白神ももこ×酒井幸菜 「一見対照的だけれど共通項のある二人が挑む驚きと裏切りに満ちたダンス」
□プロフィール
白神ももこ(Shiraga Momoko)
http://www.momongacomplex.info/
2005年モモンガ・コンプレックスを旗揚げ、主宰。無意味・無駄を積極的に取り入れユニークな空間を醸し出す振付・演出には定評があり、2008年4月~2011年3月は埼玉県富士見市民文化会館キラリ☆ふじみを拠点に活動するキラリンク☆カンパニーとして同劇場を中心に公演。また、横浜トリエンナーレ2008や越後妻有アートトリエンナーレ2009等、イベントでの小作品の発表も数多い。平成25年度急な坂スタジオサポートアーティスト。
酒井幸菜(Sakai Yukina)
http://www.sakaiyukina.net/
しなやかで繊細な表現には定評があり、様々な作品に出演。自身の作品は2007年よりコンスタントに発表し、独自の空間を構成・演出する。音楽や建築、美術などとの領域を横断した活動も行い、演劇作品やミュージックビデオ、広告への振付・出演など幅広く活動を展開している。第60回神奈川文化賞未来賞受賞。平成25年度急な坂スタジオサポートアーティスト。
日常から少し飛躍したシチュエーションで一風変わった愛すべき人たちが織りなす不思議な世界。モモンガ・コンプレックスを主宰する白神ももこさんの織りなすユーモアとペーソスあふれる舞台は楽しくも深い人間観察に満ちています。一方、酒井幸菜さんはセンシティブな感受性を反映したソロ作品やグループ作品を発表。ミュージシャンや美術家とのコラボレーションを積極的に行い、ミュージックビデオなどへの振付・出演多数。多彩に活躍する気鋭ダンサー・振付家として注目されています。横浜市西区・老松町の「急な坂スタジオ」のサポートアーティストであり横浜で公演する機会も多い二人。彼女たちが互いにソロ作品を振り付け合う『Stick & uS!!』~私たちと棒~の上演を前にお話をお聞きしました。
Interview & Text by 高橋森彦(舞踊評論家) / Photography by Masanobu Nishino
協力:急な坂スタジオ/野毛山動物園
― 二人の出会い –
―お互いの印象を教えてください。
白神:酒井さんのことはチラ見していました。可愛いなと(笑)。私の作品がどんくさい方だとするとスマートな印象。憧れていました。同じスペースで前後して公演をやっていたというニアミスや作品を観る機会はあっても交流はありませんでしたね。昨年初めて群舞作品を観ました。前半は(酒井さんに対して)思っていたようなイメージで進んでいたのですが、後半祭りみたいな場面があったんです。そこで自分のなかにスッと入ってくるような瞬間があって「好きかも」「話せる!」って思いました。
酒井:のげ(野毛)シャーレで上演した『わたしたちは生きて、塵』2012年6月)ですね。ベートーヴェンの『交響曲第5番』第4楽章を使い、塵をばらまき掃除機で散らかしてみたいな。
白神:話せるというか好きなものとか共通点がありそうだなと。動きとか見ていて好きなところがある。でも、自分では作らないな、作れないなと。
酒井:白神さんはホッコリした親しみやすい作品を作られる方。人柄はリラックスしていて風来坊のようなイメージ。ゆったりした感じがある。
白神:酒井さんのことをスタイリッシュだと思っていた。
酒井:けっこうドジです。どんくさい(笑)。
白神:一緒に稽古を始めてそう思いました(笑)。オオッ?!と!
酒井:白神さんは自分には作れない空気感を持った作品を作る。基礎がしっかりあってダンスもしっかり振り付ける。
モモンガ・コンプレックスに「ダンス・パフォーマンス的」というキャッチフレーズを付けているけれど、緻密に振り付けられる方だなぁと。
「わたしたちは生きて、塵」@のげシャーレ 2012年
photo:Ryuichiro SUZUKI
<span style="color: #808080;"「Night in June」@STスポット 2010年 photo:Kenki IIDA
― 創作における関心・動機づけ –
―普段振付する際に意識していることは?
