辻本知彦さん・森山未來さん率いるパフォーマンスユニット「きゅうかくうしお」。2010年の立ち上げ以来、常に時代の最先端を走ってきたふたりが、2年ぶりの新作『素晴らしい偶然をちらして』を引っさげて、横浜赤レンガ倉庫1号館に登場します。 彼らが求め、目指すものとは何なのか。
新作の上演に向けては、今年の5月に愛知県西尾市幡豆にてクリエイションを実施。さらに10月28日からは香港でクリエーションを予定しています。香港への出発に先立ち、稽古場で身体をぶつけ合うふたりにお話を伺いました。
*辻本さんの「辻」のシンニョウは点1つですが、環境によっては点2つで表示される場合があります。
まず「きゅうかくうしお」とは?
森山 元々は2010年にトモさん(辻本知彦さん)とふたりで立ち上げたユニットです。今回は、試みとして、スタッフも含めた9人全員がきゅうかくうしおのメンバーとなり、フラットな立場からクリエーションに関わり、作品を構築しています。
作品づくりに際しては、誰かがイニシアチブを取ることはやはり必要で、それはトモさんと僕の役割です。ただ、そこに至るまでのプロセスで、例えば照明や音響などのスタッフが“指示待ち”になってしまうことが多いのが気になっていました。日本ではそういった“縦の関係”はよくあることかもしれませんが、僕はそれを変えたい。最終的には僕らが決定を下すとしても、そこに至るまでのプロセスはフラットな関係でつくりたい。それぞれが自主的に提案しながら進める関係をつくりたいと思っています。
辻本 やるのならこの先10年を見据えて継続的にやりたいので、そのためにはできるだけメンバーを変えたくない、という思いもあります。
森山 僕たちが普段携わっている作品づくりの現場では、ひとつの作品が終われば解散するという一過性の関係で終わってしまうことが多いんです。その環境を継続的なものにして、固定メンバーで作品を打ち出していくことがどこまでできるか、という試みでもあります。
おふたりは2010年から一緒にやってこられましたが、関係性は変わりましたか?
辻本 いろいろ変わってきましたね。一番変わったのは、相手の才能に対して肯定的になったことかな。リスペクトすることによって発言の仕方や尋ね方が変わるし、つくり方も変わります。もちろん、出会った頃からリスペクトはありましたが、その裏返しで「否定」もありました。「素晴らしいけれどそこは違うと思う」というような。
森山 批評というか、批判的な視点が強かったかもしれません。お互いの作品を観に行って、その度に「あれはどうだった」「そんなのアカン」と言い合っていましたから。そんな関係性でいるのなら、一緒にやってみた方がいいんじゃないか。「きゅうかくうしお」は、そんなトモさんの提案で立ち上がったんです。
辻本 ふたりでつくるのなら批判はしないだろう、という“共同責任”みたいな発想かな。
森山 確かに、2010年に一緒にやってから関係性が変わりましたね。批判の無駄打ちがなくなった(笑)。
辻本 仲が悪いわけじゃないんですけど、芸事に対して切磋琢磨しているので、褒めるより批判が多くなりがちだったのだと思います。
森山 僕はトモさんに出会った頃からいろんな刺激をいっぱい受けて、いろんな言葉が僕の中で引っかかって、それが自分の身体をイメージさせる要素になってきた。そこからいろんな経験を重ねて、自分で主体的にパフォーマンスを立ち上げて来ました。
トモさんはトモさんで、以前は誰かに振り付けをするより、自分自身がダンサーとしていることが中心だったのが、今は自分で踊りもするけれど振り付けも積極的にする。だから、以前とは違った視点で関わっている感覚があります。
前回公演を行った2017年は、今とはまた意識が違ったと思うし、僕自身もまだ経験値が低かった。僕としては、トモさんの前で踊ることに緊張感みたいなものがまだあって、その中でいろんな対話があって、そこから生まれた作品が面白かったと思っています。
それから2年。今はまた違う対話が生まれている気がしています。
言わなくてもわかる、みたいな感覚?
森山 それはないですね。言わないとわからない(笑)。
辻本 批評・批判というより、協力してやっている、という感じかな。お互いに“ひとつのものをつくっている”という思いがあるから。
森山 はじめからこうなると思って9人にしたわけじゃないんです。少なくとも僕はそうではなかった。でも、9人にすることで「僕ら2人の関係値だけで作品が動くわけではない」いう意識になりました。つくる側として俯瞰的にみている部分もあるし、そこにあえて主観的に入り込む視点もある。トモさんの前で踊ることに緊張感がなくなったわけではないのだけど、ふたりではなく8人と対峙することで、そこから立ち上げなきゃいけない身体が、別の感覚としてある。
愛知県西尾市幡豆のクリエーションで、田植え作業を体験しました
辻本 田植えや稲刈りなど、日本人がやってきた“仕事の動き”を体験したかったんです。何年も前から言い続けていたのが、今回やっと実現しました。
森山 そうだね、9人で合宿できてすごく良かった。今の僕らにとって農作業は遠い存在になっていますが、やはり農耕民族として立ち上がってきた人間だと思っています。だから、日常的な動きの中にも土に根ざした動きが多い。それを考えると「まず田んぼに入らなくちゃ」という、日本人らしい身体とは何か? を体感してみたい願望が、ずっとありました。
《今年5月、愛知県西尾市幡豆でアーティスト・イン・レジデンスを実施。最終日にはお世話になった地域の人々を招いて、田んぼの中でショーイングを行った》
泳いでます?
