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EAT&ART TARO さんが行く!「タベルことにまつわること」展 ~ TAROさんが作るレトロ料理レシピ付 ~

EAT&ART TARO さんが行く!「タベルことにまつわること」展 ~ TAROさんが作るレトロ料理レシピ付 ~

Interview & Text :  井上 明子     Photo:  西野 正将    協力:川崎市市民ミュージアム
 
川崎市中原区にある川崎市民ミュージアムは、写真・グラフィック・マンガ・美術文芸・映像と多岐にわたる作品を収蔵し、多彩な展示を紹介しています。今開催中の常設展は、私たちが生きて行く上で欠かせない「食べる」という行為に着目した、その名も「タベルことにまつわること」展。今回「食」をテーマにおもしろい発想でアートプロジェクトを展開しているEAT&ART TAROさんをゲストに迎え、7つのテーマにわかれて構成された展示室を一緒にまわってきました。最後の展示室では、TAROさんの作品の一つ「レトロクッキング」のコーナーが待ち受けています。
 
なんと今回は特別にTAROさんがレトロクッキングをしてくれました。メニューは、横浜・馬車道に実在した「レストランポニー」(創業1955年・惜しまれながら2012年に閉店)の「スパゲッティミラノ」。気になるレシピはP2へ )
 
それではさっそく、TAROさんと一緒に展示会場を観ていきたいと思います。
 
 
まず第一のテーマ「アラワスこと」では食べ物がモチーフになった作品が展示されています。中でも斬新なのは、岡本一平《辻斬り》(1916年)。スイカを食べながら歩く通行人が刀で腹部を斬りつけられているのですが、その斬られた腹の断面もスイカなんです。
 
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聞き手(以下略)— なんでスイカなんですかねぇ?
TARO(以下T):なんでだろうねぇ・・・でも断面にしたいほうが先じゃないこれ?
すいか切ってて、腹切ったらこんなかなぁ…みたいな(笑)
後ろの沈んでる夕陽も絶対スイカを意識してるよね。

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続いてのテーマ「イワウこと」では、様々な年中行事における食にまつわる作品が集まっていました。先ほどと同じく、岡本一平の作品《ユーモアカルタ》は、その名の通り当時のユーモアがいっぱいつまったカルタでした。
 
 
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T:(カルタをみながらしみじみと…)「アンパンニハ ヘソガアル か…。」
へそって、真ん中にあるシソみたいなやつですよね。
T:木村屋のあんぱんなんかは、サクラの塩漬けなんだよね。

 
ちょっと気になったのであんぱんの”へそ”について調べてみました。明治天皇への献上品として、他のあんぱんと差異化をはかるためつけられたのがはじまりとのこと。興味のある方はこちらをどうぞ。
 
ちなみにこの《ユーモアカルタ》の「な」は“ナポレオン シマナガシ”だったんですが、子供が遊ぶイメージのカルタなのに「えっ?!」と驚くセンスで選ばれた言葉たちがおもしろい!是非会場で目撃してみてください。
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次のテーマ「ツナゲルこと」では1960年代以前の日本の農村を中心とした風景が写真で表現されていました。「今、市場にいくと巨大な建物群かのように段ボールが積み上げられているけど、当時はそんなものなかったから梱包も藁なんかを使ってやっていたんだね。」とTAROさん。薗部 澄の《キャベツの出荷》(1957年)では藁にくるまれたキャベツが積み上げられた畑で一服している男性が写されていました。今も当時も作っている物は同じだけど、その風景は変化して行く。人々の暮らしのちょっとした1ページから大きな歴史を感じ取ることができました。
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続く「ユタカニナルこと」では、日本における80年代の広告作品をたくさん観ることができます。高度経済成長を経た80年代は、人々の生活が大きく変化しはじめた時代。大量生産大量消費の時代を反映するかのように、広告にも勢いがあるのがみてとれました。
 
