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誰もが等しく文化芸術を楽しむ機会を提供するために~障害者差別解消法を受けて神奈川県民ホールの取り組み
その他
2016.10.03

誰もが等しく文化芸術を楽しむ機会を提供するために~障害者差別解消法を受けて神奈川県民ホールの取り組み

第一部では、DPI(障害者インターナショナル)日本会議副議長 尾上浩二さんによる「障害者差別解消法についての講義」として、今年施行された「障害者差別解消法」にある「合理的配慮の提供」とは具体的にどういうことかについての講義があり、第二部では、同ホールで大会を主催した4つの障害関連団体の代表者と神奈川県民ホール施設運営課によるパネルディスカッションが行われました。

障害を持つ方への「合理的配慮」とは

「不当な差別的取扱い」とは障害を理由として、たとえばお店の入店を断られたり、住居の契約を断られたり、受験や入学を学校側から拒否されることをいいます。そして「合理的配慮」とは、教育や就業など社会生活において、障害のある人もない人も「平等に機会が与えられ参加する」ために、障害の特性や困りごとに合わせておこなわれる配慮のことです。
「障害者差別解消法」の施行により、行政・学校などの公的機関はこの「合理的配慮」を可能な限り提供することが義務付けられました。一般の会社やお店など民間事業者にも努力義務が課せられました。

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DPI(障害者インターナショナル)日本会議副議長  尾上浩二さん

第一部のスピーカーである尾上浩二氏は足が不自由なため車いすを利用されていますが、この「合理的配慮」について、わかりやすくこう説明されていました。

「ある車いす利用者の方が、大好きな人気ロックバンドのコンサートに行けることになりました。しかし会場に車いすで行った際、会場スタッフより混雑が予測されるのでコンサートが終わる数曲前に退出してもらえないかと言われてしまった。

自分はどうしてもアンコールまで見たかったので、会場を出るのが一番あとになってもいいから最後のアンコールまで見させてほしいといったが、「もし何かあったら…」と言われなかなか承諾してもらえなかった。

この方は会場スタッフと粘り強く交渉して、一番最後に客席を出ることでアンコールまで観ることができたそうです。しかし楽しかったはずのコンサートを思い出すと、同時にこの不快だったやり取りがよみがえり、なんとも複雑な思い出になってしまった。」

尾上さんはこの話のあとに、会場スタッフの言う「もし何かあったら」に欠けているものは何か?と我々に問われました。

それは「本当に」何かがあった場合を具体的に考えることが欠けているのだと。それを考えようとしないで、障害を持つ人の側に「もし何かあった時」への責任や我慢を持たせようとする。

「もし何かあった時」に起こり得ることのひとつひとつを想像し、その場合どうする、この場合どうする、を考えていくことで問題解決が具体的になり、そのために必要な設備、ルールの設定または改善などの策が生まれてくる。
そうすることでより多くの障害を持つ人が、持たない人と同じようにコンサートを楽しめるようになる。これが「合理的配慮」を提供するということなのです。

「あなただけ特別扱いはできません」「先例がありません」はただの思考停止です。そのように自らを変えることなく障害を持つ人からのニーズに無関心でいることが、「合理的配慮」への大きな障壁であり「障害者差別」になるのだと。

神奈川県民ホールの「合理的配慮」への取り組み

第二部は一部で登壇された尾上さんが司会進行をされ、神奈川県民ホール施設運営課の駒井由理子さんと、先の障害関連団体の全国大会を開催した、「ディスレクシア」という読み書きに困難を伴う人たちを支援する「NPO法人EDGE」会長 藤堂栄子さん、知的障害者の親や支援者による「神奈川県 手をつなぐ育成会」会長の依田雍子(ちかこ)さん、「神奈川県肢体不自由児者父母の会連合会」会長の石橋?章さん、「神奈川県聴覚障害者連盟」理事長 河原雅浩さんによるパネルディスカッションでした。

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神奈川県民ホール 施設運営課 駒井由理子さん

横浜の人気観光地・山下公園を臨むロケーションにある神奈川県民ホールは、歴史と伝統ある大型文化施設として今年で開館41年目となります。その時代の最新の建物として充分に考えられた設計でしたが、バリアフリーという観点ではやはり古く、段差の解消やトイレの改善など課題がたくさんありました。

しかし建物を変えることは難しいですが、県民ホールではバリアフリーについての勉強会を設けたり、ほかの障害者施設で働く人や利用者にヒヤリングを行い、スタッフの意識を変えることで大会開催への課題解決に取り組んだそうです。

