人の縁と文化をつなぐ、旅人たちの成果発表会「逗子海岸映画祭」
ローカルtoローカルのつながりを集約
ーー映画祭と、年間を通しての活動は、それぞれどんな位置付けなのでしょうか?
映画館兼カフェのCINEMA AMIGOが地元に根ざした拠点、シネマキャラバンが外とつないでいく活動です。年1回の逗子海岸映画祭は、自分たちが逗子の中と外で培ってきたいろんなつながりを、映画やアート作品やワークショップなど何らかの形で来場者に体験してもらう、映画祭といっても映画だけがメインではない、文化体験のイベントです。
メンバーはみんな旅好きなので、「拠点を持った旅人」というのは最初からコンセプトとしてありました。単なる旅って、行った先で交流が生まれても、一過性のもので終わってしまうけど、自分たちが育てていける拠点を持った上で旅に出ると、旅先で得たものを持ち帰ってきて反映できたり、単発で終わらずに今度はこっちに招待できたり、それがあることで交流するときの密度が違ったりする。そういうことによって、つながりが太くなっていくのかなと。
ーースペインのバスク地方との地域間交流は、どんなきっかけで始まったのですか。
現地在住で、バスク文化を日本に伝えたいという志を持った日本人の人が、現地の映像作家たちと作った映像作品を日本で見せる機会はないかとシネマアミーゴを訪ねてきてくれたのが、最初の縁でした。そこで、シネマアミーゴで映画の上映イベントをやったり、バスクの人を招待するイベントをやったりして、今度はシネマキャラバンの志津野雷がサンセバスチャンに取材に行く機会があって、そこから行き来が始まりました。
そうして2010年ぐらいからバスクの人たちを招待するということをしてきた中で、冊子を作ったんですが、それをバスク在住の彼がサンセバスチャン国際映画祭のディレクターに見せたら、「もしこちらに来るなら映画祭の中でシネマキャラバンをやったら」と言ってくれたんです。それで2013年には、シネマキャラバンのコアメンバー10人くらいを含めた合計25、6人で、日本からサンセバスチャン国際映画祭に参加しました。
その時にさらに多くの現地の人と仲良くなってから、毎年何かしらの形で、バスクからのアーティストや料理人が逗子海岸映画祭に来てくれるようになりました。
ーーインドネシアはどうでしょうか。
シネマキャラバンのメンバーでもある現代アート作家の栗林隆くんが、インドネシアのジョグジャカルタというところに拠点を移したんです。ジョグジャカルタのアートシーンは今すごく盛んで、いろんなつながりができるし、物価も安いので大きな作品も作りやすいんですね。
2015年にジョグジャカルタの「ART JOG(アートジョグ)」という現代アートの祭典にシネマキャラバンで呼ばれて行ってから、今度は現地の人たちが逗子海岸映画祭に来てくれるようになりました。隆くんのアシスタントや学生など、アーティストの卵たちが半分勉強も兼ねて日本に来て、作品を作って発表するほか、期間中は設営も手伝ってくれています。
僕らがよく使っている「勝手に姉妹都市」という言葉は、実は鎌倉のNPOのルートカルチャーの皆さんが言い始めた表現なんですが、僕らとしては、日本×スペインや日本×インドネシアというよりも、逗子×サンセバスチャン、逗子×ジョグジャカルタというように、ローカルtoローカルというのを意識しています。日本国内でも白川郷や夕張、野沢など何カ所かつながっている地域があるんですが、国内外関係なく、そのつながりが網の目のようになっていって、交流が進んでいけばいいなと。
地方深くに秘められた魅力を掘り起こす
――シネマキャラバンの旅先では、どんな場の作り方をするんですか?
シネマキャラバンは、まちおこし的な形と、アーティスト集団として呼ばれるときと、2通りあって、その時々で違うんですが、基本的に現地の人と一緒に作り上げるということや、その土地にあるものを活かすことを大事にしています。
白川郷に行ったときは、スクリーン自体を伝統工芸品の美濃和紙で作ったり、スクリーンフレームを合掌造りに使われる材料で作ったりしました。また、料理も、現地の食材を使いながら、現地の人が発想しないようなメニューを提供して、地域の新しい食の提案をするというようなこともしています。
新潟の大地の芸術祭では、現地の限界集落をモチーフに作品化してほしいという依頼で、それを表現したインスタレーションと映画上映、パフォーマンスをしました。
――サンセバスチャン映画祭ではどうですか。
日本の文化紹介という名目ですが、シネマキャラバンでつながりのある国内の地域のカルチャー紹介をするというコンセプトにして、会場は現地のアーティストとコラボレーションして作り上げています。また、昨年はオランダの「SONSBEEK」というアートイベントにアーティスト集団として呼ばれて行ったのですが、そこでつながったアーティストもサンセバスチャンに呼んで、3都市間の交流になりました。
――逗子海岸映画祭の会場は、とても洗練された雰囲気で、都内からのお客さんも多いですね。
お客さんの8割方は、海外の遊園地に来たようなちょっとした非日常的な雰囲気を味わいに来てくれているのかなと思います。企業ロゴだらけの商業的な雰囲気になってしまったり、学芸会っぽい感じになってしまわないように、僕らもすごくこだわっていて、趣旨に賛同してくれるスポンサーさんだけにお付き合いいただきながら、会場作りをしています。
そういう部分をとっかかりにして来てくれた人の何割かでも、僕らが本当に伝えたいほかの地域のカルチャーやメッセージを、拾って持ち帰ってもらえたらいいなと思っています。
培った人間力をコミュニティの強みに
――一番のメッセージは何ですか?
シネマキャラバンは常に「地球と遊ぶ」をキーコンセプトにしています。たとえば逗子海岸映画祭では嵐が直撃するようなときもあるし、そういうことを一つひとつ皆でクリアしていくことで、関わる人たちの根本的な生きていく強さのようなもの、人間力が上がっていって、それがコミュニティの強みになるということを一番大事にしていますね。
今後は、文化を紹介するだけでなく、ほかの地域でやっていることで逗子でも取り入れられるようなもの、地元の住環境を良くしていくような取り組みを広げていってムーブメントにすることで、街の魅力を作っていくきっかけにできたら良いですね。