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演劇・ダンス

前乗りレポート「スイッチ総研」ってなに?

前乗りレポート「スイッチ総研」ってなに?

協力:多摩1キロフェス2015 http://1kmfes.com/

神奈川のカルチャーサイトなのに今回のレポートは多摩センターで開催された「多摩1キロフェス2015」よりお届けいたします。多摩センターは東京なのですが…とそんな意見が聞こえてきそうなところですが、今回の目的は「スイッチ総研」による『多摩1キロフェススイッチ』を体験してくるということ。スイッチ総研は「カナガワ リ・古典プロジェクト2015」のメインプログラムの1つ、スイッチ総研+伊勢原 大山スイッチ研究員による『伊勢原 大山スイッチ』を予定されているということで、一体“スイッチ総研”とはどのようなものなのか、カナガワ リ・古典プロジェクト2015本番前に様々なスイッチを体験してきました。

多摩1キロフェス2015

当日は休日もあって大勢のお客さんが!「多摩一キロフェス」はライブ、演劇、ダンスと様々なアーティストが多摩センター駅前に広がる大通りをステージにパフォーマンスを繰り広げるイベントです。早速メインの大通りを歩いていくとポツンとがまぐち財布が。

多摩一キロフェススイッチ「がまぐちを逆さにしてください」

休日を楽しむ親子連れも多いこの野外空間で気にならないわけありません。
近づいてみると「がまぐちを逆さにしてください」と指示が書いてあるではないですか…。
周りを見渡しても何もないし、財布にお金が入っていそうでもありません。こんな怪しい指示に引っかかるわけ…、

多摩一キロフェススイッチ「がまぐちを逆さにしてください」

光の早さで誘惑に負けてしまいました…。

「チャリ——————ン!!ごめんなさい!!」

多摩一キロフェススイッチ「がまぐちを逆さにしてください」

振り返ると女性が小銭を落として拾っているではないですか。

「うーん。偶然もあるもんだなぁ。」

そう物思いにふけ入りながら進んでいくと「ここに立ってください」という看板が! 卑怯な私は誰か立つまで見学を決め込んでいると、一人の女性が看板の前に。すると…、

多摩一キロフェススイッチ「ここに立ってください」

「ごめーん!まった?電車遅れちゃ…、すいません!人違いでした。」

男性が勢いよく現れて女性も大笑い。そう、この広場にちりばめられた指示がまさに「スイッチ」となっており、実行した人には思いもよらない出会いが待ち構えているのです。役者による様々なアクションが1つのきっかけにより実行される手動式のパフォーマンスが「スイッチ総研」の実態。ものすごく短い演劇と言っても良いかもしません。特に個人的にお気に入りだったスイッチはこれ!

多摩一キロフェススイッチ「旗をあげてください」

赤い旗を揚げてみると…

多摩一キロフェススイッチ「旗をあげてください」

「ここだここだ!いや〜多摩センターって奇麗な場所だなぁ〜!」

「お客さん!ツアーの集合はこちらですよ!」

多摩一キロフェススイッチ「旗をあげてください」

「お客さん!こっちこっち!今日の宿泊はこちらのホテルになります。」

旗をあげると勘違いした団体観光客の襲来!そして間違いを指摘する添乗員の登場とスイッチを実行した人だけでなく、周りの見物人も思わず笑顔になってしまう一幕。あまりの人気に何回も実行され、その度に走ってくる役者さんもへろへろになりながら、何度も熱演を繰り広げてくれていました。また写真では伝わりにくいかもしれませんがこの場所、台詞の通り本当にホテルの前なんです。さっきの街灯やこのホテルの前など、実際にその場所の状況を生かした様々なドラマがあちらこちらにちりばめられ、最後にはどこにどんなスイッチがあるのかと夢中になって探してしまいました。

多摩一キロフェススイッチ

他にもスーパーの前に置いてあるメモ帳とペンを持つと、今晩のおかずをスクープする新聞記者が登場!(笑)

