
劇王神奈川 Ⅳ|四代目劇王「もじゃもじゃ頭とへらへら眼鏡」インタビュー
10月18日(日)、神奈川県立青少年センターにて「劇王神奈川 Ⅳ」の決勝戦が開催された。「劇王」は上演時間20分という厳しいルール、判定は審査員だけでなく、会場の観客にもその場で投票してもらうという、言わば“ガチ”なバトルトーナメント式の演劇祭である。決勝は各ブロックを勝ち上がってきた「劇団駄菓子屋ぶーとん」「いきずり」「チリアクターズ」「劇団820製作所」と、前回の優勝者である「もじゃもじゃ頭とへらへら眼鏡」がシードで出場しての計5団体での戦いとなったのだが、観客票、審査員票ともに圧倒的な差をつけ見事「もじゃもじゃ頭とへらへら眼鏡」が連覇を達成し、四代目の「劇王」となった。マグカルでは決勝後に「もじゃもじゃ頭とへらへら眼鏡」の脚本担当の河田唱子、演出担当の笹浦暢大、両氏にお話をお聞きしした。
--第四代目「劇王」おめでとうございます!三代目劇王としてのシード出場ということもあり、かなりのプレッシャーもあったかと思います。連続優勝が決定した瞬間のお気持ちはいかがでしたか?
笹浦:やはりお客さんからの投票だけじゃなくて審査員の評価もあっての優勝というのはとても嬉しかったですね。観客票、審査員票ともに勝たないと本当の勝ちだと言えないと思うので。
--確かに圧倒的な票を獲得されて納得の優勝という感じでした。
笹浦:そうですね。後一歩で完全勝利だったのですが(笑)。
河田:でも初めての人も含め今回は本当に多くの団体の方々が参加されていたので、私は「勝つぞ!」というよりは「いいものができたら」という気持ちで挑んでいました。笹浦は違いますけど(笑)、なので内心とてもびっくりしました。
全演目が終了し緊張した面持ちで審査員の話を聞く参加者達。優勝した河田唱子には特注の劇王スカジャンが贈呈された。
--作品に関してはいつも河田さんが脚本を担当され、笹浦さんが演出をされていますね。制作の段階についての質問ですが、お二人が作品を作りあげていく上での進めかたはどのような?
笹浦:僕らの場合は、河田が書き上げた台本を役者に見せる前に僕が確認して「ここをこうしたい」という僕の要望も出し、互いに内容を詰めていきます。僕達は劇団ではないのでそこから出てもらいたい役者さんにオファーをかけたりして、そこで初めて形になっていくパターンが多いですね。ただ今回の場合は先に役者が決まっていて、そこから「この役者だったらこんな脚本がいいよね」って感じでいくつかあった案の中から今回上演したピアノを題材にした脚本に決定しました。でも当初は「黒人の男性教師と女子高生」という設定を今回のキャストでやろうとしていて、僕の「ごめん。それ演出できないわ」という要望で却下になりました(笑)。
--だいぶ雰囲気が違う内容ですね(笑)。ではいつも河田さんが作りあげたものに対して演出をつけていくというよりも、前の段階から演出構想含め話しを進めていくということですね。
笹浦:そうですね。ただ仕上がった段階で初めて意見することもありますし、ある程度作りあげたらそれを河田に一人で進めてもらう。そしてそのあと僕の演出としての一人の時間を挟んで仕上がった物を役者に渡して、そのあとはまた二人で修正して…という感じですね。劇王は20分という制限もありますし、当初は終わり方に4つのパターンがあって、優勝できたけれど、まだまだ変えて行く余地があるなぁと思いました。そこは常に葛藤の連続ですね。
河田:ずっと喧嘩ばかりしてますよ、朝から晩まで。
笹浦:行きつけのワインバーで顔にワインぶっかけられたこともありますから。
--かなり本気のぶつかりあいですね(笑)。しかし20分という制限は最初から最後まで気が抜けないといいますか、通常の舞台とはまた違う神経の使い方に苦労しそうだと感じました。