神奈川県民ホールと各団体が対話を重ねながら進めてきた大会までの準備のプロセス、そして各団体それぞれの障害の視点から出された意見、そして今後への提案について紹介します。

1.読み書きが困難な利用者への配慮

日本ではまだあまり聞きなれない「ディスレクシア」という障害について「NPO法人EDGE」会長 藤堂栄子さんより次のように説明がありました。
「ディスレクシアとは視覚・聴覚の器官に異常はなく知的にも問題はないけれど、文字の読み書きの能力に著しい困りがあるという障害です。文字の形や文字を構成している部分が動いたりくっついたりするように見えるため、文字で情報を受け取ることが困難なのです。」
そのため県民ホール側は、ディスレクシアの方に読みやすい文字の形についてヒヤリングを行い、アンケートやパンフレットの文字の書体を装飾的な明朝体ではなく、読みやすいとされる丸みのあるゴシック体に変更しました。また、行間や文節の間のスペースを空けるなどして見やすくなる工夫を取り入れたそうです。
藤堂さんからは「会場内の情報サインも文字が多くわかりにくかったので、ピクトグラム(図)でも表示してもらえると良い」という今後への提案がありました。

2.知的障害の方・車いすの利用者への配慮

手洗いに介助者を必要とする方や、車いすの利用者が多く来場する大会ではトイレの問題があります。しかし県民ホールの車いすトイレは8か所(うち2つは地下なので6カ所)だそうです。

このトイレ数の問題へのホール側としての取り組みについて、施設運営課の駒井由理子さんは、
「各階のトイレが混雑なく使えるようそれぞれにスタッフを配置し、インカムを使い混雑状況の情報を共有することでスムースな案内を心掛けました。また、エレベーターの増設はすぐには不可能ですが、搬入用のエレベーターも使うことや、当日は他の階で止まらせないなど運用の工夫(職員が使わない、他のイベントを同日に入れないなど)で対応しました。」と話しました。

知的障害関連団体の「神奈川県 手をつなぐ育成会」会長の依田雍子さんからは、
「車いすに乗ってなくてもトイレの介助が必要な人がいる。見た目で障害者とわかりにくい異性の介助で個室に入る時に人目が気になることがある。車いすやオストメイト表示だけでなく、ジェンダーフリーなユニバーサルトイレの表示が普及されるとよい。」という意見が出されました。

「神奈川県肢体不自由児者父母の会連合会」会長の石橋?章さんからは、
「子ども用だけではなく、大人用のおむつ交換もできる場(ケアルーム)ができると良い。」と提案がありました。

石橋さんは今回、羽田空港や東京駅から横浜まで車いすで来るためのバリアフリーなルートを事前に調べ来場者に案内したそうです。
県民ホール側では最寄りの日本大通り駅から会場までのバリアフリーなルートの案内を、詳しい写真入りでホームページに公開しました。

こういったソフト面での対応だけではなく、やはりどうしても必要な設備ということで、県民ホール側は新たに、車いすでも利用可能なリフトになる階段「フレックスステップ」を舞台控室へ通じる場所に設置しました。

今までは人力で車いすを上げ下げするしかなかったため、登壇者は一度上げてもらったら周りに気兼ねしてなかなかその場を動くことができませんでした。
しかしこのフレックスステップは操作に介助者を必要としないため、車いすの登壇者はひとりでも自由に舞台控室と外の出入りができるようになりました。デザインも荷物の昇降機のような味気ないものではなく素敵な家具調で大変好評とのことです。

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普段は階段だが車いす使用時はリフトになるフレックスステップ

3.聴覚障害の利用者への配慮

続いて、「神奈川県聴覚障害者連盟」理事長の河原雅浩さんより、
「耳が聞こえないことの困りとして、日常生活では見た目で障害があることがわかりにくいため、話しかけたのに無視されたと思われやすい。また【自然と耳から入る情報】が入らないために、情報や知識を得ることに健聴者との大きな差がついてしまう。」
という、聴覚障害者の困りについて説明がありました。

今回、多くの聴覚障害を持つ方が集まる大会を行う上での心配は、地震など非常時のおしらせの方法についてでしたが、県民ホールにはテキストメッセージを表示できる電光掲示板の設備がありませんでした。
なので今大会では地震速報などがあった時には舞台うしろのスクリーンに大きくメッセージを表示する準備をしました。

そのほか、河原さん方が事前のヒヤリングで出した要望は
「開演はブザーだけではなく、照明をゆっくり点滅させることで合図してほしい。」や
「会場スタッフには筆談用の筆記用具や会場の案内用の絵図を持ってもらい、それに指をさすなどで案内をしてほしい」というものがあり、
それを受けて県民ホール側は開演合図を照明の点滅で実施し、会場スタッフはあいさつや施設案内に使える簡単な手話を習い、筆談のための筆記用具を相手に見えるように携帯することで「私たちはあなたとコミュニケーションをとる準備ができています」という気持ちをアピールしたそうです。