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T:「真っ赤な皿に真っ赤な料理ってすごいね。湯気のたちかたとかも、ちょっと演出過剰な感じもするよね。」
「ああ、中国がしみてゆく。」・・・キャッチコピーのセンスも秀逸ですね。紀文のコピーは「ウェストサイズ物語」だって(笑)
T:この頃の紀文はダイエット指向に走るんだね。ジョギングをやめてステーキの代わりに、はんぺんをマーガリンで焼けって書いてある(笑)

 
時代を彷彿とさせる広告表現が施されたポスターの展示もいろいろ突っ込みどころが満載で面白いですが、懐かしのブラウン管テレビを使って昔のCMを企業別・時代別に上映しているコーナーも面白かったです。きっとある世代の人には懐かしさ、そしてそれ以降の人には新鮮さを感じさせてくれるのではないでしょうか。
 
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続いて同じ部屋に壁を挟んで展示されているのは、広告からみる鮮やかな食のイメージとは対照的な「タベラレナイこと」というテーマの作品群でした。コントラストのあるテーマをあえて一つの展示室に配置することで、否が応でも訴えかけてくる展示になっていました。アフリカの飢餓を写した写真の前で「さっきの広告の時代と同じ80年代なんだね。」とつぶやくTAROさんの言葉にハッとさせられました。
 
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そして、食を取り巻く場所をテーマとした「ワカチアウこと」につづき、作品に描かれた女性のイメージ「オンナラシクアルこと」では加賀まりこさんのセミヌード写真も展示されていました。食と関係があるの?と思う方もいるかもしれませんが、《私生活 加賀まりこ》と題された立木義浩の写真の背景にはキッチンが写っているのです。やはり加賀まりこ、美しい!!
 
 
続いては、いよいよTAROさんの「レトロクッキング」のコーナーへ。
TAROさんの部屋へ続く壁にも、なにやら美しい女性たちの姿が・・・。レトロ料理本の表紙を飾る女性たちです。
 
 

■ レトロクッキングとは ■
昭和30〜50年代は、テレビの料理番組や数多くの料理雑誌が出現してきた時代です。そのころの料理本の保存・収集をし、さらにその中のレシピを実際に再現・調理するイベントを開催。そのことを通じて、当時の味や食文化を発見するというEAT&ART TAROさんによるアートプロジェクト。

 
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レトロな料理本の表紙が年代順に並べられた壁を眺めながら進むと、TAROさんの部屋にたどり着きます。「昭和の料理本集めるのが大好きで集めているんです」というTAROさん。その貴重なコレクションの中から選ばれた、昭和6年から40年までの「別冊主婦の友」の表紙が年代順に並べられている。こうやって並べてあると違いがみえてきて面白い。雑誌の表紙って時代を読み解く資料になるんですね。特に料理本なので、当時の家庭事情が見えてくるのが面白いです。
 
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T:昭和30年になると表紙を飾る料理はお肉中心になったり、料理の盛りつけ方法も小分けにする方法から大皿へ変化してますよね。
こっちではもう生クリームでお菓子をつくりはじめていますね。
T:表紙に“懸賞・ミキサー”って書いてあるしね(笑)

 
TAROさんの説明を聞きながら部屋の中へと進むと、そこには沢山のコレクションの中から厳選されたレトロ料理本がぎっしりと並べられていました。
 
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当時の料理研究家が、当時の台所にある機材と材料で作れるように工夫してアレンジを加えて紹介している様子もおもしろいです。
 
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T:たとえばこの「デコレーションケーキ風のかわりサンドイッチ」、一番上に何がのってると思う?
普通だったらオリーブですよね・・
T:そう、本当はオリーブを使いたかったし料理研究家の先生もオリーブは知ってるんだけど、
オリーブって書いても誰も作れないから代用品を考えるんですよね。それが青梅だった。
へ〜!

