Re:インタビュー“諦めない漢たち”に聞く映画『立候補』
interview・text:西野正将
昨年3月にMAGCUL.NETでも特集したドキュメンタリー映画、『立候補』を覚えているだろうか。選挙における“泡沫候補”と呼ばれる人々に密着した本作は、一見ネタ物と思わせておきながらも笑いあり、感動ありと様々な方向で予想を裏切る内容に筆者は衝撃を受け、前回の特集ではプロデューサーである木野内哲也氏にインタビューをさせていただいた。映画はその後日本を駆け回り、さらにはドイツ、スイスでの映画祭に招待されるなどその反応は日本だけでなく世界に広まる勢いを見せる。そんな映画『立候補』がついに全国レンタル開始という事でMAGCUL.NETでは再度単独インタビューを敢行。インタビューゲストは前回お話をお伺いすることができなかった監督の藤岡利充氏、映画のキービジュアルとなっているマック赤坂氏、さらには秋季エベレストに単独・無酸素で挑戦されている登山家、栗城史多氏と豪華な顔ぶれとなった。全国レンタル開始記念イベント「諦めない漢たちの夕べ」開演直前に聞いた“諦めない漢たち”に聞く映画『立候補』。是非ご覧ください。
<出演者プロフィール>
栗城史多(くりき のぶかず)
1982年北海道生まれ。大学山岳部に入部してから登山を始め、6大陸の最高峰を登る。その後、8000m峰4座を単独・無酸素登頂。エベレストには登山隊の多い春ではなく、気象条件の厳しい秋に4度挑戦。見えない山を登る全ての人達と、冒険を共有するインターネット生中継登山を行う。2012年秋のエベレスト西稜で両手・両足・鼻が凍傷になり、手の指9本の大部分を失うも、2014年7月にはブロードピーク8,047mに単独・無酸素で登頂し、見事復帰を果たした。
藤岡利充(ふじおかとしみち)
1976年山口県生まれ。1999年立命館大学卒業/2001年大阪ビジュアルアーツ卒業/2002年TVCM製作会社勤務/2005年フジヤマにミサイル監督・上映/2013年映画「立候補」監督・上映
マック赤坂(まっくあかさか)
1948年愛知県生まれ。年商50億円の実業家/スマイル党総裁/スマイルセラピー協会会長/京都大学卒/元伊藤忠商事勤務/落選歴5回(2011年11月当時)/スマイル党員0名(2011年11月当時)
映画『立候補』/出会いと制作のきっかけ
ー 今日はよろしくお願いいたします。藤岡さんとマックさんは撮る側、撮られる側としてのご関係ですが、栗城さんはもともとお二人ともお知り合いだったのでしょうか?ご自身の活動も含めご紹介いただければと。
栗城:藤岡監督とは初めてお会いします。僕は登山家をやっていまして、世界に8000m級の山が14個あるんですけど、その内の4つを単独で登ったり「冒険の共有」というテーマで登山中の風景を生中継したりしています。エベレストは厳しい時期に4回トライをしていまして、実は2012年の秋のエベレストで重度の凍傷になり、両手の指9本を第二関節から切断することになりました。それで落ち込んでいるときに、映画『立候補』に出会って、「この映画はすごい」と感動して映画館に4回もいきました。そしてスマイル党に入りかけたという(笑)。ちなみにマックさんは一度、映画館のポレポレ東中野を出てきたときにちょっとだけご挨拶させてもらったんですけど、酔っぱらっていたので覚えていないかと(笑)。
マック:常に酔っぱらっているのが私の欠点なんです。ちなみに2000円払ったらスマイル党に入れますよ。無審査で(笑)。
藤岡:そうなんですか?(笑)
栗城:ちなみにその時にプロデューサーの木野内さんにも初めてお会いしまして、今日のトークも木野内さんからご連絡をいただいて、是非参加したいと思いやって来ました。(※インタビューはレンタル開始記念イベント前に収録。収録後には3人によるトークが開催された)
ー それはもう大ファンですね。この映画がなぜそれほど栗城さんに響いたのでしょうか。
栗城:やっぱり生き様っていうのが大切というか、どうしてもインターネットの世界だと成功とか失敗とか、表面的なもので見られてしまうけれども、それでもその人の生き様だったり、本質は見抜けないといけないと思っていて。映画『立候補』を見ているときにみんな笑うんですよ。半分馬鹿にしている部分もあると思うけど、本質を突きつけられたときにみんなはっとするというか…。そんなドキュメンタリーを、今まで見たことなかったんですよね。
ー 僕も初めて見た時に同じような印象を受けました。初めは笑っていたのに終盤に進むにつれ、疑問がブーメランのように自分に返ってくるような構成に大変考えさせられました。ここでマックさんにもお話をお聞きしたいと思いますが、初めて撮影依頼が来たときはどのように感じていましたか?
