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音楽を通して子どもたちに教えたいこと

音楽を通して子どもたちに教えたいこと

横浜市で音楽教室「えむずみゅーじっく(M’s music)」を主宰するシンガーソングライター、みのりさん。幼稚園・小学校で子どもと一緒に曲作りをする特別授業の講師や企業・団体のテーマ曲制作など幅広く活動しています。
今回は音楽活動を始めたきっかけから今に至るまでと、これからについても伺いました。

音楽との出会いは幼少期


弾き語りライブの様子(画像提供:みのり)

―みのりさんの最近の活動から聞かせてください。
シンガーソングライターとしてライブやYouTubeで活動しながら、横浜で音楽教室の講師をしています。テレビ番組の挿入歌や音楽劇・短編映画のBGM制作、横浜市内の小学校で生の音楽体験を提供する「学校アウトリーチプログラム」として子どもたちと一から曲作りをする特別授業にも携わっています。

―多方面で活躍されていますね。どれも気になりますが、音楽に携わるきっかけを教えてください。
初めて音楽に触れたのは、姉のピアノレッスンについていったとき。2歳からピアノをやりたがっていたそうで、私も3歳から通うことになりました。そのときのピアノの先生は英才教育という形ではなく、とにかく毎回かわいがってくれて、ピアノに限らずさまざまなアプローチで「音楽は楽しいもの」と教えてくれました。その後、小学3年生、6年生とピアノ教室を変えながら習い続け、ただ楽しいだけではなくつらいと感じる練習もありましたが、音楽科のある高校の非常勤講師をしていた先生に習ったことをきっかけに音楽学科のある高校へ。音楽大学にも進みました。

―ずっとピアノを続けられて、興味があることを極めるのはいかがですか。
もちろん好きで続けてきたのですが、心のどこかでずっと疑問を抱えていました。高校では音楽に本気の先生・友人に囲まれ、音大へ行くのが当たり前といった雰囲気の中、この流れから逃れられない、つらい、怖いという感情が渦巻いていました。今思えば、クラシックという分野が私には向いていなかったのかもしれません。10代だった私はたとえ名曲といわれても、時代の違う音楽を勉強する意味が分からなかったんです。

音大に入学してからも逃れたい、辞めたいという気持ちは変わらず。友人や先輩にどんな気持ちで練習して弾いているのかを尋ねてもモヤモヤしたままでしたね。成熟していなかったのだと思います。もちろん今はもう解消していて、クラシックを学ぶ大切さが理解できるようになりました。

―好きで続けていたことでも、長くつらい時期があったのですね。
自分の内側が育っていない若いときは、つらいことを乗り越えなくてはならない時期もあると思います。「その先に新しい景色が見えることがある」と、子どもたちに教えていきたい。あの経験が今の私につながっていると思っています。

迷いながら自分らしさを模索する日々

―大学卒業後は、音楽に関わる仕事をされたのですか?
最初は、カルチャースクールでリトミック講師をしていました。0~3歳の小さな子どもたちと一緒に音楽で遊ぶのは本当に楽しかったですね。決まった曲を楽譜どおりに進めるのではなく、その場の反応で自由に即興演奏して。歌いながらピアノを弾くことは私にとても合っていたようです。

その後、ゴスペルと出合ってゴスペルシンガーのピアノ伴奏をしながら、チームを立ち上げて大人向け教室も始めました。楽譜はなく耳コピーでコードをとり、歌詞だけで伝える。気分が乗ればワンフレーズをリピート。その場で作り上げる音楽はとても自由で好きにやっていい、こういう世界もあるんだ!と新しい発見でした。古いジャズも好きになって、ニューオーリンズジャズスタイルのバンドにも加入しました。

クラシック以外の世界が広がり、楽しいし自分に合っていると思うのに「これだ!」とは思えない。私の性質なのかもしれませんが、「なぜ私はこれをやっているの?」と疑問に思ってしまうんです。「自分の心が打ち震える音楽」を見つけられないまま、紆余曲折な20代前半を過ごしました。

―さまざまな音楽に刺激を受けながらもまだ迷いがあったのですね。その後は?
25歳で子ども向けの音楽教室「えむずみゅーじっく」を立ち上げました。当時はリトミックも教えていたので、広い空間とグランドピアノが必要で。居心地と環境が揃った場所を探したところ、横浜にいい場所が見つかったので移り住んで、教室のビラ配りからスタートしました。