酒井:振付と言っても動きの形を作ることに全然興味やこだわりが無いんです。体そのものへの興味からではなく、上演する空間を意識した舞台作品、空間を意識した作品を作っている。人の佇まいや空間的に体やモノをどういうふうに配置するかということに関心をもって作っています。そこから物語だとか感情だとかが見えてくる瞬間に興味がある。体の躍動や内側からのエネルギーを振付に変換していくよりも引き画で風景画を作っていくようなイメージ。
身体/光/音をどのように設えたら空間の気配に寄り添い、ポテンシャルを引き出せるかというのが私自身の美学です。大きなメッセージではなく、美しい画を編み、観ている方に何か響く一瞬があればいいなと思って作っています。
体そのものへの興味からではなく、上演する空間を意識した舞台作品、空間を意識した作品を作っている。人の佇まいや空間的に体やモノをどういうふうに配置するかということに関心をもって作っています。
―確かにchoreographといっても「振りを付ける」というだけに収まらない面はあります。
酒井:人を配置すること、人はいなくてもコップを配置しただけでも私のなかでは振付でありダンスです。あんまりこんなことを言う人はいないと思うのだけれども……。
―白神さんはどうですか?
白神:私、踊れないんですよ……踊らないというか、音楽がかかると踊れちゃう、「踊って!」と言われたら踊りだせちゃうタイプじゃない。「踊りをやっているんでしょ?踊って!」と言われても「いや、踊らないから……」みたいな(笑)。だから踊り始める動機・きっかけにこだわっています。演出上突然踊らせるということもありますが、その場合でも前置きみたいなものを作っておく。踊り始める何かを考えている。
あと、人に隙を作るというか鎧的なものを無くします。裸一貫にする。自分を守るものが何もない状態にしたい。いざ舞台に出できたけれど鎧を着ていない、もしくは粋がって出てきてみたものの、パンツはいてないことに気付いた……みたいな瞬間からどう踊るのかにこだわっています。
酒井:一見どんくさい感じだけど、ドキッとするくらい切実だったりする。
白神:進んで矢ガモになりにいくみたいな(笑)。死ににいくみたいな的な。
酒井:私も矢ガモになりたい!
白神:(リハーサルが始まって)もはや刺さっていますよ(笑)。
― 振り付けること、振り付けられること –
―今回お互いにソロを振り付け合いますが、振付家としての自分、ダンサーとしての自分は、やはり違いますか?
白神:ダンサー的欲求と演出家的欲求は全然違う。自分の作品に出ていますが、自分が外からのダンサーだったら出たくないかも……というジレンマを抱えています。
最近だんだんと「踊りたければ踊っていいんじゃないか」という気分になりました。少し前まではバレエの振りとかは使わなかった。バレエが好きだけれどもバレエっぽい振りをやるのは演出の立場からすると観たくない。タブー視していました。人の作品に出たときはストイックに挑みます(田畑真希主宰の「タバマ企画」、石川勇太主宰の「e.g.MILK」などに出演)。
モモンガ・コンプレックス「秘密も、うろ覚え。」@山手ゲーテ座 2013年 photo:北川姉妹
酒井:私も全然違う。何かお題をあたえられて振りを考えるときと自分の作品を作るときがまず違う。自分のソロを踊るときと振付家に振り付けられて踊るときも違う。自分のソロを踊るときは音楽の方と即興で踊るライブ・パフォーマンスが多いので細かく振付はしないですね。大体の流れや構成を話し合って、私の場合「これはやらないようにしよう」という約束事を決めて踊る。そのときの音とかお客さんとの距離とか環境から何かを感じて踊りだす。内側から外側の状況にチューニングしたところに出てきた自分の体で勝負する、立つという覚悟でやる感覚なんです。
振付家から振付をもらって踊るのは楽しい。振りを自分なりに噛み砕いて「酒井幸菜が踊るからそうなる!」みたいに出すのがおもしろい。私にしか出せない「何か」をよしとしてくれる振付家であれば楽しくできる。
―リハーサルが始まっての実感をお聞かせください。
白神:(振り付けるのも振り付けられるのも)どちらも自分。鏡みたい。酒井さんとは毎回話し合います。自分のことを見直すというか自分の得意なこと、自分がいつもやっちゃう選択肢とかをインプットし、さらにアウトプットする時間がある。
振付をする方は自分の趣味に踏み込んだものを全部吐き出しています。自分が作るときは分量を気にしてしまいますが、そこは気にせずやるだけ全部出す感じで踊ってもらっています。
酒井:お話しをいただいたとき「ホッコリしない白神さんを振り付けようと!」思った(笑)。最初は自分の得意な方に引きつけることばかり考えていたんです。でも、実際に稽古場で白神さんの体を見ながらいろいろ試していくなかで、白神さんに踊ってもらうから出せる振付・作品のトーンみたいなものをやってもいいんじゃないかと思いました。
「こんな振付もやるんだ!」と振付家・酒井の違った一面を出せそうな気配があります。ダンサーとしては白神さんに新しい自分を引き出してもらえたらいいな。
―「振付家として新たな一面を出せそう」というのは、具体的にどんな感じですか?
