Nadegata Instant Party(中崎透+山城大督+野田智子)presents ENJOY ZOU-NO-HANA 2014 エレファント・シャッター・チャンス ~はい、チーズ!一日限りの写真館~
先日行われた一日限りのイベント『ENJOY ZOU-NO-HANA 2014 エレファント・シャッター・チャンス ~はい、チーズ!一日限りの写真館~ 』では、快晴の中、市原ぞうの国からやってきた象のランディと延べ15,000人の来場者が開港155周年の祝いの日に象の鼻パークに集まりました。
様々な関係性が入り交じりながらも檻も柵もない舗装された象の鼻パークに突如現れた象のいる風景はそれだけでもまさに祝祭の日にふさわしい非日常というイリュージョンを演出していました。
MAGCUL.NETでは、いったいこのプロジェクトはどういった経緯で誕生したのだろうか…という疑問を胸に、プロジェクトを発案したアーティスト Nadegata Instant Partyの、中崎透さん、山城大督さん、野田智子さんを、イベント終了直後に直撃しました。
象のランディのくす玉を割るという“合図”によってカメラマンがシャッターを切るという仕組み。写真はテストの様子と実際に撮ってもらったグループへの写真贈呈の様子。くす玉を割るランディが写真を撮っているのか。カメラマンが撮っているのか。はたまたランディを従える象遣いが写真を撮っているといえるのか…。様々なレイヤーが重なり合う不思議な景色が心地よいイベントであった。
ー 今回象を象の鼻パークに呼ぶっていうことは、Nadegata Instant Party(以下ナデガタ)さんからの提案だったんですか?
中崎:それがね、僕らが声をかけてもらったときにはもうすでに象を呼ぶっていうのは決まっていたんですよね。
逆に主催者としては、どんな流れで象を呼ぶことになったんですか?
象の鼻テラススタッフ:2012年から「エンジョイ!ゾウノハナ -象の鼻の遊び方展」という展覧会を立ち上げ、これまで鈴木康広さんや椿昇さん、アーティストユニット目 等、アーティストの皆様の創造性を活かした、象の鼻パークならではの遊び方を提案してきました。象の鼻テラスだし、象を呼びたいっていうのは前々からあったのですが、今年度、象の鼻テラス開館5周年記念でもありますので、「エンジョイ!ゾウノハナ2014」の特別プログラムとして圧倒的な存在感を持つ本物のゾウをゲストとして象の鼻に招聘し、ゾウと過ごす特別な一日を演出できないかと思い、スタッフが総力を上げて各所調整したら、現実性がでてきたという感じです。
ー では、象を呼ぶ事になって、そのイベントをナデガタさんに依頼したのはどういう理由からですか?
象の鼻テラススタッフ: 今回、象の鼻テラス開館5周年記念イベントとして、ただ象を呼ぶだけでなく、ホンモノのゾウが象の鼻にいる不思議な風景や出来事を、その場に居合わせた人々が共有し、長く記憶に留めてもらえる取り組みにしたいと考えていました。
「その場に最適な『口実』を立ち上げ、『口実』によって「現実」が変わっていく。その過程をストーリー化する」というこれ迄の彼らのアプローチを拝見していて、今回、本物のゾウが来るという虚構的な一日を『口実』とした、一般参加型の作品を制作頂けないか、と思い御依頼させて頂きました。
ー でも、そこまで条件がそろってナデガタさんが呼ばれるっていうのは逆に新しいですよね。
中崎:僕らもアイデンティティクライシスに陥ってて、普通象を呼ぶってなったときに、象を呼ぶって発想したのがアーティストって思われそうなのに、「すでに象がくる事が決まっている中で、何ができるかねっていうのはすごく考えましたね。
ー 今回のイベントで、ナデガタさんとしては“作品を作る”っていう意識はどのくらいあったんですか?“演出”という考えのほうが強いのでしょうか。
中崎:やっぱり「どこをもって作品にするか」っていうのは悩むし、実際わからなくて。今回のプランをつくっていく中で、この象の鼻の場所って横浜っぽくて、その場所に象が居るっていう事自体が合成みたいに凄く不思議な風景だから、本物の象なんだけど、フィクションの場所にみえるような書き割りだったり、プリクラ的に写真に文字が入る仕掛けだったり、そういう舞台セットを作ることで、最低限僕らが作品として介入するやり方をとったって言うのかなぁ…。
最初イメージしていたのは、演劇的な一日のエンターテイメント性の高い作品を考えてたんだけど、その部分って象がいたら、たぶん僕たちがいなくても成立してしまうから詰めていく段階ではそのチャンネルじゃないなって思いました。だから記念撮影で出来上がった写真自体が批評性のある作品として成立するように進めていきました。
山城:この場所、ほんとに難しい場所ですよね。境界線がないっていう状態を簡単に作れる場所で、オープンな無料スペースだから誰でも入れるってみんな思っているし、しかもパブリックな場所。そういう気持ちでみんないるから、ここで特別な空間を作ろうって思ったときに、みんな苦労しているんだろうなって思った。だから、今回象がいてくれて、それで成立している時間で僕らは少し楽できている。
ー 今回のイベントがこのような形になるまでにどんな経緯があったかを教えてください。
野田:話をしていく中で、象が来て象と一緒に何かをするんじゃなくて、象に何をやってもらうかって方向に話をスライドしていったんじゃなかったかな。
中崎:ランディが、こういう芸ができますよっていうリストはいっぱいもらってたんですけど…
野田:そうそう。くす玉われるとか、リフトができるとか、そういうネタみたいのはあった。
それで、象自身に役割を与えて何かするのはどうだろうってなっていった。
中崎:なるべく僕らが介入しなくてもいいかなって思ったんだよね。今回のイベントを2~3時間の一本ショーとも思っていたけど、実際にずっと観ているお客さんもいないだろうとも思っていて。
野田:ふらっときたお客さんも、ちょっと観ただけで「あ、象がカメラマンになっているんだ」っていう構造自体を結構わかりやすくなるよう意識したというか。
中崎:象がいるっていうライブでもあったけど、出来上がった写真自体が、虚像と現実が混じっているような画がとれるといいなぁっていうのがあって。ある組み方によっては、今回のムービーや記録撮影がオリジナルになる可能性もあるなっていう。
ー 結果的には当日のイベントよりも、結果としてでてくる写真やムービーが一番の落としどころですよね。そういった記録は展示されるのですか?
