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アート演劇・ダンス

「第2回 神奈川かもめ短編演劇祭」優勝! 劇団チリアクターズ&審査員 ラサール石井インタビュー

「第2回 神奈川かもめ短編演劇祭」優勝! 劇団チリアクターズ&審査員 ラサール石井インタビュー

前編では、「第2回 神奈川かもめ短編演劇祭」レポートをご紹介しています。

「次は『しらずのうちに』を引っさげて、47都道府県をまわりたい!」
劇団チリアクターズ(大島寛史・池谷駿・木村涼香)優勝インタビュー

――先ほど、「第2回 神奈川かもめ短編演劇祭」の公開審査会と授賞式が終わったばかりですが、昨年マグカルでも取材をさせいただいた「劇王神奈川V」に続いて、『しらずのうちに』で連覇を果たされました。誠におめでとうございます!!

大島:本当にビックリしました! 結果が発表されたときも、まったく信じられなかったです。「劇王神奈川V」のときは、僕のやりたいことが評価された喜びで泣いてしまいましたけど、まさか全国とアジアから実力派が集まる「かもめ短編演劇祭」で、こんなくだらないことしかやってない……。

池谷:まったくです!!

大島:ひとつもテーマ性がない『しらずのうちに』が評価されていいのかと、呆然としてしまいました。

チリアクターズ 大島さんチリアクターズ 大島さん

――「かもめ賞」に先駆けて、観客投票1位で「観客賞」を受賞されたので、予感はあったんじゃないですか?

池谷:いえいえ! いくら観客の方から評価をいただけても、審査員のみなさんがどういう基準で投票するかは、講評を聞いていてもまったく分からなかったので、自信は全然なかったですし、審査員投票の間、すごく怖かったんです。だから、結果が発表されて本当にホッとしました。

木村:「観客賞」が獲れたのも嬉しかったんですが、「神奈川の劇団だから、観客票が入るのは当前」と言われてしまうと、たしかにそうなので、「ああ、ここまでだな」と思っていたところで「かもめ賞」までいただけたので、審査員の方にも評価していただけたのが、すごく嬉しかったです。

――審査員の講評の際には、みなさんがあまりチリアクターズの名前を出されなかったので、なおさらドキドキされていたでしょうね。

大島:そうなんです。なので、矢内原(美邦)さんが好きだと褒めてくださったことが嬉しかったですし、成井(豊)さんが「俳優賞」の候補として僕の名前を出してくださったことが、さらに驚きで。絶対、うちの作品なら池谷が褒められるはずだと思っていたので、成井さんが「チリアクターズの……」とおっしゃったときに、僕、池谷をどついたんですよ。

池谷:そうそう!

大島:どついた瞬間に、「大島」と聞こえて「マジで!?」と、もう立つ瀬がなくて(笑)。

木村:ほんとですよ!

池谷:だから逆にどついてやりましたよね、大島を!!(笑)

――「劇王神奈川V」の舞台も素晴らしかったですが、今回も本領をいかんなく発揮されていましたね。『しらずのうちに』は「かもめ短編演劇祭」では再演ということになりましたが、今回、心掛けたことはなんでしたか?

大島:もともと、KAATの大スタジオのような大きな舞台でやることを想定しないで作った芝居でした。舞台が広くなると、どうしても笑いが薄まってしまうので、できるだけパワフルにカラダを使って、お客さんを掴むことを意識しました。あと細かい演出も、僕らがやりたいのは役者同士のやり取りの中での笑い、関係性の変化による笑いなので、そこが分かりやすくなるように変えたんです。「劇王神奈川V」のときの審査員の方々のアドバイスを、すごく参考にさせていただきました。

――今回は全国だけでなく、海外チームとも共演されましたが、どんな感想を持ちましたか?

木村:第1回はMCとして全作品を拝見し、今回も全部観させていただいたんですが、やはり海外の劇団が印象的でした。あのビビッドさは日本にない感じですし、俳優さんがすごく上手。日本のみなさんも、関西の方は関西らしく、九州の方にも関東にはない芝居を感じました。劇団の違いだけでなく地域の違いも感じて、いろいろな作品が観られてとても勉強になりました。すごく楽しんだ4日間でした。

チリアクターズ 木村さんチリアクターズ 木村さん

――最も印象に残ったのは?