辻本 泳いではいません(笑)。
森山 僕はちょっと泳いだかな(笑)。意外だったのは、泥に泥の味がしないこと。水田の水が口に入ったら、吐き出しそうな泥っぽい臭いがすると思っていたのだけど、まったく嫌な臭いがないので驚きました。
辻本 はじめは「ちょっと汚いかな」という印象だったけど、雑草を取り払って耕していくうちに、綺麗になっていくのを感じました。
それと、ぬめり。メンバー全員で詠んだ川柳の一節にもあるけど「ふむ ぬめる」という動作が忘れられません。足を踏みしめる時の動きは、実際にあの体験があるかどうかで変わるし、意味が違ってくると思う。ずっと着目していたので、「やった」という達成感がありました。
もうひとつ。映像には写っていませんが、あの時は周りにお客さんがいて、大笑いしていたんです。僕らはストイックに身体を表現するけれど、その両極として痛快で面白いことができて良かったな、と思っています。
森山 根源的な部分でね。
辻本 観てくれた人たちが喜んでくれたのが、嬉しかったですね。僕と彼が対峙してステージに立つと、独特の緊張感のような空気が生まれると思うんです。その対比として、僕らには違った魅力もあることを再認識できた気がします。ユーモアがある部分を素直に出せた。
今回はどんな作品になりそうですか?
辻本 僕の個人的な意見としては「今まで観たことがないものをつくるから、観に来てよ」という感じでしょうか。新しいものは定義が定まらないから、お客さんも戸惑うかもしれないけれど、「あ、観たことない」と言われるものをつくりたいと思っています。
森山 僕が目指したいのは「今、ここで観客に対峙している僕らだからできる現象を、どう作品に落とせるか」。
抽象的ですね。では一言で。
ダンスパフォーマンスを観に来てください!
辻本知彦
大阪府出身。幼少期にダンスを始めず、小学校からバスケに没頭し数々の成績を収める。18 歳の 時にダンスとスノーボードを始め、1997 年渡米後、自ら海外を転々とし 2007 年シルク・ドゥ・ソ レイユにて日本人男性ダンサーとして初めて起用される。その後『Michael Jackson The Immortal World Tour』27 カ国 485 公演を成功させる。現在、振付家としても活躍をしている。
森山未來
兵庫県出身。演劇、ダンスといったカテゴライズに縛られない表現者として活動。
2013 年には文化庁文化交流使としてイスラエルに 1 年間滞在、インバル・ピント&アヴシャロ ム・ポラック ダンスカンパニーを拠点にヨーロッパ諸国にて活動。
第 40 回 日本アカデミー賞助演男優賞受賞。第 10 回 日本ダンスフォーラム賞 2015 受賞。
★こちらのイベントは終了いたしました。
きゅうかくうしお
『素晴らしい偶然をちらして』(世界初演)
[日程]2019年11月22日(金)〜12月1日(日)
[会場]横浜赤レンガ倉庫1号館 3Fホール
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★プレゼントの応募は終了いたしました。たくさんのご応募ありがとうございました。
【プレゼント応募概要】
横浜赤レンガ倉庫1号館 3Fホールで開催される「きゅうかくうしお『素晴らしい偶然をちらして』(世界初演)」の観覧チケットを、下記公演ごとに1組2名様にプレゼントいたします。
■11月26日(火)19:00〜 1組2名様
■11月27日(水)19:00〜 1組2名様
■11月28日(木)19:00〜 1組2名様
【応募方法】
観覧チケットプレゼントご希望の方は、下記の応募フォームから、いずれかの日時をお選びいただきご応募ください。皆様のご応募をお待ちしております。
【応募〆切】
2019年11月10日(日)24:00まで
【抽選・当選発表】
ご当選者にはメールにて通知させていただきますので、迷惑メール設定などにご注意ください。メールは、マグカル・ドット・ネット運営事務局(info.magcul@gmail.com)からのご連絡になります。
★当選発表は、上記メールでの当選連絡をもって代えさせていただきます。公演当日、会場の「横浜赤レンガ倉庫1号館 3Fホール」受付にて、当選通知メールをご提示ください。スタッフよりチケットをお渡しいたします。
※いただいた個人情報は抽選以外の目的には一切使用いたしません。