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お雑煮って面白い!お雑煮研究家の粕谷浩子さんとお雑煮フェス

お雑煮って面白い!お雑煮研究家の粕谷浩子さんとお雑煮フェス

皆さんのご家庭ではどのようなお雑煮を召し上がっていますか?

我が家のお雑煮は鶏で出汁をとり、大根とニンジンの飾り切りが入ったものだ。お餅はうっすらと焦げ目がつくまで焼いて、出汁に浸す。
子どものころからこの味に親しんできて、「これこそがお雑煮!」と思ってきたが、そんな私の概念は鎌倉で開催された「お雑煮フェス」であっさりと覆されることになった。

そこで出会ったのは今まで見たことのないお雑煮の数々であった。牡蠣雑煮、甘いお豆腐のスイーツのようなお雑煮・・・中には茶碗蒸しにお餅の入ったものまで!
多種多様なお雑煮に目を白黒させて驚いている私に、主催者の1人である(株)お雑煮やさん代表、お雑煮研究家の粕谷浩子さんはこう語る。

「(お雑煮とは)同じ市町村内でも違う。日本全国、そのご家庭では自分達のお雑煮が普通だと思っているんです。各家庭で違うらしいと皆さん知っていても、ここまでも全然違うというのがある。」

お雑煮によって見えてくる、地域の歴史、文化、そして人々の暮らし。粕谷さんのお雑煮にかける情熱と、お雑煮という食文化の魅力について、今回お話を聞いてきた。

粕谷さんがお雑煮に興味を抱くきっかけとなったのは中学生のころ、父親の転勤で新潟県上越市に引っ越した時だった。それまでは牡蠣入りのすまし汁か、香川県出身の母が作る、白味噌に甘いあんこ餅の雑煮が彼女にとって「普通」のお雑煮だった。しかし正月に友人宅に招かれた際、ワラビやズイキがたっぷり入った茶色の雑煮をごちそうになり驚いたとのこと。各地域、各家庭でお雑煮の「普通」が違うことを知った。

その時の衝撃を、粕谷さんは社会人になってからも忘れられずにいた。中小企業診断士として忙しく働いていたが、2009年に女子栄養大学に入学し、栄養学を学びながら、雑煮をテーマに人々への聞き取りを始めた。2年前からは九州に拠点を移して活動している。

「今おばあちゃんナンパして九州を歩いているんですよ(笑)。あっちこっちで「すみません~」って聞いてまわっています。本当にそうしないとその地域のお雑煮ってわからないんですよ。みんなにとっての「普通」がたくさんあるのかもって思っています。

東京だと菜っ葉と鶏で「なとり雑煮」。だから小松菜と鶏なんですけど、神奈川の厚木や秦野とかになると大根と里芋に青のり、かつおぶしに変わってくるんですよ。お魚が獲れる地域で必ずしもお魚を使っているとは限らず、大根や里芋などの根の物を使って「地に足をつける」ということに価値を置いていたりとか、面白いんです。」

(株)お雑煮やさん代表、お雑煮研究家の粕谷浩子さん

私も神奈川県で育ったが、我が家のお雑煮には青のりもかつおぶしも入っていない。私にとっての「普通」は、同じ県内でも少し離れると、「普通」ではなくなってしまうのだ。

例えば、お餅の形一つとっても、さまざまなストーリーが見えてくる。餅の形が丸か四角か、関ヶ原が境目になってくるという話は、筆者もテレビで目にしたことがある。関ヶ原は様々な食文化の分かれ目で、一般的に関ヶ原より東は角餅、西は丸餅を使用するとされている。これは江戸幕府が誕生し、江戸の人口増加に伴い餅の大量生産が必要になったため、ついたお餅を伸ばし、一気に切り分ける生産方法が主流となったからだそうだ。

しかし鹿児島の一部の地域では角餅を使うことのこと。それは、江戸に長く留まった島津氏が鹿児島に角餅を持ち帰ったことが起源とされている。色んな歴史が混じり合い、土地の文化と融合して、その地域ならでは、そしてその家庭ならではのお雑煮が誕生するのだ。

茨城県 “常陸太田雑煮”

一つの地域の中でも、これほどまでに違いがあるのに、他の地域のお雑煮を食べられる機会が少ないともったいないように感じてしまう。私のとっては、お雑煮とはお正月に家で食べるものであり、それ以外で食す機会は数えるほどしかなかった。だからこそ皆、自分のお雑煮こそが「普通」で一般的なものだと思い込んでしまうのだろう。
そこで粕谷さんに、「お雑煮ってお正月以外でも食べる機会はありますか?」と尋ねてみた。

「朝倉市の「蒸し雑煮」がいいモデルケースだと思っていて、実は観光協会さんの働きかけで地域の中で年間通して10店舗くらい蒸し雑煮を出してくれているお店あるんです。地元の名物料理になってきているんです。そうなるとその土地に旅行してきた人が、その背景の文化を知ることができるじゃないですか。家庭料理だからこそこれだけ個性的だと思うんですよ。料理人の文化ではなく、家庭の中の閉鎖されているところで。だからこそゆるーく昔からのが残っていると思うので。こんな風に、各地で旅行したら食べられるようになったらいいなと思うんです。」

福岡県 “朝倉蒸し雑煮”

飲食店では提供されていないため、外国人観光客は(お雑煮の)存在を知らない。そういう外国の人たちにも食べてもらえるようにしていきたい。粕谷さんのお雑煮を通して日本の文化を推進し、守っていきたいという想いが伝わってくる。

粕谷さんは今後の活動について、朗らかな笑顔でこう語った。

「今年からは食育というか、仲間づくり活動に突っ込んでいこうと思っているんですよ。自分だけでする『ばあちゃんナンパ』ではなく、地元の皆さん自身が地元のばあちゃんたちに話を聞き取ってもらえるような楽しい仕組みを作りたいんです。」

何でこの地域でこんな雑煮が食べられるようになったのか?という物語は、ガスが普及する以前の文化を知る90歳以上のおばあちゃん達がご存知の場合が多い、という。1人では細やかに全国を回りきれない。そのため、地元の人と協力して、お雑煮という食文化についての知識と情報を、次世代に残していきたいという思いを語ってくれた。

今回粕谷さんが企画に関わる「第壱回 お雑煮フェス」は大盛況で、私が到着した頃には既に6種類中2つが完売となっていた。

ラインナップ:
① 北海道 ”鶏ガラ出汁雑煮“
② 新潟県 “新発田雑煮”
③ 茨城県 “常陸太田雑煮”
④ 奈良県 “きなこ雑煮”
⑤ 広島県 “牡蠣雑煮”
⑥ 福岡県 “朝倉蒸し雑煮”

どれも味、出汁、具材、お餅の形や硬さまでが違っていて、美味しかった。粕谷さんのおっしゃる通り、旅行先でお雑煮がいただけるようになれば、またさらに旅行の楽しみが増えるだろう。

そして「第弐回」があれば是非また足を運びたい。

お雑煮で膨れたお腹をさすりながら、帰ったら祖母に我が家の雑煮のレシピを聞いてみようと思った。