かながわミュージカルサミット(前編)
横須賀市民ミュージカルを作る会(SUKAミュー)
−− ウェブサイトを拝見しました。歴史の長いプロジェクトなんですね
山﨑さん: そうですね。発足が2001年なので、もう15年になります。元々横須賀にいたアーティスト達が、横須賀オリジナルのミュージカルを作ろうと始めたのがきっかけです。横須賀の歴史、伝説、建物などを題材として市民でも知らないようなお話を掘り起こしているので、市内の方には横須賀ってこういう街だったんだ、こういう歴史があるんだと知ってもらえて、市外の方には街の宣伝になります。
また、私たちは参加資格というものを設けていません。小学生以上であれば、年齢の上限は決めてないんですね。なので、、(楽屋にいらっしゃる白髪のメンバーに声をかけて)今年84歳の方もおられます。ダンスは難しいかもしれないけど、情熱さえあれば舞台に立って、歌って、少しでも参加できます。本当に幅広い年代の方が出てくださるので、世代間の交流という形で、小さい子たちは大人たちに沢山のことを教わり、高齢の者は子どもたちに元気をもらって、横(地域)、縦(世代)両方のつながりを広げていこうという目的もあります。
−− 市民ミュージカルを作る楽しさを教えて下さい
山﨑さん: ミュージカルには「歌、ダンス、芝居」の全てがあるので、やったことのない人が飛び込むにはとてもハードルが高いんですが、私たちは未経験でも大丈夫ですと伝えています。先生はみんなプロの方で、それぞれに合った方法で指導して下さいます。
かといって、学芸会にはならないよう気をつけています。小さい子どもは前に、セリフはみんな均等にといったことではなく、あくまでクオリティを大事にしているのでその意味では厳しくもあり、舞台制作の本質をかいま見ることができて、思い出作りだけではなくこの先に繋がるようなものを心がけています。SUKAミュー出身でプロの道に進んだ子もいるので、小さい子たちにはそういう可能性をひらきたいし、年配の者には生きがいとして続けていく場であってほしい。そういう楽しみがあると思います。
−− ありがとうございます。今回はどのような演目でしょうか
山﨑さん: 今回は、SUKAミュー唯一のシリーズ作品となっている「ナミとチャル」という舞台です。横須賀に住むナミという女の子と、猿島に「白い猿の伝説」という物語が伝わっているのですが、その白い猿の息子チャルが過去の横須賀を訪れるタイムスリップファンダジーのようなお話になっています。
今回の舞台は幕末、後に造船所となる横須賀製鉄所で、日本で初めてのフランス式のドックとなりました。ちょうど去年が横須賀製鉄所150周年で大々的に取り上げられています。富国強兵、戦争に向かう時代のなかで、それに巻き込まれながらもたくましく生きる横須賀村の人々と、それを見たナミとチャルが大切なものは何かを考え、見つけ出すストーリーです。
−− このミュージカルサミットを通じて市民ミュージカルを盛り上げられたらという思いがあるのですが、何かメッセージをお願いできますでしょうか
山﨑さん: 一度は舞台というものに上がって、スポットライトを浴びる喜びを一人でも多くの人に感じて欲しいと思います。それが本当に、大げさかもしれないですが、生きる力に変わるはずなので。是非、一緒に市民ミュージカルを盛り上げていきましょう。
翌週に本公演が控えているなか、ミュージカルサミットのトップバッターとして素晴らしい舞台を披露されたSUKAミュー。今回が3年ぶりの公演だというお話でしたが、観客の皆さんにはそれを感じさせなかったと思います。山﨑さんのお話にあったように、横須賀の史実に基づいたストーリーは興味深く30分という短いステージながら引き込まれるものでした。
劇団ぽかぽか
−− 劇団のなりたちを教えて下さい
木暮さん: 20年前に保育士仲間で親子のために文化活動できればいいね、と4、5人のお茶飲み話をしていたのが始まりなんです。人形劇はいくつかあったけどお芝居ってあまり無くて、周りを巻き込んで作れたら良いね、と話していました。
井上 学さん(神奈川県演劇連盟事務局長)が台本を書いてくださって、上郷森の家で初公演を行ったら満席になって、二年後に栄公会堂に移っても満杯でした。親子でコンサートなどの文化活動に触れられる機会が少なくて、身近でお芝居を見られることの需要を強く感じたんですね。それで気を良くして、いつの間にか今年6月の20回記念公演まで来てしまったんです。