このスイッチ総研が11月に神奈川、大山を舞台にどのような“スイッチ”を用意してくるのか今から楽しみでなりません。またお忙しいなか、スイッチ総研の演出担当・所長である光瀬指絵さん、今回はホテル前で添乗員役として熱演を繰り広げられていた副所長の大石将弘さんにお話をお聞きすることができました。

インタビュー

Q:スイッチ総研には様々な劇団の方が参加されていますが、結成されたきっかけをお教えいただけますでしょうか。

大石:まず「スイッチ」は、2013年12月に劇団「ままごと」が横浜の象の鼻テラスで上演した「Theater ZOU-NO-HANA『象はすべてを忘れない』」で生まれたものです。象の鼻テラスは、横浜の赤レンガ倉庫や中華街など観光地の近くにある無料休憩所を併設した公園です。たくさんの人が通り過ぎたり、くつろいだりしている場所。「象はすべてを忘れない」では、作家が台本を書き、演出家が演出するという一般的な演劇の作り方ではなく、いろんなカンパニーの俳優やダンサーが集まり、その場所にどんな作品があったらいいかを全員でアイデアを出し合って作りました。歌やダンス、紙芝居などいろんなチームに分かれたのですが、その中で、やっぱり「演劇」がやりたいと思考錯誤して生まれたのが「スイッチ」です。そのとき、スイッチを作るチームにいたのが、僕や光瀬さんなど6名でした。演劇は、絵画や音楽に比べて、無視しづらい表現だと思います。公共の場所で突然はじめると、迷惑に思う人もいる。そこで、「お願いごと」を書き添えた道具を置いておき、それに応えたくれた人にだけ上演するというスイッチの形式が生まれました。勝手に自分たちがやりたいようにやるのではなく、お客さんのアクションに応えるという形なら、道行く人に不快な思いを与えず演劇が出来るのではないかと考えたんです。その後、ままごとが瀬戸内国際芸術祭2013に参加したのをきっかけに、香川県の小豆島でもスイッチを創作上演しました。創作したり周りの人と話したりする中で、スイッチというプログラムは、いろんな場所や環境に対応して変化できる可能性を持っていることを確信しました。ぜひ色んなところで上演したいと考えているときに、六本木アートナイト2015のプログラム公募を見つけました。僕が応募したいと光瀬さんに持ちかけて、それなら団体にしようと慌てて立ち上げたのがスイッチ総研です。現在のメンバーは、僕と光瀬さん、象の鼻から関わってくれている青年団の山本雅幸さん、制作の倉持陽介さんです。ちなみに参加してくれている様々なメンバーは、プロジェクトごとに声をかけています。最初の象の鼻の時から参加してくれているメンバーや、僕たちが是非スイッチに出演してほしい人と思った人にその都度声をかけて力を貸していただいています。

光瀬:全くその通りです。一つだけ補足するとしたら、象の鼻も小豆島も大変に過酷で地獄のようにご機嫌だったので、俳優同士で「こんな思いしてるんだから元取らないと!」と笑いながらずっと話していたこともスイッチ総研設立のきっかけの一つです。

Q:「リ・古典プロジェクト2015」では大山旧参道という標高700メートルにもなるルートにスイッチを配置されるとお聞きしました。やはり今回もその場所に注目した仕組みをご用意されているのでしょうか。

光瀬:はい。今回もいつも通り「その場所でしかできないこと」をしたいと考えています。大山ならではの風景、名所、特産品、歴史などを由来にした新作スイッチを鋭意作成中です。既に何度か大山を訪れており、大山という良い意味で「少し風変わり」で「特別な場所」の力に総研一同魅了されています!

