TOP画像 撮影:駒井壮介
21世紀を生きる狂言師の檜舞台
Vol.1 鎌倉能舞台で、膏薬の東西対決!
大藏教義(能楽師狂言方大藏流)
観音様が見下ろすここは、平日でも多くの賑わいを見せる鎌倉市長谷。駅から大仏様へ続く大仏通りは、休日ともなれば観光客の数は平日の比ではない。
それでも賑わう通りから路地に入ると、閑静な住宅地が広がっている。ここに所在するのは、本日の公演場所である鎌倉能舞台。
定員数は200席。座敷と椅子席が用意され、最前列は手を伸ばせば演者に触れられそう。開演前の解説だけではなく、能の上演中には字幕が用意され、さらに終演後には質疑応答がある。ここまでお客さん目線になって企画される能狂言の公演は、かなり稀有だと思う。
この日は午前・午後の2部制。1部では狂言『膏薬煉』と能『富士太鼓』。2部は狂言『地蔵舞』と能『放下僧』を上演した。
『膏薬煉』は都の膏薬煉と鎌倉の膏薬煉が対決する物語で、どっちの膏薬が強いか吸い比べる。お互いが鼻に膏薬を貼り付け、引っ張られた方が負け、というわけ。
2部の『放下僧』は仇討ちのお話し。狂言役者は、狂言だけでなく能にも出演しなくてはならない。
撮影:駒井壮介
狂言は字幕こそないが、要所要所で「クスリ」と笑い声が聞こえた。こぢんまりとした空間が、演者と観客の間の距離をほどよく縮めてくれる。
能では字幕を見ながら物語を追い「うんうん」と頷く方も…。理解が深まっている証拠だ。
仇討ちを企てる場面では、役者の緊張感もクライマックスに。お客さんの気が舞台に集中してくるのが分かる。「クスリ」も「うんうん」も、その瞬間に心が通じたように感じられ、とても嬉しくなった。
撮影:駒井壮介
公演が終わったのは夕刻。大仏通りに出ると由比ガ浜から吹く潮風が心地よい。舞台の緊張から解放されて、僕も現代へ戻っていく。
<舞台裏をチラッとのぞいてみたら…>
こちらが「膏薬煉」に使用する鬢付け油。「膏薬」を鼻につけるための必須アイテムです。これがないと吸い比べができません。
楽屋で「鬢付け油」を紙に塗る作業に没頭中。
途中で落ちてしまったら文字通り「お話にならない」ので、万が一に備え、両面テープでしっかりと補修。
これもまた、現代に生きる狂言師の一面です。