マック:その時は秘書が対応してくれていたのですが、プロが上映する映画ではなく、アマチュアが身内だけで上映する感じの映画だと聞いていたので、ちょうど大阪府知事選の時期でもあり「だったら撮ってみたら?」程度に思っていました。
ー 最初は映画の予定ではなかったと。
藤岡:最初の企画書ではミニシアターやインターネットで上映するインタビュー企画だと説明していたと思います。そしてマックさんに会いにいったら「お前ら俺がちょうど選挙にでるからラッキーだぞ!」って言われたんです(笑)。
マック: だからノーギャラで出たんだよ(笑)。
藤岡:はじめは「夢みたいなことを言っている人にインタビューして本当にやりたいのかどうかチェックしよう」みたいな企画だったんです。というのは自分自身がそのとき映画監督を一度諦めて山口の実家に戻っている時で、そのときにもう1回だけチャレンジしたいなって気持ちがふつふつと出てきていたんです。でも今からやるのはもう無理だろうと思ったときに「いや、ちょっと待てよ」と。もっとこの日本には俺以上に馬鹿みたいな、そしてみんなからダメだって言われながらもやりたいことをやってる人が沢山いるはずだと。そんな人達と会うことによって、自分が今から挑戦することが夢じゃなくて「目標」として見えてくるんじゃないかと思ったんですよね。それで最初は外山恒一さんの政権放送を見て気になっていたので、色々しらべていくうちに「だったら政見放送でくくってみよう」ってことになり、誰か有名な人いないかなって調べたときに、マックさんに行き着いたんです。
ー 当初はマックさんに絞る予定ではなかったんですよね。
撮り進めていった段階でマックさんに密着した形で仕上げるという案はすぐには浮上しなかったのでしょうか?
藤岡:当初のテーマが「夢追い人」なんで、マックさんはとはいっても有名人じゃないですか。この人が出るっていうのは何となく理解できる。でもそうじゃない人たちも全部包括したいっていう気持ちはすごくありました。木野内さん(プロデューサー)と「マックさん一本でいいんじゃないか」と議論もしたんですよ。でもそうすると泡沫候補の中で差別することになるし、少なくとも自分が観客になったときに絶対気になる。なに差別してんだと。
ー そこに関しては「結局目立っている人を取り上げてるだけ」と勘違いされやすいところもあると思いますが、マックさんに絞られていったきっかけって何かあったのでしょうか。
藤岡:「マックさんに消去法でたどり着いちゃった」って感じにはしたくないと思ってました。最初は橋下さんだけのシーンを撮って、大阪府知事選だけでまとめるやり方で2時間半くらいの作品になったんですが、マックさんに対して怒りしか生まれこなかったんです。ろくな事言わないし。
栗城:やってらんないよって?(笑)
藤岡:そう。「ふざけたもの見せるな!」って。でもそれは違うんです。映画にも出てくるシーンですが橋下さんとのやりとりがあって、マックさんが橋下さんから「スマイルやってくださいよ!」と言葉を引きずり出したときにちょっと撮影現場で感動したんですよなぜか。それをみんなにも体感してほしいなって。どうしようもないんだけど、どこかでちょっと男として憧れるというか・・・、俺がスピルバーグと対等だとか言っているようなものですよ。映画監督なんだからカテゴリー的には対等のはずなんだけどなかなか言えない。それをマックさんはやってるから、「自分もこうありたいな」って思ったことを伝えたかったんですが、なかなか伝わらなかったんですよそれが。京大生に罵倒するシーンとか凄く印象悪いと思うんですけど(笑)、別のシーンでは警察にも向かっていくという・・・。