河原さんは「今まで会場を借りるときに、事前に会場側から【何かご要望はありますか】と聞かれたことがなかったので、前もって聞いてくれたことがとてもよかった。」と、県民ホールの対応を評価されました。

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「神奈川県聴覚障害者連盟」理事長 河原雅浩さん

4.知的障害、発達障害、自閉症の利用者への配慮

ディスレクシアの方には発達障害を併せ持つ人が多く、それぞれの特性の説明が、「NPO法人EDGE」会長の藤堂さん、「神奈川県 手をつなぐ育成会」会長の依田さんからありました。

たとえば長い時間じっとしていることが苦手な人、音の大きさやエコーのかかり方や照明の光の強さやチラつきに過敏な人、決められたとおりに予定が進まないと気持ちが落ち着かない人、なにか事故が起こった際にアナウンスされる指示がすぐにのみこめない人、など。

これらの特性について団体と会場とでよく話し合い、休憩時間の入れ方、照明や音響効果の工夫、リハーサル時間の取り方、なにかあったときに流すアナウンスの言葉使いの注意について、ひとつひとつベストの合意点を探していきました。

一例として、地震などが発生し避難指示を出すような状況になると、これらの障害を持つ人は不安になってパニックを起こしやすい傾向があるそうです。
なので「押さないでください」「走らないでください」など「しない」「させない」ための声掛けではなく、「ゆっくり歩いてください」など「してほしい行動を具体的に」して落ち着いた話し方で声掛けすることが大事です。

これを受けて県民ホール側は、スクリーンに映す地震のアナウンスの文章や、大会が終わって書いてもらうアンケートにも、読みやすい・理解しやすい・答えやすい言葉選びを工夫し取り入れました。

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地震速報のアナウンス文章の工夫

インクルーシブな社会へはまずソフト面から変わること

さまざまな障害の特性を持つ人から必要な配慮をくみ取り、少しでも多くの障害者が文化施設の利用を楽しむことができるようになるために、各団体とやりとりをしてきた県民ホールの駒井さんは、まずは何がバリアになるかをチェックし、職員が体験し、他の施設から情報を仕入れ、当事者の話を聞くことを徹底しました。
そこから問題点を抽出し、解決策の検討、案の絞り込みと代替案の提案、導入できるものは導入、できなかったものは次の課題へつなげるというサイクルを回しながら取り組んだそうです。

このように当事者の話をまず聞き、合意に向けて相談と報告を繰り返す。この対話の積み重ねが、バリアをひとつひとつ消していくことを、今回のシンポジウムで我々は学ぶことができました。

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なにがバリアになるのかを知るために

今年「障害者差別解消法」が施行されましたが、日本で今どのくらい文化・芸術鑑賞やスポーツ観戦の施設でバリアフリーが行われているかについてご存知でしょうか。

DPI(障害者インターナショナル)日本会議の尾上さんの話によると、例えば東京ドームでは46,000席の観客席のうち、車いす席はたったの12席しかないそうです。しかも介助者は車いすの後ろに座ることになっているため並んで一緒に野球観戦を楽しむことができません。
ちなみにアメリカのヤンキースタジアムでは車いす席は68か所、2~300席あり好きな席を選べるそうです。特大エレベータと大スロープもあり移動もスムースにできます。

一例ではありますが、日本とアメリカでは障害者の「社会参加への機会」に対して意識の違いが、このようにこれまで大きくあったのですね。

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対応・導入のプロセス

障害のあるなしに関係なく、誰もが等しく文化芸術の鑑賞やスポーツ観戦を楽しめるようなインクルーシブ(あらゆる人が孤立したり排除されたりせず、社会の構成員として包み込み支えあう)社会を築くために、まずできることは人の「ソフト面」の変化です。

建物の古さや不便さ、予算の少なさなど、ハード面ではすぐにできない理由が多々ありますが、それでもそこで働く人の意識が変わることで、障害を持つ方からどんなニーズがあるかを積極的に知っていく姿勢が生まれ、解決へのアイデアや知恵が生まれ、少しづつ改善して行くことが可能であることを今回の各団体の大会開催への県民ホールの取り組みから知ることができました。

この事例は、他の公共施設だけでなく一般の会社や店舗にもとても参考になり、良い影響を広げて行くことでしょう。

参考リンク

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