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演劇・ダンス

『暗いところからやってくる』前川知大×小川絵梨子 インタビュー 

『暗いところからやってくる』前川知大×小川絵梨子 インタビュー 


演劇賞の受賞歴も多く、日本の現代演劇のホープとも言うべき多彩な活動を展開している劇作家・演出家の前川知大と演出家・小川絵梨子。小川が演出したイキウメ公演『ミッション』を経た2012年・夏、二人の再びのタッグから生まれたのが「こどもとおとなのためのお芝居『暗いところからやってくる』」です。

俳優陣とスタッフとの息の合ったコンビネーションから生まれたこの作品は、文字通り世代を越えた観客を沸きに沸かせ、2年ぶりの再演となる今夏、国内8劇場を回るツアーを敢行。お二人にとって初めてだった「子どもたちのための芝居づくり」から、再演に向けての想いまでをお話しいただきました。

Text by : Sora Onoe
photo:Masanobu Nishino

■前川知大|tomohiro MAEKAWA

1974年生まれ。劇作家・演出家。
新潟県出身。劇団イキウメ(2003年結成)を主宰し、活動の拠点とする。
身近な生活と隣り合わせに現れる異界を描く。
劇団外でも、スーパー歌舞伎Ⅱ『空ヲ刻ム者』では市川猿之助と、『太陽2068』では蜷川幸雄とタッグを組むなど、幅広いチャレンジを続ける。2014年『片鱗』『地下室の手記』の演出で第21回読売演劇大賞優秀演出家賞。そのほか、鶴屋南北戯曲賞、紀伊國屋演劇賞、読売文学賞、芸術選奨新人賞、など多数の演劇賞を受賞する。

http://www.ikiume.jp/index.html

■小川絵梨子|eriko OGAWA

翻訳・演出。1978年、東京都生まれ。
2004年アクターズスタジオ大学院演出部卒業。2004~05年リンカーンセンター演出家研修所研修生。
2006~07年平成17年度文化新進芸術家海外派遣制度研修生。
2010年、サム・シェパード作「今は亡きヘンリー・モス」(CATプロデュース/ジェイ.クリップ)で小田島雄志・翻訳戯曲賞受賞。2012年、「12人―奇跡の物語―」(オフィスコットーネ)、「夜の来訪者」(響人)、「プライド」(tpt)で第19回読売演劇大賞杉村春子賞受賞。2014年には第48回紀伊國屋演劇賞個人賞、第16回千田是也賞、第21回読売演劇大賞優秀演出家賞を受賞。今もっとも注目を集める演出家の一人。

前川:子どもの鑑賞を前提にした芝居づくりは初めてでしたが、いつもと違う準備や、発想を大きく変えるようなことはありませんでした。初演の製作発表でも言ったのですが、自分の子どもの頃を思い出しても、「少しぐらい分からないところがあるもののほうが、後々まで記憶に残る」というような経験がいくつもあったので、あまり手取り足取り親切にし過ぎないほうが集中して観てもらえるのではないか、と思ったんです。ただ、自分の作風が少々理屈っぽいという自覚はあったので(笑)、ストーリー展開などはなるべくシンプルに、伏線を敷いたら、それを展開させるまでの時間はいつもより短めに、といった心配りはしましたけれど。

小川:私も、特別気負うようなことはなくて。どちらかと言えばいつもはできない、演劇としてはダイレクトな演出、仕掛けらしい仕掛けなどを手法として、楽しみながら使えるのではないか、という期待感が大きかったですね。

前川:戯曲執筆も、普段なら俳優やスタッフさんなどに展開を聞いてもらうなど、練り上げるために他の人の意見も随分聞くのですが、この作品は誰にも相談しないまま、ほぼ一気に書き上げたようなもの。主人公の輝夫には自分の子ども時代の実際の経験もかなり反映させていて、今年1月に僕の地元、新潟県柏崎市で舞台を収録した映像の上映会をした時には、母や妹に何か突っ込まれるのではないかとハラハラしながら見ていました(笑)。

撮影:田中亜紀(2012年KAAT神奈川芸術劇場 初演より)
撮影:田中亜紀(2012年KAAT神奈川芸術劇場 初演より)