この人は、強きにも弱きにも強くあるっていうか、巨神兵ですよ(笑)。普通はどっちかに弱いと思うんですけどね。
ー 失礼ながら映画本編ではそんなマックさんのめちゃくちゃなシーンも多く使用されていましたが、マックさんは時折ものすごく冷静にその状況を見ている時がありますよね。だんだんと「あれ?あのパフォーマンスも、もしかして計画的?」って思わせるような部分もあるかと思うのですが。
マック:そこは偶然のなりゆきですね。演説の途中で踊り出したのは帰れコールに対して怒っちゃったら相手に失礼なので逆に帰れコールを私のBGMとして踊っただけです。そういう瞬間的なパフォーマンスというのは自分で言うのもなんですが天才だと思います(笑)。あの状況でまじめに喋ってもだれも聞いてくれないし、その場がしらけてしまう。そういう時に冷静になり判断するという事は必要な事なんです。
ー 大阪難波のシーンで群衆を見つめるマックさんの表情も印象的でしたが実際あの時はどのようなお気持ちだったのでしょうか。
マック:敗北感ですよね。「負けたな」と。
藤岡:やっぱりそんな気持ちだったんですか?
マック:そうだね。少しでも相手に対して噛みついてやろうと頑張ってみたけど全く歯が立たなかった。完全なる敗北の表情ですよ。故にやけ酒を飲んでました。
一同:笑
藤岡:でもあの時本当に凄いと思ったのはあの環境で演説時間をもらった事で普通の人なら満足しちゃうと思うんですが、敗北感を感じて途中で橋下さんの選挙カーの回りをぐるぐる回りはじめたんですよ。そして演説が終わるのを待ってまた突っ込むみたいな(笑)。まさにそういう“しつこさ”にも感動しました。
マック:完敗したけど同じ戦友だからね。挨拶がしたかっただけなんだけどそれも許されなかった。あと外山恒一さんの政見放送で「俺が当選したらみんなビビる!」という台詞がありましたけど、それと同じでまさか俺に演説時間をくれるとは思わなかったからね。松井さん(現大阪府知事)俺は「5分くれ」って言ったのに倍の10分くれたんだもの(笑)。
藤岡:あれはまさに“関西人”ですよね(笑)。
攻撃は関心/その後の変化
ー 日本だけでなく海外での上映も成功させたわけですが映画だけでなくマックさんにご自身に対しての反応みたいなものもやはり変化ありましたか?
マック:海外からフェイスブックの友達申請は増えましたね。やはり海外で上映したからだと思います。あと最近は街頭で演説しているときに、「映画『立候補』見ましたよ」と声をかけられることが増えました。だいたい息子のことを誉める内容ばっかりなんだけれど(笑)。でも「馬鹿だと思ってたけど、ほんとはすごい考えてるんですね」とか結構ポジティブな意見も多かったんでそれは本当にありがたいですね。最初はネットで「マックはゴキブリだ」と書かれたり演説中に唾吐かれたり蹴飛ばされたりと、それこそえらい目にあいましたけど。あと京都大学の女子大生に謝りたい!(一同:笑)
藤岡:栗城さんも登山中に中継をしたり、インターネットにメッセージを書き込んだりと色々されてますけど、そういったときにいやな目にあったりとかしますか?