ただ、音楽教室も軌道に乗って少し余裕が出てくると、今後の音楽活動も考えるようになって。自分のスキルを活かした活動がしたい!未来に向けて役立つことを提供していきたい!と思うようにもなりました。

―自分らしい新しい目標ができたのですね。
28歳の時にシンガーソングライターで絵本作家、日本で最初に保母資格を取得した男性の一人でもある中川ひろたかさんの還暦コンサートに行きました。幼い頃、家にあった中川さんのCDが大好きで何度も聞いていて。『にじ』という曲が有名ですよね。

コンサートで中川さんの自由な演奏スタイルを見て、すごく感動して。型にはめることなく、自分を表現する。「こうしなきゃいけない」という固定概念から解放され、肩の力が一気に抜けて心持ちがガラッと変化しました。考え過ぎずに、まずは一歩踏み出して、自分の奥底からにじみ出るもので曲を作ってみようかな、飾らない自分を表現するツールとして音楽と関わっていきたいなと思うようになりました。

―大きな心境の変化ですね。活動にも影響はありましたか?
そうですね、かなりありました。

もう一人、その後に出会った、芸人でシンガーソングライターのアップダウン・竹森巧(たけもりたくみ)さんも貴重な気付きをくれた方で。自分のピアノ曲で構成したライブの予定があったのですが、その中で竹森さんの『あなたの故郷(ふるさと)』という曲を歌いたくて連絡したところ、ライブを見に来てくれました。私の歌を聞いた竹森さんが「今までの経験は全て、歌を歌うための糧だったんじゃないの?」「もっと歌をやったほうがいいよ」と言ってくれて、その言葉に背中を押されてシンガーソングライターとして歌詞を書き、曲を作るようになりました。

長年好きな音楽に携わりながらも感じていた迷いや違和感がなくなり、私が求めていた表現スタイルはこれだ!と思えるようになりました。

音楽を通してたくましく育ってほしい


小学校での音楽授業の様子(画像提供:みのり)

―小学校でも特別授業をしていると聞きましたが、きっかけは?
長津田に「みどりアートパーク(横浜市緑区民文化センター)」というホールができたときに所属アーティストの募集があったので応募したところ、ピアニストで合格。活動の中で、一人の職員と仲良くなりました。しばらくしてその方は金沢区に異動されたのですが、私のことを覚えていてくれて、小学校で曲作りの授業をしてもらえないかと相談を受けました。

今を生きる私たちは音楽に対して、受け取るものという認識を抱きがちですが、本来は自ら生み出していいもの。実際に私が触れ合った小学生たちの反応も、当初は「自分で曲をどうやって作るの?」といったものがほとんどでした。

―確かに、音楽といえば聴くもの、既存の曲を学んで練習するものというイメージが強いかもしれませんね。作曲の授業とは、どのようなものなのですか?


授業は全3回、制作した曲を発表する(画像提供:みのり)

ご依頼内容によりますが、基本的に全3回の授業をしています。
1回目は、曲ってこんな作りになっているよねとポピュラーな曲を例に感覚をつかんでからグループで作りたい曲について話し合います。2回目は、前回出したワードを基に歌詞を考えてメロディーにのせてみる。3回目で、完成した曲をみんなで練習して発表。最後に振り返りとして感想を聞いて、ミニライブをするという形で進めることが多いです。

子どもたちはみんな口を揃えて「まさか自分たちで曲を作れるとは」と驚いて、喜んでくれますね。「曲を作る」という発想ってあまりないと思うのですが、一歩踏み出したら誰にでもできるんです。私の授業が未知の世界に踏み出す経験として、他の物事にもつながってくれたらと願っています。

―ご自身の経験あってこその授業ですね。
自分自身、迷っている時期はとても長かったですし、同じように迷いを抱えている人も多いと思います。「自分のできることなんて、こんなものだろう」と諦めている大人の姿を見て、これから未来を担っていく子どもたちに「大人ってこういうものなんだな」と思ってほしくない。希望を持ってたくましく生きていってほしい。そういう気持ちが、現在の私の全ての活動につながっています。

―主宰する音楽教室「えむずみゅーじっく」でも挑戦を意識したカリキュラムがあるのでしょうか?