木村:去年も感動した、劇団名作トウモロコシ畑さんです。今回は、父役だったユン・チュンさんから代役の方に変わりましたが、私はゲネプロでユン・チュンさんバージョンを拝見して、泣きました。それくらい、素晴らしい作品でした。代役の方も数時間しか稽古できずに本番を迎えられたにも関わらず、あれだけのお芝居をされたことにも泣けてしまって。すごく思い入れのある作品でした。

池谷:僕も、神奈川だけで活動していたら絶対に観られない人たちのお芝居を拝見できて、とても良かったです。発想だったり、役者さんの技術、動きの細かいところ。何もかもが刺激的なイベントでしたし、役者として自分はまだまだだなぁと思いました。僕が印象に残ったのも、やはり海外組で。台湾の明日和合製作所 Co-coismさんは、ゲネプロと本番の2回観させてもらったんですが、本番では、途中から字幕を観なくてもいいくらい内容が伝わったし、心に来るお芝居。すごいなぁ、全然敵わないなぁと思いました。

チリアクターズ 池谷さんチリアクターズ 池谷さん

――大島さんが気になった劇団は?

大島:僕が最初に意識していたのは、九州代表のブルーエゴナクさん。主宰の穴迫(信一)さんは僕と同じ26歳で、劇団を結成したのも2012年でチリアクターズと一緒なんです。しかも穴迫さんは元ラッパーで、すごく尖ったことをやっていらっしゃると聞いたので、すごく気になっていました。同じBブロックになったのも、因縁めいたものがあるなと。あと、北海道のわんわんズさんは、笑いの取り方がうちと毛色が似ていたので、気になっていました。

――全国のライバルに出会えてしまうのも、「かもめ短編演劇祭」の魅力ですね。

大島:そうですね(笑)。こんなに多彩な劇団、作品を横浜で一度に楽しめるなんて、とてもお得だと思うんです。チケット代も、たった3000円ほどで6団体も観られてしまう。表彰式でも言いましたが、もっともっとこのイベントをたくさんの人に知ってもらって、多くの劇団がここを目指してくれるようになったら、嬉しいですね。

――「かもめ短編演劇祭」の覇者としてのチリアクターズの活躍にも、ますます期待したいです!

大島:こんなにも素敵な「かもめ賞」をいただけて、本当に嬉しく思います。僕にはひとつ目標があるんですが、この『しらずのうちに』という作品は、誰でも楽しめて誰もが笑えるお芝居。今回は12団体が横浜に集まりましたが、全国に短編演劇をやっている人、観たい人がいると思うんです。なので、『しらずのうちに』を引っさげて、バンドの全国ツアーのように47都道府県を回りたい。3人立てる場所さえあれば上演できる作品なので、ぜひ実現したいですね!

チリアクターズ

「伝統を守りながら、既成概念を打ち砕く新しい演劇を!」
「第2回 神奈川かもめ短編演劇祭」審査員・ラサール石井インタビュー

――ラサール石井さんは、昨年の第1回大会でも審査員を務められていますが、第2回を終えてのご感想は?

石井:今年は去年とシステムを変え、予選と決勝をなくして最後まで20分で戦うようになったのは、公平性があり、多様な選択肢があって良かったと思います。またどれもみな、力作揃いでした。しかし公開審査会で、1作品につき講評する審査員を2人に限定されたり、自分が話したい作品について話せなかったりしたので、批評部分については、昨年に比べて観客には物足りなかったのではないかと。また、審査発表の段取りがスムーズでなかったり、スライドが見にくかったりと、進行が滞るところもあって、授賞式が盛り上がりに欠けた気がしたのは残念でした。次回は、私に司会もやらせていただけたら、そのあたりは解消できるかも知れませんね。
あと感じたのは、観客票の比重の大きさについてですね。どうしても関東近郊の応援が呼べる地区代表が有利にはなるでしょうから、そのあたりの是正も次回は必要かなと。また、どうしてもエンタメ的要素の強い作品に観客の票が動きがちですから、今後はそのあたりも考えていくべきかと思いました。

ラサール石井審査員を務めたラサール石井氏

――演劇人のおひとりとして、本演劇祭の意義をどこに一番感じていらっしゃいますか?