栗城:まあ、ネットの世界なので、いいものもあれば悪いものもたくさんあるかと思うんですけど、山を登ってて「死んじゃえ」とか(笑)。
藤岡:たぶんマックさんもいっぱい言われてると思います(笑)。
栗城:「死んじゃえ」と言われたら普通きついと思うんですよね。でもそういったネガティブな言葉って僕はあんまり気にしてないんですよ。気にしないというか、一つのチャンスかなって思っていて。なぜかというと、本当に「あいつはだめだ」と思っていたら無関心だと思うんです。僕もマックさんじゃないですけど、2007年にチベットにあるチョ・オユーっという8000m級の山で土屋敏男さんという、電波少年のプロデューサーと一緒に登山の様子を動画配信させてもらったことがあるんです。3週間かけて登って行って、頂上近くで悪天候になり下山になったんですね。
あと少しだったんですけど、登山は生きてないとまたチャレンジもできないので、仕方なく下山を決断して帰ってきたら、ネットには「栗城は登れなかった」とか色々ひどいことが書かれていました。でも再度挑戦して登頂に成功したら「栗城は登れない」とか「死んじゃえ」とか書いてた人が、一言「ありがとう」って書いてあったりと、ちょっと意見が変わったんですよね。その時にこの人達は心の底からそう思っているんじゃなくて、鬱々としたものがたまたま栗城に向かっていただけであって、本当は熱い思いがみたいなものあったんじゃないかって思うようになりました。
ー 映画的にはどうでしたか?特に海外では日本と選挙制度も違うと思いますし、供託金300万で立候補できるって言うシステムも含めて、海外での反応が気になります。
藤岡:どうなんでしょう。だけどすごい笑ってました。みんな笑って楽しんでるって印象が強いし、どっちかっていうと政治的なものよりはエンタメな感じのものとして見ているのかなぁ。あと海外でも泡沫候補っていないことはないんですよ。突然変な格好で出てくる人とか、スイスでも聞いたしアメリカにもいたし、どこにでもいるんです。だからそういう人たち集めて国際会議やりたい(笑)。
栗城:すごいことになりますよ!
藤岡:ですよね。だから決してこの映画が珍しいモチーフを扱っているというわけではないんです。
ー 藤岡監督に質問ですがこの映画は制作側からのメッセージというかマイノリティとマジョリティの対比というか、大きな社会の枠組みに対しての批判のように感じられる部分もある気がするんです。攻撃的といえば言い過ぎかもしれませんが、実はどこかでそんなメッセージのようなものを意識したという事はありませんか?
藤岡:それは全くないですね。「とりあえずやってみる」からスタートしているので自分のメッセージがなんなのか撮影し終わったあとに考えて、最終的に全ての人が立候補できるような環境を作る映画にもっていけないかと考えました。そこから泡沫候補者に絞られていったわけで、それは制作側だけじゃなく有権者もそのように導いてるって見え方にはしたいと思って進めていきました。
映画『立候補』を通して思うこと
ー それでは最後にサイトをご覧の方に向けてメッセージをお願いできますでしょうか。
藤岡:悩みますね。やっぱりマックさんを受け入れてほしいかな。受け入れる世の中になったら、自分自身が何かゼロからスタートするとき世の中に対して立候補できると思う。もしマックさんを否定していたら、自分がゼロからやるときに、同じ状況で自分に批判がくる世の中になると思っていて・・・。この映画を見た人たちが、少なくとも「何か」に立候補する人を暖かく見守るような世の中になれば自分に誠実に生きる可能性があると思う。組織に所属しなくても一人でも。なんでも最初はやってみないとわかんないし、何事も否定せずに見守って欲しいです。
マック:この映画の素晴らしさってのは撮影や編集、音楽による演出の仕方など制作側の技術の高さもありますが、キャッチにあると思うんですね。「あなたは、まだ負けてすらいない」、これ素晴らしいキャッチですよね。行動するということは、大変なことなんです。どんな小さなことでも良いから行動してください。知って行わざるは知らざるに同じなんです。どんなに知識があっても、どんなに素晴らしい企画力、アイディアがあっても一つの行動。電話かけたり、人に話しかけたりと行動です。行動がないと何も始まらないということです。
栗城:実は僕、山登りだけにそんなにこだわっているわけではないんですよ。登山からシンプルに挑戦する人たちを増やしたいと思っているんです。
「前は諦めていたけど、今はこういうことをやってみようと思いました」とか、結構そういう気持ちを大事にしたいと思っていて・・・。まさに藤岡監督がさっき言っていたことに近いと思いますが、みんな心の奥底では様々な熱いものがあると思うので、その熱いものに自ら蓋をしないで周りもそれを応援して欲しいですね。あと最初にも説明させていただいたように重度の凍傷になり指を失った時に「あぁ、やっぱりみんなそれぞれいろんな山に登っているんだなぁ」ってこの映画にすごく救われました。とにかくすごい映画なのでもっと色んな人に見て欲しいですね。
ー 今日はお忙しいところありがとうございました!
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