黄金町バザール2014出品作家 ウォルター・スコット インタビュー
text:井上明子
interview:脇屋佐起子
photo:西野正将
黄金町バザール2014(以下バザール)出品作家ウォルター・スコットは、カナダ・モントリオール出身のアーティスト。北米の先住民族であり、アーティストという自身のアイデンティティを投影した主人公”ウェンディ”が繰り広げるインディーアートシーンの様々な出来事を描くコミックシリーズは彼の代表作。今回バザールのため黄金町に滞在し、自らの体験をもとに制作した《ウェンディー:ヨコハマの災難》を中心に出品作品について語ってもらった。自らが体験し、それを記録・分析することを作品の重要なプロセスとしている彼の目に映った黄金町の街、そして日本の印象はどんなものだったのだろうか。インタビュー終了後も街へ繰り出し、見知らぬ人と会話するウォルターの後ろ姿が微笑ましかった。
コミック作品《ウェンディー》について
ーまずは代表作でもあり、今回の黄金町バザール2014で発表を予定しているウェンディのコミックについてお聴きします。この作品はどんな作品なんですか?
ウォルター・スコット(以下W):僕自身を投影した”ウェンディ”という女の子を主人公とした物語のシリーズです。ウェンディはインディーズアートシーンで作品制作をしているのですが、これといった専門性があるわけではなく、目指しているものはあるんだけど、それが達成されないというような、ちょっと不安定な状況を描いています。
ーご自身を投影するにあたって若い女性にキャラクターを設定したのは何か意図があるんですか?また、毎回ウェンディの夢がことごとく打ち砕かれてしまうのはどうしてですか?
W:女性に設定したことに特別な意図はないです。
最初は小さなドローイングを描いていて、それを友人に褒められたことがきっかけでこの作品をつくりはじめました。だから女性を絶対に描きたいということではないんです。
また、ウェンディが経験する困難は、僕自身だけじゃなく、僕の友人達の経験談ももとにしています。クリエイティブな世界の辛さや悩みを友人からよく耳にするし、自分のことだけじゃなく、そういうふうに人の経験も知りたいと思っています。時々すごくパーソナルでディープな話を聴かされることもあるけどね(笑)
ーコミック作品の《ウェンディー》についてもう少し詳しくきかせてください。
W:34ページのコミックで表紙はカラーです。半分はカナダのモントリオールが舞台のもの、もう半分はこの黄金町を中心とした日本の街が舞台のものになります。3人のキャラクターがいて、それぞれの話が展開していきます。そして今回は日本語翻訳も手書きで入ります。もう作品はほぼ完成していて、あとは製本を待つのみ。製本された作品を日ノ出スタジオの黄金町アートブックバザールとバザール バザールで販売します。ちなみに、販売する際のサイン看板も僕がデザインしました。あとキャンパス地のナップサックも販売する予定です。
ーなぜ、カナダと日本、2つの場所を舞台にしたんですか?
W:僕の作品制作の手法として、まず自分に起こったことを記録し、それらを客観的視点で分析し、それから描きはじめるという流れがあります。でもそれを短期間でするのはとても難しいことです。当初のコンセプトは全て横浜での出来事を一冊のコミックにするということだったんですが、時間的な制約などがあり、カナダでの作品を半分組み込むことにしました。
ーでは、2つの作品は繋がっているというより、それぞれ別ものということですね。
今「記録」という言葉がでてきましたが、黄金町周辺や横浜の街はどの辺りまでリサーチしたんですか?
黄金町はもちろんのこと、新宿での経験をもとにしたつくった回もあります。僕の作品は舞台となる街が特定できるような具体的なサインや背景を描くことに重きを置いていないので、登場人物がどこにいるか、舞台がどこなのかというのがわからない雰囲気が総じてあると思います。でも、とある新宿のバーはわかりやすい形ででてきますよ。
ーコミックシリーズ以外にも彫刻作品をつくられているそうですね。
W:彫刻作品は、コミック作品とはまた別の、よりピュアな部分を意識してつくるので、《ウェンディー》のシリーズと並行してつくっていくことで、自分のインスピレーションを高めることにも繋がっています。ちなみに、彫刻作品は黄金町アートブックバザールの上の展示スペースに展示予定です。
ー具体的にはどんな彫刻作品なんですか?
W:高さ40cmくらいの立方体のランプを幾つかつくっていて、プラグをさすと光るようになるんです。
仮想のコミュニティー・アジア ー 黄金町バザール2014 について
ー今回、バザールには公募で応募されてますが、応募のきっかけはなんですか?
W:本展のキュレーターである原 万希子さんがアドバイスしてくれたのが一番の大きなきっかけです。
ー仮想のコミュニティ・アジアというタイトルも応募の際の動機付けに関わっていますか?また実際に滞在制作をしてみて感じていることなども教えてください。
W:《ウェンディー》の作品は完全に仮想の話なので、そういった意味ではとてもあっていると思っています。実際に滞在してみて、自分が体験したリアリティをもとに生み出すフィクションを、このリアルの世界で描くということがとても面白いと感じています。また、僕は、カナダのモントリオールの先住民族出身なんですが、先住民族は独特の言語を持っているので、常に自分たちの言語を英語に置き換えて生活しているんです。日本に来て、さらに英語から日本語への変換が今必要とされていて、そういう複雑なコミュニティの事情というのを感じているところです。
ウォルターからみた黄金町・日本
ーちなみに、日本に来て、ここ黄金町に住み、また作品リサーチのために日本の街を歩いてみて、どんな印象を持たれましたか?
W:まず日本はカナダに比べると、人間や建物だったりが全て20%くらい小さくて、でもそのことにとてもいい印象を持っています。とてもエレガントだし、インスピレーションをかき立てられる。特に横浜エリアは東京と比べて喧噪がない。そういう意味でここ黄金町はかなり好きです。毎日なんらかの感動を得ています。
ー今エレガントという言葉がでてきましたが、もう少しそのイメージについて教えてください。
W:いわゆるエレガントさっていうのはこの地域とはちょっとズレはあると思うんですけど、日本という国全体のイメージ、とりわけ日本人の住まい方や建築にエレガントさを感じます。黄金町エリアに限定して言うと、新しい建築もあれば、昔からのすごく間口の狭い家があったりと、そういうアンバランスさがとてもチャーミングだし心地いいです。
ーたくさんリサーチした中で、ウォルターの視点からみた、黄金町周辺の一番のオススメスポットはどこですか?
W:伊勢佐木町にある大戸屋です。フライドチキンがおいしい(笑)
ー笑!
それでは最後の質問ですが、今回の黄金町バザール2014での展示を、どんな人に観てもらいたいですか。
W:以前自分の思っている以上に多くの人に僕の作品をみてもらっていたことに驚いたことがあったんですが、今回も多くの人に観てもらいたいというのは大前提として、特にアート業界の人には、自分を投影しているかのような面白い部分や共通性を見いだすことができると思うので読んでほしいですね。でも、アート業界の中身(しかも僕自身の経験を投影したコアな部分)を、アートが専門でない人たちにも《ウェンディー》を通じて知ってもらいたいと思っています。
■《ウェンディー:ヨコハマの災難》
販売場所:黄金町アートブックバザール、バザール バザール
彫刻作品展示場所:日ノ出スタジオ(作品番号 02番)
※展覧会鑑賞には会期中有効のパスポート(有料)が必要です。