小川:私、そんなに前川さんの実体験が反映されていたなんて、今知りました(笑)。

前川:普段は、個人的な体験を作品に交えることはありませんから。でも、自分の体験を加えたことで、作品が子どもや大人という年齢に左右されないものになったところもあると思っているんです。輝夫が祖母の家に対して漠然とした不安や恐怖を感じるのは、彼の中にある「罪悪感」のため。無意識下に潜む罪悪感から他の人には感じないものを感じ、目に見えないはずのものが形を変えて現れ、それに怯えるというのはホラーの常道ですから。

暗いところからやってくる チラシビジュアル

小川:確かにそうですね。そういうスタンダードな戯曲だからこそ、俳優やスタッフさん、もちろん前川さんにも何度も稽古場に来ていただいて、色々なアイデアを出し合いながらつくれた。それが私にとっては、とても刺激的で楽しい時間でした。KAATのスタッフさんたちは常にフル稼働で細かなところまで対応してくださり、本当に良くしていただいて。

自分たちには面白くできている実感があったのですが、最終段階で「子どもたちは喜んでくれるのか?」と不安になったんです。初めてのことなので彼らの反応は未知数。それで、初日直前にプレビューとして、20組超の親子のお客様に観ていただくことにした。スタッフさんには無理していただいたんですが、あの反応に本当に救われました。

前川:そうそう、予想以上にたくさん笑ってくれたし、集中するところはギュッと観てくれて。

小川:「暗いところの世界の人たちは、輝夫君にしか見えていない」というルールもすぐ飲み込んで、輝夫のちょっとしたビクつきも面白がってくれましたものね。でも、終演後に感想を聞くと、プロジェクターで投影していた「影の位置がズレてる!」とか鋭いツッコミもくれて、慌てて直したり(笑)。

前川:よく観てるんだ、と感心したり安心したりさせられました。

小川:本番になっても、子どもたちが劇場の空気を作っているのがはっきりと分かるんです。おとなより先に笑ったり怖がったり、時には「怖くないもん!」なんて声に出す子もいて、そういう素直な感情表現におとなも釣られるようにお芝居の世界に引き込まれていく。子どもたちの存在が、この作品を完成させてくれた、と痛感しました。

前川:舞台を囲む、対面型の座席にしたのも良かったよね。特に前列には子どもたちがいて、向き合う客席からは、その子どもたちのリアクションが作品の一部として目に入るようになっている。だから、子どもたちのダイレクトな反応が、作品にも強く働きかけたんだと思います。

撮影:田中亜紀(2012年KAAT神奈川芸術劇場 初演より)

撮影:田中亜紀(2012年KAAT神奈川芸術劇場 初演より)

小川:あと、私個人としては、この作品の演出には普段はやりたくてもできなかった、少しノスタルジックな演劇らしい仕掛け、とでも言えばいいんでしょうか。見えないものの気配を表現するための光と影のコントラストの出し方、カーテンを揺らす風などシンプルでストレートな手法を、緻密に計算して使う、というようなことが色々と試せたんです。それは美術や照明、音響の方の協力あってのことなんですが、「演劇は本来、こんな風に素直に楽しんでつくっていいんだ」というようなことに、改めて気づけたのも個人的な収穫です。結果、普段は私の演出する舞台を「長い、暗い」と文句ばかり言う私の家族にも「これを越える作品はない」とまで言ってもらえましたから(笑)。

小川絵梨子さん

前川:初めて稽古場に行ったときは、小川さんがあまりにいつも通りに緻密に演出していて、「子ども向け、全然意識してないじゃん……」と、自分のことを棚に上げて正直ビビッたんですが(笑)、子どもに媚びないつくり方で正解だった。

だからこそ、だれより正直でシビアな子どもたち、という観客が味方になってくれたんだと思います。今回ツアーで中部、関西、九州など色々な地域へ作品を持っていきますが、どの劇場でも必ず子どもたちがいる状態で作品を観て欲しいですね。

小川:本当に、この作品にとって子どもたちの存在はマスト。
より良く、楽しく観ていただくためにも、おとなの方たちには是非、子どもたちと一緒に来場していただきたいです。

前川:再演もキャストとスタッフ、全員が同じメンバー。だからこそできる進化と深化をめざしますので、初演をご覧になった方にもきっとまた、別の楽しさをみつけていただけると思います。

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