「決定的な1枚には想いのすべてが集約される。それが“写真の力”」 篠山紀信スペシャルインタビュー:『篠山紀信展 写真力 THE PEOPLE by KISHIN』
篠山:美空ひばりさんは、最晩年の写真ですね。身体が悪くてスタジオに行くのも大変だということで、レコードジャケットを自宅で撮ってくれという依頼があった。そこで、自宅にお邪魔して写真を撮らせてもらったんですね。ジャケット写真はまた違う部屋で撮ってたんですけど、ふと隣の部屋を見たらば、すごく大きな仏壇とお花と……後ろに遺影が壁にかかっていてね。お父さん、お母さん、兄弟の。ひばりさんのご家族はほとんど、彼女より先に亡くなられたんですよね。いやぁ、すごい部屋だなと思って、「ここで写真1枚撮らせてもらえませんか?」とお願いしたら、「いいですよ」と。
――偶然撮影できた写真だったんですね。
篠山:そう、どこに発表するというわけではなく、撮ったものでした。ひばりさんが亡くなられてすぐの頃に、雑誌に出たことはあります。
――大変貴重な作品ですね。
篠山:あれを撮影した頃も、ひばりさんはあまり体がよろしくなくてね。和室なのに椅子に座ってらっしゃったでしょう? もう座布団に正座ができなかったんですよ。たしか、それから1年くらいで亡くなられたんじゃないですかね。そして、その横のほうにもう1枚、ひばりさんの小さな写真がありましたよね? ご自宅のソファで撮ったものなんですが、それが横浜会場限定の写真です。
――横浜では、ひばりさんの他にどんな方の写真が特別に見られるのでしょうか。
篠山:ゆず、草笛光子さん、三浦大輔さんと竹内力さん、束芋さん、そして小池栄子さんですね。小池栄子さんは、横浜の人ではないんですけど、横浜をテーマに小池さんのDVDを撮影したときの1枚です。赤レンガ倉庫の前で撮ったんですよ。赤レンガのライティングがとてもキレイですね。
――ちなみに、横浜の街で篠山さんがフォトジェニックだと思われる場所はどちらですか?
篠山:フォトジェニックな場所はたくさんありますよね。僕なんかがよく撮影で使うのは、外国人墓地があるあたり。洋館がハウススタジオになっているんですよ。そこで撮影することは多いですね。
――ゆずの写真の、ナチュラルな雰囲気も素敵でした。
篠山:そうですね。ゆずのふたりに囲まれて写ってる女の子は“ゆっぴ”さんといって、撮影当時(2008年)はまだ10代で、ストリートで歌を歌っていたんですよね。そのゆっぴさんが、この展覧会を観に来てくれてね。今は歌はやっていないくて、大学合格を目指して勉強中らしい。医者になりたいって言ってたね。
――ご本人も感慨深かったでしょうね。草笛光子さんの写真は、どのように撮られたものですか?
篠山:草笛さんの写真は、『家庭画報』という雑誌のファッションページですね。
――撮影年が2016年。つい最近なんですね。
篠山:そう。草笛さんも僕もずいぶん長いことやってるのに、初めての撮影でね。とてもいい感じになっていて……さすがベテランです(笑)。