大石:そうですね。スイッチは、作品ごとにその場所の力を最大限借りてつくるので、大山の雰囲気や地形を最大限活かしたものになるんじゃないかと思います。

Q:まだスイッチを体験された事がない方に向けて一言お願いいたします。

大石:スイッチには色んな楽しみ方があります。自分でスイッチ押すのが恥ずかしいと思う方は、誰かが押すのを遠目に見て楽しむこともできます。でも、体験したお客さんの話を聞いていると、何が起こるか分かっていても、傍目で見ているのと自分で押した結果何かが起こるのとでは、体験として全然違うらしいのです。是非ご自身で一度押してみていただきたいです。危ないことや怖いことは起こりませんので!

光瀬:わたしたちが「スイッチ」を作る際に最も気をつけているのは「スイッチを押す方の立場にたって考える」=「この世には自分とは快不快や痛みの感覚が違う他人がいるという事を全力で想像する」という事です。スイッチを押しても、こわいことや嫌なことは決して起こりません。どうぞ、是非、お気軽に、我々が全力の大人のやり方で作った大人げない小さな演劇をご覧になってください!靴ひもをほどき、土鍋の蓋をあけ、勢いよくこまを回して、物語を始めるのはあなたです。総研一同、大山でお待ちしてまーす!

光瀬指絵 大石将弘

写真左より:光瀬指絵 大石将弘

お忙しい所ありがとうございました!!

【スイッチ総研】
http://switch-souken.tumblr.com
劇団「ままごと」の公演内企画から生まれ育った「スイッチ」という唯一無二かつ変幻自在な形態の作品を、より深く広くばかばかしく専門的に上演するための団体。2015年1月結成。メンバーはスイッチ誕生の瞬間に立ち会っていた光瀬指絵(ニッポンの河川)、大石将弘(ままごと|ナイロン100℃)モットーは「大人げないことを大人のやり方で」

※ままごと…2009年に、劇作家・演出家の柴幸男によって旗揚げされた、柴幸男の作品を上演する団体。
>> http://www.mamagoto.org/


光瀬指絵
所長。企画、スイッチ創作、総合演出。俳優。舞台を中心に現代口語劇からスパルタコンテンポラリー演劇まで幅広い表現の場で活躍。カムカムミニキーナ、猫のホテルを経て、2006年に作家・福原充則らと共に「ニッポンの河川」を旗揚げ。俳優が演技しながら照明音響を操る独自のスタイルで好奇の目を集める。2007年よりニブロール振付家・矢内原美邦の演劇企画に継続的に参加。劇団、本谷有希子、快快、東京デスロック、ままごと、ミクニヤナイハラプロジェクト、など出演多数。近年の主な出演作品。舞台「大きな物を破壊命令」(福原充則作・演出)「桜の園」(矢内原美邦作・演出)「冬の短編」(ふじきみつ彦、山内ケンジ他、脚本)「マザーフッカー」(坂上忍作・演出)「Theater ZOU-NO-HANA2014」(柴幸男構成・演出)ドラマ「勇者ヨシヒコと魔王の城」「おふこうさん」等。

大石将弘
副所長。
企画、スイッチ創作。2010年よりままごと所属。2014年よりナイロン100℃にも所属。北九州や名古屋、小豆島など日本各地に滞在しながら、ままごとの創作活動に参加する他、東京・横浜を中心に演劇公演に出演。小中高校や劇場で行われる演劇ワークショップ進行役としても活動。主な出演作に、ままごと「スイングバイ」「日本の大人」「朝がある」(柴幸男作・演出)、マームとジプシー「Kと真夜中のほとりで」(藤田貴大作・演出)、NODA・MAP「エッグ」(野田秀樹作・演出)、FUKAIPRODUCE羽衣「女装、男装、冬支度」(糸井幸之介作・演出・音楽)、範宙遊泳「うまれてないからまだしねない」(山本卓卓作・演出)、ナイロン100℃「社長吸血記」(ケラリーノ・サンドロヴィッチ作・演出)サンプル「蒲団と達磨」(岩松了作・松井周演出)など。

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