映画「Bella Vita」公開記念 ー かねよ食堂 Jon さんのエッセイ
2015.6.9 Text 井上 明子 Photo 西野 正将
映画「Bella Vita」 ※Bella Vita =イタリア語でLife is Beautifulの意
モダン・サーフィン・フィルムのクラシック「ワン カリフォルニア デイ」の監督としても知られるフィルムメーカー ジェイソン・バッファが、プロサーファーでアーティスト、環境保護者のクリス・デルモロと一緒につくった映画。
イタリアのフィレンツェとカリフォルニアのロサンゼルスのふたつの都市で育ったクリスは、幼少期の夏休みを過ごした思い出の地イタリアのトスカーナを、友人サーファーたちと訪ね歩く。サーフィンやアートを通して交流し、少しずつイタリアに溶け込んで行くクリスたち。彼らはイタリア流の家庭的な手厚いもてなしを受け、ワインや食文化、この国のモノ作りの深い文化をも識り、その豊かさと奥深さに感銘を受ける。自らのルーツであるイタリアを旅するうちに、クリスはいつしか「Blla Vita=美しき人生」の本当の意味を考えはじめる…。
THEATER
6月13日(土)より横浜シネマリンヒューマントラストシネマ渋谷ほかにてロードショー
映画「Bella Vita」を観て
伝統的で、自然的な暮らし。芸術的な文化と、そこにある人間性。
歴史ある母国の素晴らしさ。友人や家族との繋がり。美しい波を求めながら、仲間と共に巡る旅の中で、再認識する人生の意味。
僕は一度もイタリアに行ったことはないけれど、僕らの日本にも、どこか同じような部分があるって、その大切な部分を再認識させてくれました。
クリスのように、世界中の波を旅して、経験してきた人からすると、様々な国のそれぞれの個性をいつも感じていたはずだし、社会の変化を感じていたのだと思います。そこには自身を振り返るきっかけが沢山あったのだと思います。
クリスとは少し違うけれど、自分にとってのルーツを考えた時、思い出します。
思春期を迎えた頃、ちょうどサーフィンを始めた頃に重なるのかな。
アメリカ人の血が半分混ざっている僕は、アメリカについて何か特別な思いがあって、いつかアメリカへ、血の繋がりのある国へ行ってみたい。そんな思いが強く湧いてくる時期がありました。カリフォルニアへ渡った親友を訪ねて、幾度となく旅をしました。カリフォルニアの波があまりにも魅力的で、日々は感動の連続。過ごしやすい気候と美しい夕陽に魅了され、いつか住みたいと思うようにまでなりました。そのうち、会話をするのには十分な英語を話せるようになり、もっとアメリカを知るようになった時、ハーフ、というコンプレックスは、いつの間にか何処かへ消え、というより、何か自信がついたのだと思います。育ったのは日本で、産んでくれた母は日本人で、育ててくれたのは、日本人の漁師の父だ。自分には、紛れも無く日本人としての精神がある。結局は自分のルーツは日本だってことに行き着いて、自分の自信にも繋がったのだと思います。
僕の場合は、DNAレベルの話かもしれないですが、そのルーツを感じる旅によって、気付かされたものがあったと思います。外国を感じる事で、自国の文化や、その素晴らしさや、安心できる何かを再確認したような気がします。そして自身の環境を振り返り、守るべきものがあると気が付いた僕は、友人や家族の協力の元、かねよ食堂を立ち上げました。母が切盛りしてきた海の家、父が貫いてきた漁業を、その受け継ぐべき家業をどうすれば引き継いでいかれるのか、そこには様々な思いがありましたが、現在、お陰様で13年目を迎えることができたのは、多くの友人と、家族、助けてくれた皆のお陰様。それは繋がり、形になって、常に生き続けています。その全てをここに書き尽くすことはできないから、いつか訪れて感じて欲しいです。
かねよ食堂 外観
自分の人生を、美しいかどうか尋ねられたら、答えはもちろんBella Vitaですね。そんな自分の人生、本当に感謝の気持ちで一杯です。
命に、家族に、支えてくれる多くの仲間達に、そして日々訪れる新たな出会いに、感謝をさせてもらえることに、人生を美しいと呼ばずにはいられません。
人生を美しいと感じられるのは、本当に豊かで素晴らしいこと。
美しき人生を得る事とは、感謝できることに繋がっている気がします。
自分の周りの小さな事から、もっと広く大きなところまで。
有り難いと思える事で、自分自身が何なのか、どこにいるのか、気が付かせてくれる。
映画「Bella Vita」の中にある、仲間との繋がりや、その人々の暮らし、伝統や文化について、そしてコミュニティーについて感じるのは、現代社会において、失われつつある大切なものが沢山詰まっているということです。サーファーが特別な訳ではないけれど、彼らは常に自然と対話することで、色々なことに気が付かされていると思います。波や自然の美しさを感じる事で、人生の美しさ、その本質を見極めているのかもしれません。そのメッセージが、この映画には沢山詰まっている気がします。
好きな言葉の一つにLife is Artというフレーズがあります。
人生はとても芸術的で、人生そのものが、その人が創り上げる作品のようなものだと思うんです。ベラ・ヴィータ。あらためて、素敵な言葉ですね。これらは通じるものですね。これからも、大好きなサーフィンを通じて、色々なことを肌で感じて、気が付かされて、美しき人生を描き続けたいです。
「かねよ食堂」ってどんなところ?
京急バスで「伊勢町」バス停を降りたら海岸の方へ下っていき右折、ずーっとまっすぐいくと、左手にこの看板がみえてくる。
一度解体した元猟師小屋のトタンや木材をリユースした建物と、南国風の植物たち、そしてサーフボードや小物が一体感を醸し出すエントランスをくぐり抜けると、いたるところにアート作品が見え隠れするウッディな雰囲気の店内に。
こちらは、ランチタイムメニューの “かねよ特製プレート” ¥1,500(税別) いろんな味が一つのプレートで味わえて栄養バランスもよさそう。
かねよ食堂
神奈川県横須賀市走水1-6-4
TEL:046-841-9881
営業日の詳細は、HPを要チェック!
(編集後記)
かねよ食堂がある小さな浜から、向こう岸にうっすらと横浜・川崎・東京・千葉のビル群を臨むことができる。これは、幼い頃からこの土地で育ったJonさんが見続けてきた風景の一つだ。ここからの景色を眺めながら、都会の生活と自分たちの日常を照らし合わせ、経済と自然の矛盾を肌で感じていたと言うJonさん。そしてそのことが、実家の持ち物であった猟師小屋兼海の家を、新しく「かねよ食堂」にアップサイクルするきっかけにもなったそうだ。
Jonさんは「サーフィンと人生は同じで、それを求める気持ちと、いい波がきたときにそれに乗ることのできる準備と努力が大切」と語る。
今や県内外からひっきりなしにお客さんが訪れる人気スポットとなった「かねよ食堂」は、単なる観光やビジネスチャンスにとどまらず、「どうしたら人と自然が共存していけるか」、そのことを模索し続けるための、Jonさんの拠点とも言える聖域だ。
エッセイにもあるように、まだ訪れたことのない人は是非一度、訪れてみてほしい。