酒井:白神さんは絶妙な間(ま)の持ち主なので、ちょっとでも隙をあたえると「白神テイスト」になってしまう。その隙間をあたえないようにしながら、でも、どう隙間を作るかというようなディレクションの仕方に気を付けてやっていきたい。普段はその人に合うものをスタイリングしていく方が楽しいのですが、今回それをやってしまうと個性・佇まいが強いダンサーだから引っ張られちゃう。
結局「いつもの白神さんだったね」となると、おもしろくても振付家としてはちょっと悔しい。「今まで見たことのない白神さんだったよね、なおかつ作品としてもおもしろかったよね」というところを目標にしています。
―白神さんの手応えはいかがですか?
白神:振付家としてもダンサーとしても新しい面が出せるといいな。話し合いながら作っていると「これはやったことがない……」ということになる。挑戦しています。酒井さんの鎧は大分外しました(笑)。自分は地獄まで落ちるタイプなので、どん底、底辺まで落ちないといけない(笑)。
酒井さんに関しては「地獄にもう落ちているのに気づいていない」という状態にしたい。頭のいい人なので、地獄状態を察知してそれなりにできてしまうから、「わたし結構イケてるかも!?」って思っているんだけれど、じつは「どん底だよ」というところへ持っていく(笑)。
酒井:私、結構勘違い屋(しぃ)だからイケてると思っている(笑)。
― “棒”にこめられた意味とは –
―公演名『Stick & uS!!』~私たちと棒~というのはどこから来ているのですか?
白神:Stick & uS!!(早口で威勢よい口調で)みたいな勢いがほしかった。棒!みたいな感じ(笑)。気合とか気迫がほしいね、みたいな感じ。イイね!という感じ(笑)。
酒井:二人の打ち合わせで決めて事後報告(笑)。
―実際に棒を使うんですよね?
酒井:はい。また、チラシにSTスポット横浜の大平(勝弘)さんが書いてくださったように「外側に動機を求める」ということがテーマにあります。自分の内側から発するものだけではなく、外側からの何かを用いてストーリーを紡いでいく。振り付けられるっていうのも外部からの刺激です。白神さんとはキャラクターは違うなと思いつつ小道具をたくさん使うとか共通項も結構ある。
白神さんが山手ゲーテ座でやった作品(『秘密も、うろ覚え。』2013年3月)で棒を持ってダンサーが走るシーンがあった。私にも棒を引きずるシーンのある作品がある(『難聴のパール/Night in June』2010年6月、ヨコハマ創造都市センター)。二人とも棒を使ったなと(笑)。(棒を使うことを通して)振付家としての解釈の違いをお客さんの視点からおもしろがってもらえるのではないかというのがあります。
「難聴のパール」@YCC 2010年 photo:Kenki IIDA
― 空間を意識して –
―今回はSTスポット横浜・急な坂スタジオの主催、横浜市の共催による公演で「S.S.シンプル・ストーリーズ」という企画の一環です。「最小限の(シンプルな)テクニカルワークと再演することを前提」にしている。10月には提携するKAAT神奈川芸術劇場の中スタジオで上演し、来年2月にはSTスポット横浜での再演が決まっています。
酒井:会場のスケールが違う。
白神:もはやSTには収まり切らない……。
酒井:そこは作っていて二人とも意識しているよね。大きい所でまずやって小さなところにいくということを何となく予測しながら。
―お二人とも作風は違えども「空間」というものを常に意識して作られる方だという印象があります。イメージをはっきりさせながら作っているのではないかと。
酒井:空間の具体的なイメージがないと私は作れない。
白神:イメージというか「そこだったらこうだな」「ここに行ってほしいな」「この曲が似あうだろう」というのがある。
酒井:そうそう。空間の大きさによって音楽の響き方が違うし、この大きさだとこの曲は白けちゃうとかある。バランスですね。
KAATではこれをかけてもいいけど、STではちょっと……みたいなのはある。逆のパターンもあります。
― 一番怖い場所、それは劇場 –
―神奈川には素敵な美術館などアートスポットがたくさんあります。そういった空間でのお仕事も多いですね。今回の作品を劇場・ホール以外で上演できるか分かりませんが、劇場で踊る・作るのと、そうじゃないのとでは、やはり大きく違ってきますか?