年一度の公演に、半年かけて準備をしています。衣装を作って、音楽も作詞作曲して、大道具を作って、台本もオリジナルです。というのも、著作権や使用料があるので既存のものを使うにはお金がかかってしまう。全て手作りというのが、結果的には良かったのかなと思っています。
– 地域との関わりをどのように感じてらっしゃいますか
木暮さん: やはり、固定の拠点がある、稽古場があるということがとても大きいと思います。横浜市栄区の社会福祉協議会が稽古場を提供してくれていて、障害を持った方も公演にご招待しているので、ご厚意をいただいています。また、栄公会堂を毎年使わせていただいていて、今年の公演では2009席を埋めたようです。お膝の上の子どもを含めたらもっと多いはずですね。それだけの集客ができるのは、いつも同じ稽古場で、同じ小屋を使わせてもらえているおかげで、それが力になっているんです。
実は、私たちは「こども劇団」とは一切うたっていません。それなのに、こども劇団のように見えるのは「親子」で参加してくれているからです。親も舞台に上がる人もいれば、衣装だったり道具だったり、色々な役目を担って家族で参加するので、自然にこどもたちが出やすい芝居作りになってきました。
−− 親子で参加できるということは貴重な体験ですね
木暮さん: そうですね。ご自宅でも話題が生まれてくるというか、お芝居のあの場面は素敵だったよねとか、もっとこういう風にできないかな、という話を家族でするようになってくるそうです。
佐藤さん: 私は小学校6年生から7年間参加していて、8年間休んで、今年久しぶりに復帰しました。ぽかぽかはお母さんお父さんひっくるめて付き合う場所で、家族みんなで一つになって作り上げる場所です。お母さんも音響やったり、役者やったりしていました。舞台に出る人だけじゃなくて、大道具、小道具、衣装、照明全てで作り上げていきます。
−− 市民ミュージカルの面白さってそういうところにもありそうですね
木暮さん: 潜在意識、潜在能力って言いますよね。ぽかぽかでは、自分はこんなことができるんだっていうものを見つけ出してもらいたいと思っています。私だって台本を書けるなんてこれっぽっちも思っていませんでした。3回目の公演の時に脚本を書いてみたらって演出家に言われて、始めはとんでもないもの書いてたんですけど、周りに恵まれて最後までやり切りました。
大道具だって、お父さんたちが中心に「童愚」というチームを作っています。土日体育館に集まって大道具をとんてんかんと作っていて、そこには家族も集まります。大道具なんてやったことのない人も、その楽しさに気づくんです。制作にはセンスが大切で、お母さんたちもそういうものを発揮してくれます。メンバーが作った素敵な衣装デザインをお母さん方が縫い上げてくれて、私の作った台本という平面がみんなのおかげでどんどん立体的になっていきます。舞台に出るだけがメンバーではなくて、当日は100人位のスタッフが関わって上演されるんですよ。
−− 市民ミュージカルやぽかぽかに興味を持つ方にメッセージをお願いします
木暮さん: 表現をすること、舞台のような異空間に自分の場を持つことは発見や成長にあふれています。神奈川県には、地域にあって身近で、参加しやすい地元の劇団がたくさんあると思います。仲間も作れるし、違う自分も見つかるし、声を出して表現することがいかに素晴らしいかを知ることができます。
本当に頑張った姿を見せれば、人は頑張ったね良かったね、と声をかけてくれるんです。その喜びは舞台に上がる者の特権です。
佐藤さん: ぽかぽかは大きな家族のようです。お母さんが他の家の子を叱ったり、お姉さんが小さい子叱ったり、面倒見たりして、ほっておきません。仲間、家族が増える場所ですね。
沢山の子どもで賑やかな楽屋はまさに大きな家族のようです。舞台では、不思議の国のアリスをオリジナルアレンジしたストーリーを華やかな衣装と立派な大道具が彩りました。みんな手作りなんて信じられないような作りこまれたステージと、出演者皆さんのあふれる笑顔が印象的でした。
→後編では、横浜市港北区の港北区民ミュージカルと相模原市の弥栄高校ARTLiVEのインタビューをご紹介します。