主宰する音楽教室「えむずみゅーじっく」の発表会(画像提供:みのり)

当教室の発表会は、生徒本人の好きなスタイルで出演することができます。ピアノソロはもちろん、きょうだいや家族、友達同士でのアンサンブル、またプロのベーシストとドラマーにサポートしてもらってピアノやキーボード、弾き語り等でバンド演奏をする子もいます。

運営の方にも積極的に携わってもらっていて、小学3年生以上の希望者で実行委員会を発足。会議で今回のテーマや全員で合唱する曲を決め、係分担をしています。ステージの横断幕やプログラムの表紙、飾り付けなどは全て子どもたちの手作り。当日の司会や会場アナウンス、ステージ照明なども実行委員が手分けをして行います。

3年前からは発表会の一企画で「こどもバンド」という試みも行っています。「とにかく自分たちでやってみよう!」というコンセプトで、小学5年生以上の希望者だけでバンドを組み、選曲から楽器編成、ステージ構成まで講師の指導なしで進めて発表します。よちよち歩きだった頃から見ていた子たちが、本人たちの力で完成させたステージを客席で観た時は、本当に感動しました。

そして2024年3月31日、ついに発表会という場を飛び出して、初めてバンドライブを開催することになりました。発表会の中でバンド演奏を経験してきた生徒11名が、企画・運営・広報全て試行錯誤しながら自分たちで行っています。大人にはない新鮮な発想もどんどん出てきて、驚かされることも多いです。町田のライブハウス・ジャズバー『INTO THE BLUE』にて、15:00から無料で観覧可能です。ぜひ観にいらしてください。

―生徒さんが作り上げるライブとは珍しいですね!


プロのベーシスト、ドラマーと共演できる「えむずみゅーじっく」発表会(画像提供:みのり)

一般的な発表会は、与えられた枠の中で演奏しますよね。もちろんそれに向かって一生懸命練習するわけですが、どうしても心のどこかで「誰かがどうにかしてくれる」という感覚があると思います。最終的には大人がどうにかしてくれるという他力本願で、最初から誰かに頼っているという子もいますが、その考えが抜けたらもっと強くなれると思うんです。失敗できるのも子どもの特権ですし、大人がそっと見守る安心感の中でトライして、どんな結果になってもそれを良い経験としてほしい。大人としては、全て子どもたちに任せる心配もありますが、リミッターのない状態で大切なことを任せた結果、どんなものが見られるかとても楽しみでもある。未知の世界を楽しみながらたくましくなってほしい。得意なこと、苦手なこと、一人一人の特性や能力を生かしながら成長してくれたらいいなと考えています。

―社会に出てからも役立つ良い経験になりそうですね。
自分たちで考えて、話し合って作り上げる。これは社会で生きていくことの縮図のように感じています。今回だけでなく来年、再来年とずっと続けていけたらいいなと思います。このライブを見た小さな子どもたちにとっても良い刺激になりますし、「やってみたい」と感じてもらうことで、今後もこのような形式のライブを続けていくサイクルもできてくると考えています。音楽を長く続けていく中で、つらい時期もありますし、楽しいという気持ちだけで乗り越えていけるとは思っていません。それでも、幼い頃にすごく楽しかった音楽の思い出が苦しかった時期の私を支えてくれました。子どもたちが自分の気持ちにうそをついたり投げやりになったりせずに、明るい未来に向かって成長していく姿勢を育てていけたらと思っています。

―子どもたちの未来が楽しみですね。ご自身のこれからについても教えてください。
音楽指導と並行して、シンガーソングライターとしても積極的に活動していきます。まだ行ったことのない場所でも弾き語りライブをしてみたいですね。まだ会ったことのない皆さんと一緒に盛り上がれるときが来ることを楽しみにしています。

《みのり》
シンガーソングライター / 音楽教室主宰

プロフィール
埼玉県生まれ。 東京音楽大学ピアノ演奏家コース卒業(特待奨学生)。 2007年ヤングアーチストピアノコンクールF級銀賞受賞。 大学卒業後ピアニストとして活動しつつ、横浜市にて音楽教室「えむずみゅーじっく」を開校。 2018年より、オリジナル曲ピアノ弾き語りでのライブ活動を開始。 幼稚園・小学校でのコンサートや曲作りの特別授業、商業施設でのライブやワークショップ、コンテンツ制作など、教育にも力を入れている。 NHK BSプレミアム『始発物語』挿入曲提供。子ども向けピアノ教本『わたしピアニスト』著。他、音楽劇・短編映画のBGM、企業・団体のテーマ曲制作等。

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