 
他にも昭和初期の(斬新な)コーヒーの入れ方、うさぎやりんごに似せた玉子をつくる飾り玉子のレシピなど、試してみたい身近な食材のレシピがたくさんあったので、観るだけでなく実際に作ってみたくなる展示でした。
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さて、そんな実践派の方こそ必見!
冒頭でもお伝えした“レストラン ポニー”が登場するレトロクッキングのコーナーです。展示室にもポニーの店主が当時の雑誌に提供した麺レシピと、それを実際にTAROさんが作っている映像が展示してありました。
 
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「ハムそば」ってすごい名前のメニューですね。
T:こっちには「シチューうどん」もある(笑)
この「スパゲッティバロワーズ」ていうのは牛こまぎれとレバーのスパゲッティで
ハヤシルーをベースにしたソースなんだけど名前はナポリタンソースっていうんですよ。

当時のナポリタンってハヤシソースのことだったんですか?!
T:今ではケチャップのナポリタンが一般的だけど、
ちょっと間違えばもしかしたらハヤシルーを溶かしたものがナポリタンになっていたかもしれないと思うんですよ。

 
なるほど、TAROさん曰く、昭和30年代頃から洋食が一般家庭に普及し始め、それ以降いろんな料理研究家がいろんなレシピを開発したそう。でも残念ながら定着せず消えてしまったレシピもたくさんあって、この「スパゲッティバロワーズ」もその一つなのかもしれない。でも今もどこかの家のおばあちゃんが作り続けている可能性は否定できないし、もしそうであればそれは立派な食文化と言える。TAROさんは、レトロ料理本と関わることで、そういうことが見えてくるのがとてもおもしろいと語ってくれました。
 
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同じく、レストランポニーのレトロレシピの中に「スパゲッティミラノ」というメニューがあります。
 
ここでいよいよレトロレシピの公開!これは実際にTAROさんが MAGCUL.NETのために作ってくれました。元ネタはこちらの昭和38年の「別冊主婦の友 若い家庭の秋の料理」。
 
別冊主婦の友
 
                    【作り方の手順】
作り方
 
ちなみに完成写真はこちら!
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T:これ、ベーコンとソーセージを使っているんですよ。
野菜がまったく入ってないですね。
T:そう。ちょっと調べたら、肉肉しいやつをミラノ風っていう風潮があるらしいことが
何となくわかってきたんだけど、現在でも地域によってはミラノ風=「あんかけ」だったりとか、
醤油味のことをミラノ風って言ってる所もあったりして、もうわけがわからない(笑)

 
戦後の混沌とした時代に、イタリア料理屋さんが料理名に都市名を何となくあててみたのが残って、いろいろなミラノ風が各地に存在しているそうです。一方でナポリタンはホテルニューグランドのおかげか、今のケチャップ味のソースが全国に定着しています。もちろん実際のナポリにナポリタンが存在しないことは有名な話。このように食文化の普及には企業の力が大きく関わっているということも、今回の展示を通して学んだことの一つです。今当たり前のように食べているメニューも、どこかで誰かが考えたレシピが何らかの形でうまく伝承され、形を変えながら今の姿になっているのだなぁとしみじみ感じました。と同時に、まだ味わったことのない消えてしまったレシピへの興味もわいてきたのです。
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今回、TAROさんと一緒に「タベルことにまつわること」展をまわってみて、すごく身近な「食べる」という行為の奥深さに気がつくことができました。またレトロ料理本を通して、今まであまり考えることのなかった「食文化の広がり方」にも興味をもつことができました。興味の趣くままに掘り下げて行くと、そこから当時の人々の暮らしが見えてくる。そしてその暮らしが知恵と遊び心に溢れていることに気付くことができるのではないでしょうか。
 
もっとレトロクッキングについて知りたい!という方は、是非、同会場で開催される2.8(土)のTAROさんのワークショップに参加してみてください。ここには書ききれなかったお話や、実際に作品と触れ合うことで、誰も気付かなかった発見がまだ隠れているかもしれません。
 
 
 
■ イベント情報 ■
「タベルことにまつわること」展関連企画
「ツクルことにまつわること-レシピをめぐる座談会-」
日 時:2.8(土) 14:00-16:00
会 場:川崎市市民ミュージアム アートギャラリー
講 師:EAT&ART TARO
参加費:300円
申込み:FAX、メールの場合は、参加者の氏名、人数、住所、電話番号、FAX番号(FAXでお申込みの場合)を明記の上、「タベルことにまつわることワークショップ」係宛までお申込みください。 FAX:044-754-4533 メール:25museum@city.kawasaki.jp

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