野田:そうですね。今回撮影した写真を14日から展示します。※
中崎:あと、セットとして使ったオブジェも一緒に展示するかもしれません。
※《エレファント・シャッター・チャンス ~はい、チーズ!一日限りの写真館~》記録展
日程:6月14日(土)〜6月29日(日) 10:00〜18:00
会場:象の鼻テラス
ー イベントを終えてみて率直な感想をお聞かせください。
中崎:人間に対しても実際わからないけどわかったつもりにもなるし、わかりたいって思ったりもするけど、象に対しては「わかんねーなー」っていう感じは大きかったし、「こういう他者って身近にいないよなー」って思った(笑)。こういう存在を身近に感じるのはいい事だと思いましたね。
山城:確かに「絶対わからない他者をもってくる」っていう戦法はおもしろいかもしれない。
野田:そうそう。全然違う次元で生きている。
山城:普段は檻があって隔てられてるから、違う世界っていう区切りで観てた象が、今回みたいに中心にいて、一緒にいるのは凄く違和感があって。
中崎:でもそれを言うと、自分達も普段、本来わかり合えない中にいるわけだし、それがわかりやすく、わからない。
でも別にそれは嫌な事だけではないっていうか。
偶然通りかかった人、見に来た人、イベントを動かすスタッフと様々な人達がランディを囲んでいたがランディは全く動じない。その自然な様子が「海沿いに象がいる」という非日常的な光景をさらに不思議な空間へと変貌させていた。またイベント中、大勢の観客がただただランディの食事や水浴びの様子をうっとりと見つめている瞬間は言葉にできない幸福感の漂う空間でもあった。
ー 今回みたいに、作品にわかり合えない他者を投入するっていう手法は、今後取り入れたりする予定はありますか?
中崎:ちょうど前の週につくってた作品が、やっぱり集合写真をモチーフにしていて、これとリンクする感じで今回のイベントがあるんですよね。
野田:今回のプロジェクトはさっき中崎くんも言ったけど、“象の理解できなさ具合”っていうのがポイントだったのかなっていうのはあるよね。だから手法として取り入れるかは分からないけど、可能性は感じますね。
ー 今回のイベントは、無事故でよかったということが大きくあると思いますが、お時間も迫ってまいりましたので最後に一言いただいてこの記事をしめくくりたいと思います。
山城:・・・こういう一日を演出できたことをすごく嬉しく思っています(笑)
中崎:大きい他者と一緒に共存するって、わからない物に対して興味をもって一歩踏み出してつきあってみるとか、自分の中で判断できないものが存在しているのを受け入れていくような芸術とかアートの面白さに似ていると思うんですけど、今日は、なんかそういう一日になったんじゃないかな。そういう場がつくれたんじゃないかなって思います。
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【編集後記】
話の中で「わからなさ」という表現があったが自分もその「わからなさ」というものがなんだったのか未だにちゃんと理解はできていない。
アーティスト、通りすがりの観光客、参加者、関係者とランディの周りを様々な人達が大勢取り囲んでいたのに「ランディはいつものランディ」という雰囲気が何とも言えない幸福感を演出していて、あの「とてつもなく違和感のある幸福感」は実際に現場にいた人にしかわからないのかもしれない…。
Nadegata Instant Party(中崎透+山城大督+野田智子)
美術家の中崎透(1976年茨城生まれ)、山城大督(1983年大阪生まれ)、アートマネージャーの野田智子(1983年岐阜生まれ)によるアーティスト・ユニット。プロジェクトを実施する場所や状況において最適な「口実」を立ち上げ、口実化した目的を達成するために多くの参加者を巻き込みながら、ひとつの出来事を「現実」としてつくりあげていく。「口実」によって「現実」が変わっていくその過程をストーリー化し、ドキュメントや演劇的手法、インスタレーションなどを組み合わせながら作品を展開している。代表作に、100名を越える市民スタッフと共に地元メディアをも巻込んだ24時間だけのインターネットテレビ局《24 OUR TELEVISION》2010年( 国際芸術センター青森)、近年参加した展覧会として《カントリー・ロード・ショー/COUNTRY ROAD SHOW》「MOTアニュアル2012 Making Situations, Editing Landscapes 風が吹けば桶屋が儲かる」2012年(東京都現代美術館)、《STUDIO TUBE》「あいちトリエンナーレ2013」2013年(中部電力 本町開閉所跡地)などがある。9月に兵庫県で開催される「六甲ミーツアート2014」に参加予定。
http://nadegatainstantparty.org/