています。とはいえ、そう簡単に劇場を増やすことはできません。そこで、県では、4年前からバーチャルのブロードウェイである「MAGCUL.net」を立ち上げるとともに、「マグカル・フライデー」「マグカル・シアター」を始めることにしました。本場ブロードウェイのアポロシアターでは、新しい才能を発掘する「アマチュアナイト」を続けています。これまでに多くのスターを輩出し、エンタテインメントの登竜門となっています。「マグカル・フライデー」「マグカル・シアター」も、こうした発想から始まりました。

 そもそも青少年センターでは、「マグカル」がスタートする前から、開館以来50年以上にわたり、演劇に関する取組を行っています。「マグカル」ですべてが新しく始まったわけではなく、もともとの取組に新たな発想を取り入れ、現在のようなラインナップになりました。

――人材育成と場の提供、両輪で舞台芸術を支援しているんですね。

池上:たとえばKAAT神奈川芸術劇場では、劇団四季のロングラン公演、白井晃さん演出の演劇公演などを行われます。こうした一流アーティストの招聘も「マグカル」の一環ですが、青少年センターは舞台芸術の裾野を広げる役割を担っています。「自分たちで劇場を借りるのは難しい」という若手も、青少年センターなら手軽に利用できますよね。演劇、音楽、ダンスなどの発表を行う場として青少年センターを利用し、力をつけてもらえればと思っています。

藤岡:「マグカル・シアター」で上演された演目の中から「これは」と思う作品を制作した団体を、KAATに推薦することもあります。翌年度にその団体の公演がKAATで実現することも。まだまだ課題は多いですが、「マグカル劇場」の取組を通じて若い世代の人材が育ち、そのうちの一部がプロフェッショナルとして、KAATなどにステップアップしてさらに成長するというサイクルを目指しています。

池上:裏方スタッフの技術支援も行っています。去年、今年と脚本講座、大道具講座を開催しました。学生は、大道具の作り方を知る機会がなかなかありません。そこで実際にトンカチを持ち、大道具を作るワークショップを開きました。

県の舞台芸術をけん引する人材育成を目指して

――2014年からは、ミュージカル俳優を育てる「マグカル・パフォーミングアーツ・アカデミー」も始まりました。こちらと「青少年のための芝居塾」との違いを教えてください。

池上:「芝居塾」は、舞台に立つ達成感を味わっていただく市民参加型の演劇事業です。「舞台ってこんなに楽しいんだ」と初めて知ってもらうような場ですね。いきなり劇団に入るのはハードルが高いでしょうが、こちらは気軽に参加できます。一方「アカデミー」は、神奈川県の舞台芸術をけん引する人材を育てることが目標です。

――成果はいかがでしょうか。

池上:何をもって成果とするか、基準が難しいですよね……。とはいえ「アカデミー」では、早くも映画や舞台、テレビで活躍する生徒が育ちつつあります。入塾当時は不得手だった生徒もめざましい成長を遂げ、今年4月の成果発表会を観たプロダクション関係者から声をかけられたそうです。

藤岡:年齢も若いので、伸びしろが大きいですよね。スポーツと同じように、急激な成長曲線を描きます。

池上:8月に有料の本公演を行い、来年には塾長を務める横内謙介さんの新作を上演する予定なので、そこで「アカデミー」の真価が問われると思います。

 確かに全員がテレビで活躍するスターになれるかと言ったら、それは難しいでしょう。でも「アカデミー」出身者が将来指導者として神奈川県で舞台芸術を教えたり、次世代の才能を育てたりするようになれば、それも大きな成果ではないかと思っています。本年度は新しい塾生も加わり、現在34名で頑張っています。4月の成果発表会を観て入塾を決めた生徒もいます。それも「アカデミー」の成果と言えるかもしれません。

――その他の取組については、どのような手ごたえを感じていますか?

池上:「マグカル・フライデー」「マグカル・シアター」に関しては、応募団体が増えています。公演内容も、徐々にレベルアップしているように感じます。やはり多くの人の目にさらされることで成長するんでしょうね。また、大学演劇の大会も開催し、そのつながりから新たな劇団を作る人が出てくるなど、舞台芸術に関わる人同士の交流も生まれています。

藤岡:青少年センターでは、演劇資料室も設けています。1万冊以上の演劇資料を所蔵する演劇専門図書館です。ここの施設が全国的にみてもユニークなのは、館外への貸し出しも行っていることと、運営がボランティアスタッフの皆さまの熱意によって支えられていることです。演劇部の生徒さんが、資料室のスタッフからアドバイスを受けながら脚本を選んでいる場面もよく見かけます。青少年に向けて舞台芸術への入口を幾つか用意するのは、当館の大事な取組と認識しています。その一環で、学校演劇をサポートする役割を果たしているのであれば、うれしいですね。

マグカル事業とは?

舞台芸術の敷居を下げ、観客を増やしたい

――青少年センターの今後の展望についてお聞かせください。

池上:「若者文化の開放区」としての取組は、今後も続けていきます。中高生の学校演劇は部活として学校や連盟が支援していますが、大学生や20代の若手俳優を育成・支援する取組は今までまったくありませんでした。それが「マグカル・シアター」などを通じて、少しはサポートできたのではないかと思います。今後も青少年センターの役割を果たし、若者たちが舞台芸術活動を行う場所でありたいと願っています。

藤岡:同じ県立施設であるKAAT神奈川芸術劇場は、トップレベルのアーティストと共に創造活動を行う場所としての役割を担っていますが、県立青少年センターの役割は、舞台芸術の敷居を下げ、青少年や初心者にその楽しさを知ってもらうことと言えるのではないでしょうか?
 相鉄本多劇場や県立女性センターホールなど、県内の施設が減っていく中で公演場所を提供したり、学校演劇の素晴らしさを広く知っていただいたり、人材を育成したりという舞台芸術の下支えが我々の存在意義です。青少年も含めたアマチュアが育たなければ、その頂点にいるプロの火も消えてしまいます。この火を灯し続けるため、我々にできることを続けていきたいですね。

池上:舞台芸術の敷居を下げることで、俳優やスタッフだけでなく観る人も増やしていきたいですよね。いきなり1万円のチケット代を払うとなると抵抗がありますが、「マグカル・シアター」の公演や学生演劇なら気軽に観賞できます。高校演劇は本当に面白いですよ。アマチュア演劇だから素人レベルだろうと思ったら大間違い。メッセージ性の強く、思わず唸るような作品もたくさんあります。ぜひ多くの方に足を運んでいただき、舞台芸術の一端に触れていただきたいですね。

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