笹浦:「絶対ここは間をとったほうがいい」というシーンがあっても、その間を時間のせいで削らなければならない時もあって苦労しました。本番直前でも二つくらい台詞を削りましたし、限られた時間のなかでどこまでいけばその箇所の意図が伝えられるのか「消す消さない」とお互い意見を言い合って、お互い意見が一致しない箇所はそのままにしたり…。
河田:ただ彼が演出を担当しているので最終的な決定権は彼にゆだねている部分はあります。
--ここで脚本を担当されている河田さんにお聞きしますが、今回の優勝を決める作品となった『ピアノのある部屋』を執筆しようと思われたきっかけはなんでしょうか。
河田:父がとてもクラシックが好きな人で、家に沢山の楽器がありました。私が4歳くらいの時に色々な楽器やもちろんピアノも教えてくれたのですがやはりその時の記憶がとても印象として強く残っていて、いつかその記憶を題材に何か作品をつくってみようと思っていたのが今作のきっかけですかね。あと私は31歳なんですが、やはり30代になると家族について書きたくなるというか…良い機会なのでここで形にしてみようと思ったんです。
少年はピアノと対話ができるようになりピアノ練習に打ち込むが、年を重ねても才能が開花することはなかった。
--個人的に主人公の男の子がピアノと対話を続けていっても才能が開花するわけでもなく、そのまま凡才のままという設定がとてもリアリティーがあり興味深かったです。その部分についても少しお聞きできますでしょうか。
河田:そこはやはり「劇王」はコンペというのもあるのですが、昨年は”自分がやりたいことがやれた”年だったというか、今年は今までの作品とはちょっと違うことをやってみたかったんです。もっと色んな人に届きやすいものを作ってみたいという気持ちがあって、お客さんに一番届くことは何だろうと考えた時に、内容もリアルな方向に持って行ったほうが伝わるんじゃないかと思ったんですね。
ピアノと決別を決めた少年だったが母親が亡くなる前にまたピアノを続けることを誓う。
笹浦:考えてみると、日常を彼女なりに解釈した中で生まれた「等身大の人物」が派生していく物語がうちは多いかもしれませんね。あとなるべくベタにしようと考えて作っています。けど僕らの思うベタがお客さんからすると「全然ベタじゃないよ」と注意されることはあるんですけどね(笑)。でも僕らはベタな日常を追っていて、ベタな演出、ベタな設定、ベタな選曲と意図的にやっているつもりです。ただ、ベタだからこそ一つのミスで面白い部分が全然伝わらなくなってしまうこともあるので、そこは常に二人でぶつかり合ってます。特に今回の場合は決勝までシード出場だからお客さんの反応を確かめることができなかったし、それが一番不安だった。練習中も皆に「稽古場に来てくれ!」ってお願いしてました。
--それでは最後になりますが、次の「劇王」を目指している演劇人達に向けて何か一言コメントをいただけますでしょうか。
笹浦:リアルなことを言うと…僕は演劇で食っていますが、演出では食っていけていないので、若い芽はたたき潰します!
一同:笑
笹浦:ただ、それとは別に神奈川の演劇の土壌をもっと上げていきたい。神奈川のベースを上げていって「神奈川スゲ−!」って言わせたいので皆で一緒にのし上がって行こうと。ただ、のし上がって近づいてきたら…
--そこは正面から舞台で戦っていくということですね(笑)。
河田:良い作品の中で良い作品を発表できることはとても大切なことだと思うので、是非皆さん良い作品を作り続けて参加して欲しいです。
--劇王三連覇も狙われますか?
笹浦:もちろん!!
--どうもありがとうございました!
写真左より:anna(ピアノ・母親役)、河田唱子(脚本)、笹浦暢大(演出)、秋山直太朗(少年役)、松田鼓童(振付)
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