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美術・写真
学者とアーティストのコラボで、神話から現代社会への警笛を読み解く
2018.11.03

国内外からアーティストを招聘し、神奈川県内で創作活動などを行う団体を支援する、神奈川県アーティスト・イン・レジデンス推進事業。今回は、アメリカ在住の画家・山口由理子氏を招聘した企画展「今、神話が語るもの –人類の終末と復活の神話-」を開催中の、カスヤの森現代美術館に伺いました。

日本に生まれ、後にアメリカに渡った山口氏は、造形芸術の修士号を取得した後、40数年間アメリカを中心に作家活動を継続しています。
今回の企画展では、長年に渡り異文化間文学の研究に取り組んできたミネケ・シッパー氏(オランダ)とのコラボレーションで山口氏が制作した30点の絵画を展示。オープニングで公開制作を行ったほか、アンソロジストの東雅夫さんとのギャラリー・トークも開催されました。
館長の若江栄戽氏と山口氏は、1989年にN.Y.ソーホーのギャラリーで偶然出会って以来、親交を深めてきたそうです。そんなお二人に、今回のプロジェクトについて伺いました。


プロジェクトの発端は?

山口 シッパーさんとの出会いは、2009年、イタリアにあるロックフェラーファウンデーション ベラジオ センターに1カ月間滞在し、水彩画を制作していた時のことです。その当時、彼女は世界各地に残る「神話」に着目。ベラジオ センターでは各地の洪水や災害に関する神話を集めて発表すべく研究していました。
神話は遠い昔の話だと思いがちですが、今日の地球環境問題などを考える際に重要なヒントとなるエピソードがたくさん詰まっています。私はもともと世界のつながりや「連鎖」について強い関心を抱いていたので、シッパーさんと意気投合。「研究成果を発表するにあたっては、ビジュアルが付随していた方がより人に訴える力がある」という話になり、彼女が集めた神話について、私が一つひとつビジュアルを生み出していくことになりました。

若江 小説に挿絵があるように、テキストとビジュアルは昔から結びつきがあります。ただ、山口さんの絵は挿絵のように説明的なものではありません。「なぜこのビジュアルになったのか」を説明すると長くなるかもしれませんが、でも間違いなくシッパーさんのテキストとつながっている。そんな距離感も楽しんでいただけたら、と思っています。

山口 最終的に今回の30点になりましたが、シッパーさんからボツにされた作品も結構ありました。納得できなくて、シッパーさんがいるオランダまで原画を持って行って見せたことで復活した作品もあります。モニターで見ながらやりとりしていたので、印象が違ったのでしょう。

今回の作品は、これまでの山口さんの作品とは画材が異なります

山口 ポリプロピレンを主原料とする「ユポ」という合成紙を使っています。つるつるとした手触りが気に入って選んだのですが、水が浸透しないので水彩では描けず、アクリル絵の具を使ってみました。

若江 普通、アクリル絵の具は乾きが早いのですが、山口さんは大量の水を混ぜて使っています。ユポは水分を吸収しないので、絵の具を紙の上に「垂らす」ことで独特の表現が生まれました。

山口 これは、今回のプロジェクトで初めて試みた技法です。ユポとアクリル絵の具の組み合わせはコントロールできず、思いもよらない結果が出るので、それが楽しくて(笑)。ものを創るときは、楽しくないと続けられませんからね。

30点すべて揃って展示されるのは、カスヤの森現代美術館が初めてなんですね

山口 そうです。結局10年近くかかってしまったので、こうして作品が全て並んでいるのをみると、感慨深いものがありますね。

若江 神話のストーリーとイメージ画像は見ていましたが、途中で何点か入れ替わりましたよね。最終的にどの作品を日本で展示するのかがわかったのは、梱包を解いた時でした(笑)。

山口 シッパーさんの思いが観る人に伝わればいいな、というのが一番の願いです。

若江 シッパーさんが神話を収集・編集するには、膨大な時間を要したことでしょう。でも、神話ができるまでにはもっと長大な時間が流れています。連綿と続いてきた神話を、時代に則した切り口でビジュアル化するのは、アーティストの力です。そしてそこには、現代社会への警告も見て取れると思っています。

山口 神話を収集する学者の存在も重要ですよ。

若江 もちろんです。今回展示している作品は「今」の時代の翻訳であり、千年後にはまた違った切り口の作品が生まれるかもしれません。学問をする人とアーティストのコラボレーションは、本当に素晴らしいものだと、改めて思いました。

今、神話が語るもの –人類の終末と復活の神話-
 エッセイと選択神話集 ミネケ・シッパー
 アートワーク 山口由理子

会場:カスヤの森現代美術館
http://www.museum-haus-kasuya.com/
会期:12月23日(日)まで
休館日:月、火、水曜日
開館時間:10:00〜18:00(入館は17:30まで)
*会期中、11/23(金)および12/2(日)は予約制イベント開催につき一般の方の見学は12時までとさせていただきます。

[美術館へのアクセス]
■JR横須賀線衣笠駅から徒歩約15分
■京浜急行汐入駅下車、衣笠駅行きバスにて約15分「金谷バス停」下車徒歩約4分

カスヤの森現代美術館

当館は1994年4月に、私設の現代美術館として開館しました。あまり馴染みのない現代美術をより身近に感じていただけるよう、現在進行形の作家の個展を中心にセミナー、茶会、シンポジウム、コンサート等を開催しています。来館された方々がそれぞれの楽しみ方でお過ごしいただけるような空間作りを心がけております。しばし日常から離れ、竹林に囲まれたティーラウンジで、くつろぎのひとときをお過ごし下さい。

2~3ヶ月ごとに開催される企画展の他、国内では鑑賞する機会の少ない戦後を代表するアーティストの一人、ヨーゼフ・ボイス(ドイツ)のコレクションを中心にナム・ジュン・パイク、李禹煥などの作品を常設展示しています。

 

(写真1枚目)美術館外観
(写真2枚目)美術館ラウンジ
(写真3枚目)ヨーゼフ・ボイス常設展示室
(写真4枚目)ナム・ジュン・パイク常設展示室
(写真5枚目)李禹煥常設展示室

  • ショップ・スポット名
    カスヤの森現代美術館
  • 住所
    神奈川県横須賀市平作7-12-13
  • 電話
    046-852-3030
  • 営業時間
    10:00〜18:00(入館は閉館30分前まで)/【休館日】毎週月・火・水曜日 ※展示替え期間、および年末年始
  • クレジットカード
    不可
  • 駐車場
    有(10台ほどの無料駐車場がございます)
  • 平均利用額
    【入館料】一般¥600、学生¥500、小学生¥300
  • URL

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