酒井:距離感が違う。舞台だと使い方にもよりますが基本的には対面式。イベントとかだと突然人ごみとか後にも目がある状況で踊ったりする。いろんなところから視線を感じる。私は舞台以外で踊らせていただく機会も多くて得意というか割と合っています。ただし振付をするとなると別。
白神:演出家としては劇場じゃない空間に対して反骨精神じゃないけれど逆手にとって燃えるタイプ。壁が緑色なんですけれど、柱があるんですけれど、外で蚊がいるんですけれど……みたいなことに燃える。でも、実際踊るとなると劇場が怖い。
酒井:逃げ場がない……。
白神:対面式の劇場が一番怖い。外だと紛れられる。逆に言うと一番怖い場所が得意。
―KAATの中スタジオは大きな空間なのでソロを振り付けるにせよ振り付けられるにせよ、そこに向きあわなければならない。追いつめられるかもしれませんね。
白神:結構追いつめられる。
酒井:踊る作品に関しては白神さんの演出に身を委ねているので心配していません。振付する方は体ひとつでいかに構築するか――。まとうものと、照明と音楽を大事にシンプルで原典的なクリエーションになりそうです。肉体!みたいなのじゃなくて、いかに香り立つ空間を作れるか――。
―二人の人となりのわかる新鮮な驚きに満ちた作品を-
―最後にお客様へのメッセージと抱負をお願いします。
酒井:二つの作品の違いを楽しんでほしいですね。
白神:二人のこと知らない人でも「ああ、人柄が分かる」「人となりが分かる」みたいな感じにしたいですね。あと純粋におもしろかったと思ってもらえたらいいな。藁をもつかむ気持ちでやっているので、ぜひお越しください!
酒井:二人の作品やダンスを観たことがある人にとって新鮮な驚き・裏切りになる姿をお見せできれば。初めて観ていただく方にも楽しんでもらえるよういつも以上に意識しています。企画に惹かれて来てくださった方にもおもしろかったという印象を持って帰っていただけるように頑張ります!!
お二人おすすめの場所にいってきました! 編集後記
インタビュー後にマグカルからお二人に神奈川県の好きな場所やおすすめのお店を聞いてみました。まず二人からでてきた場所の共通性は「自然」。酒井さんは茅ヶ崎、白神さんは三浦海岸がとても好きとの事。酒井さんは茅ヶ崎のご出身で、里山公園など自然が沢山ある茅ヶ崎をおすすめしてくださいました。
里山公園は谷戸田を雑木林が包み、自然と人の暮らしが共生する里山と呼ばれる風景を守るために誕生した公園で、自然の風景を生かした園内は自然を楽しむ為に沢山の人が訪れていました。自然を楽しみながら散歩するだけでも良いリフレッシュになりますね。
個人的には70mの「風のすべり台」が気になったのですが子供に大人気だっため良い大人のマグカルスタッフは遠慮してしまいました…。
自然が豊富な公園は本当に気持ちがよかったです。
白神さんは三浦海岸に海を見に行った際に立ち寄った三崎港駅からすぐのマグロ料理専門店 「割烹旅館 立花」をおすすめしてくださいました。
白神さんのおすすめは「カマの竜田揚げ(840円税込)」。たっぷりと脂がのったカマ肉は口にいれた瞬間に濃厚な味が広がり臭みもなく程よい下味がすばらしい一品!そして「せっかくなので」と社長のご好意で「皮付から揚げ(577円税込み)」もいただいたのですが、マグロの皮と言っても外ではなく内蔵側の皮らしく、歯ごたえがあり、食感はもはや皮ではなく肉!今まで食べたことのない一品でした!お店の方もとても気さくな方ばかり。
三崎港を訪れた際には是非足を運んでみてください。
写真左から「カマの竜田揚げ」、「皮付から揚げ」
なんと建物は五階建て!
□マグロ料理専門店「割烹旅館 立花」
http://www7.ocn.ne.jp/~tacibana/
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