石井:地方で演劇を続けるのは、なかなか苦労があると思います。自分の町だけでなく、もっと様々な土地で、多くの人々に観てもらいたいことでしょう。そのためにも、一年に一回の励みにもなり、この演劇祭を通じて劇団同士が知り合うことで、お互いの土地に呼び合ったりすることができるのは、意義があると思います。

――「神奈川かもめ短編演劇祭」は、全国から優秀な短編作品が集結しますが、今回の審査で石井さんが重視したポイントを教えてください。昨年との違いはありましたか?

石井:戯曲を先に読んでしまうと、演劇を初めて体験する妨げになると思ったので、今回は事前に戯曲を読みませんでした。そのほうが、芝居を純粋に審査するためにはいいと思います。それもあって、審査の現場では短い時間で「戯曲賞」を選ぶことがとても難しかったです。今後も「戯曲賞」を続けるなら、別の審査員を立てて事前に優秀作を決めておいてもよいのではと思います。

――今年の出場団体、上演作品で、特に印象的だったものとその理由を教えてください。

石井:台湾のゲイカップルをテーマにした芝居(明日和合製作所 Co-coism『石屎森林 Concrete Jungle』)と、東日本大震災の遺体安置所の一人芝居(Gin’s Bar『イーハトーヴの雪』)が印象的でした。前者は、演出がスタイリッシュで役者も上手かった。後者も、一人芝居を観ることの苦痛を感じさせず、しみじみと感動できました。

――有名俳優や演出家が携わっていたり、原作が有名であるなど、コマーシャルでキャッチーな情報がないと、演劇初心者はなかなか生の舞台に足を運びにくいかと思います。「神奈川かもめ短編演劇祭」のようなイベントを一般の方にもっと浸透させるには、どのような工夫が必要だとお感じですか?

石井:まずは、演劇関係者以外の観客をもっと呼ばねばならないと思います。そのためにも、もちろん宣伝は大事。チラシやコピーをもっとキャッチーにして、前年の受賞作を動画で配信するとか、おなじみの出場常連劇団は役者や演出家をフィーチャーしてファンを増やし、お目当ての役者や劇団を見に来るようにしたりといった工夫が、今後は必要なのではと思います。

ラサール石井

――昨年は、KAAT神奈川芸術劇場で上演された石井さんプロデュースのオリジナルミュージカル『HEADS UP!』が、大変な話題になりました。あらためて今、『HEADS UP!』の成功を、どう感じていますか?

石井:私の頭の中にしかなかったアイディアを、実際に上演させてやろうという賭けに出てくれたKAATには、とても感謝しています。なにより、私の独断ではなくKAATのスタッフとああだこうだと相談しながら、二人三脚でやれたのがよかった。協力体制は盤石で、KAATでなければできなかったと思います。ミュージカルを制作する大手の会社とでは、『HEADS UP!』のような作品は生まれなかった。その意味でも、大変ユニークな日本のオリジナルミュージカルが誕生したと自負しています。

――『HEADS UP!』もマグカル事業として、非常に意義深い作品となりました。さらに石井さんは、マグカルテーブルメンバーとして、神奈川県のエンターテインメントカルチャーの発展に尽力されています。マグカルという取り組みについて、今どう感じていらっしゃいますか。また、今後どのようにマグカルの活動を発展させていきたいですか?

石井:マグカルのみなさまのご尽力は、素晴らしいです。おそらくですが、マグカルを始めたことで、正直、みなさんの仕事が増えて大変なのでは? と思っていましたが、黒岩(祐治)知事の発案を真摯に受け止め、予算も限られた中で、着実な成果をあげていらっしゃるのはすごい。私も忙しさにかまけ、なかなか参加できないこともありますが、これからも、自分にできることは、何でもやらせていただきたいと思っています。

――今年も、「神奈川かもめ短編演劇祭」には、多くの若い演劇人が集まりました。これからの若い演劇人に、石井さんが期待することはなんでしょうか?

石井:演劇の伝統を守りつつ、既成の表現を打ち砕く。そんな新しいものを、どんどん作っていただきたいですね。

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