コロナ禍を乗り越え新しいステージへ! 鎌倉能舞台・中森貫太さんインタビュー
かつてない大きな災に、全世界が立ち止まってしまった2020年。ほぼすべての公演がキャンセルとなる中、舞台芸能に携わる人々はこの危機をどのように乗り越えてきたのでしょうか。
伝統芸能の世界に身を置きながら、クラウドファンディングやzoom稽古などに積極的に取り組み、新しい世界を切り開いている、鎌倉能舞台・中森貫太さんにお話を伺いました。
この度のコロナ禍は、伝統芸能に携わる方々も大変な状況だったと伺っています
私たちについては、3月12日の公演を最後に完全に停止状態でした。感染予防対策効果の検証と予防ガイドラインの策定が完了したことから、様々な助成金を活用しつつ、9月22日にようやく公演を再開しましたが、約半年に渡ってまったく活動できなかったことになります。5月に非常事態宣言が解除されるまではお弟子さんの稽古もお休みしたので、私たちの収入はほぼゼロ。本当に辛い時期でした。
そんな時期をただ黙ってやり過ごすのではなく、様々な新しいことに取り組まれたそうですね
時間だけはたっぷりあったので、まずYouTubeチャンネルを開設しました。内容は、舞台や能面、装束に関する解説が中心です。この機会に能に興味を持っていただき、コロナ収束後に公演に足を運んだり、お稽古を始める動機づけになれば、という思いで配信しています。
実際に何人かの方からお問い合わせをいただいたので、zoomの稽古も始めました。ロンドンから連絡をくださった方もあるんですよ。オンラインはタイムラグがあるので、やりにくい点もありますが、現在も月に2回のペースでロンドンの方に稽古をつけています。
公演の動画を無料配信する団体もあるようですが、それは将来的に自分を追い詰めることになりかねないので、今のところ行っていません。
伝統芸能とオンライン、ちょっと意外な取り合わせに感じますが
そんなことないですよ(笑)。私はオンライン飲み会にも参加しますし、そういったところから新しい情報をいただいたり、新しいお客様に出会ったりしています。もともとは仲間に勧められてfacebookを始めたのですが、もう10年ほどになりますね。正直にいえば、はじめは面倒臭かったし、渋々始めた感じでしたが(笑)今では「お友達」も5,000人近くになりました。
今回はクラウドファンディング(CF)にも取り組まれました
CFは、読売新聞社さんにお声がけいただいたことがきっかけです。
*鎌倉能舞台のCFについてはこちら!
旧知の記者さんが、私がfacebookで窮状を訴えているのをご覧になり、いろいろサポートしていただきました。高校時代の同級生をはじめ、facebookの「お友達」からも応援をいただくなどたくさんの方に支援していただき、本当に涙が出るほど嬉しかったです。
伝統芸能に限らず、どこか「弱音を吐くのはかっこ悪い」という考えがあるので、CFに取り組むことに迷いがなかったわけではありません。でも、本当に困っているのなら正直に「助けてください」と言うべきです。アピールしなければ本当の姿は伝わりませんから。
もうひとつ、鎌倉で活動する有志団体・カマコンでもCFを行いました。
「鎌倉能舞台の舞台を使い、使用料を払うことで応援できるのではないか」という発想から、8月に『まちnoh能舞台芸術祭』を企画してくださったんです。伝統芸能の方だけでなく、ジャズギターやピアノ、ヴァイオリン、ジャグリング、紙芝居など全12組の方が出演してくださり、その公演をYouTubeで配信しました。これをきっかけにYouTubeチャンネルの登録者数も伸びたし、鎌倉能舞台の幅広い使い方をアピールできたことも収穫ですね。
かつて、能狂言は“わかる人が観るもの”というイメージがありましたが、それでは時代の流れの中で取り残されてしまいます。種を蒔かなければ実は得られません。種を蒔くためには学生鑑賞会などの普及活動が大切なので、これらを神奈川県や鎌倉市が助成してくださることには、心から感謝しています。
鎌倉能舞台は新しい試みに積極的、という印象があります
鎌倉能舞台では、以前から和文・英文を併記した字幕を舞台脇に投影しています。当初は否定的な意見が多かったのですが、実際にやってみるとお客様には好評でした。謡の全文対訳ではなく、舞台を観ながらすっと読めるよう、シンプルな説明に絞ったことが良かったのかもしれません。また、照明をLEDに変えることはすでに検討していますし(衣装の色が変わって見えてしまうなど、検討すべき課題はありますが)、将来的にはプロジェクションマッピングも取り入れてみたいと思っています。
コロナ禍は大きな災でしたが、私たちがマスコミに取り上げられる機会は格段に増え、私たちの対応力も上がりました。これを好機と捉え、今後は積極的にスポンサーを獲得することも視野に入れていきたいと思っています。劇場の緞帳にはスポンサー名が入っているのだから、極端な話、鏡板の松の横にスポンサー名を入れるのもアリだよね、とか(笑)。
能狂言がこの先も続いていくためには、伝統を大切にしながら新しいことに取り組んでいくことが必要だと思っています。幅広くいろんな方と意見交換を行い、お客様に喜んでいただける舞台を作っていきたいですね。